2010年12月31日金曜日

中国五代国家論

山崎覚士『中国五代国家論』(思文閣出版、2010年11月)

日本に殆ど存在しない五代十国時代の専門書。
第一部(天下のうち篇)と第二部(天下のそと篇)にわかれている。
目次は以下の通り。

序論「五代政治史研究の成果と課題」
第一部 天下のうち篇
第一章「五代の「中国」と平王」
第二章「五代「中国」の道制 ―後唐朝を中心に― 」
第三章「呉越国王と「真王」概念―五代天下の形成、其の一― 」
第四章「五代における「中国」と諸国の関係―五代天下の形成、其の二― 」

第二部 天下のそと篇
第五章「九世紀における東アジア海域と海商―徐公直と徐公祐―」
第六章「唐末杭州における都市勢力の形成と地域編成」
第七章「未完の海上国家―呉越国の試み―」
第八章「港湾都市、杭州―五代における都市、地域、海域―」
結論「五代天下のうちとそとの形成」

五代十国時代は、単なる分裂時代ではなく、
「五代天下秩序」ともいうべき世界秩序が形成されていたとする。
また、その秩序の形成要因として、
地域経済の発展と全国的商業流通の存在を指摘している。

呉越国に焦点をあてつつ、五代十国時代の天下観・世界秩序の問題に
迫っていて、大変参考になりました。

2010年12月30日木曜日

海を渡った騎馬文化

諫早直人『海を渡った騎馬文化―馬具からみた古代東北アジア―』(風響社、2010年11月)

風響社のブックレット《アジアを学ぼう》の⑰。
朝鮮半島・日本列島における馬・騎馬文化の受容について考察。
日本だけでなく、韓国の「騎馬民族説」にも言及した後、
慕容鮮卑・朝鮮三国・加耶・倭の馬具を比較して、
「騎馬民族説」の問題点を指摘し、
「新しい騎馬文化伝播モデル」を提示している。

慕容鮮卑の装飾騎馬文化が、なぜ東北アジア各地に
広まったのかについても言及し、東晋とは異なる独自の世界秩序を
可視的に表現しようとしたのではないかとする。

日本だけでなく、朝鮮半島・慕容鮮卑(特に前燕)にも
視野が及んでいて刺激的。
韓国にも「騎馬民族説」があるとは知らなかった。
しかも有力な仮説の一つになっているとは。

2010年12月27日月曜日

平成22年度國學院大學文化講演会

平成22年度國學院大學文化講演会
「円仁石刻と古代の日中文化交流―法王寺釈迦舎利蔵誌の史料性と史実―」
日時:2011年1月23日(日)9:30~
場所:渋谷キャンパス 120周年記念2号館1階2104教室
 *参加多数の場合は、2号館1階2101教室で同時中継。
資料代:500円

講演・報告
10:10~11:10 斉藤圓眞「日中文化交流史上の円仁と天台」
11:10~12:00 酒寄雅志「法王寺釈迦舎利蔵誌の史料性と解釈」
13:00~13:50 田凱「法王寺舎利塔地下宮殿の発掘調査」
13:50~14:40 呂宏軍「嵩山の寺院・石刻と交通」
14:50~15:10 氣賀澤保規「隋唐の仏教と石刻」
15:10~15:30 肥田路美「舎利信仰と舎利塔・荘厳具」
15:40~16:00 石見清裕「唐代石刻の避諱と空格」
16:00~16:20 佐藤長門「入唐僧の情報ネットワーク」
16:40~18:30 討論

国学院大学エクステンション事業課に要申込。
申込締切:2011年1月13日(木)必着

2010年12月25日土曜日

契丹(遼)後期政権下の学僧と仏教

藤原崇人「契丹(遼)後期政権下の学僧と仏教―鮮演の事例を通して―」(『史林』93-6、2010年11月)

契丹(遼)の道宗期に活躍した僧侶の鮮演の事績について、
1986年に発見された「鮮演墓碑」を中心に考察。
契丹後期の学僧と遼皇帝・支配層との関係や、契丹と高麗間における仏教典籍(鮮演の著作)の流通形態の多様性について明らかにしている。

2010年12月21日火曜日

立教大学日本学研究所第41回研究会

立教大学日本学研究所第41回研究会
日時:2011年1月21日(金)17:00~
場所:立教大学池袋キャンパス7号館7202教室

報告
高陽「東アジアの須弥山図~敦煌本とハーバード本を中心に」
李銘敬「遼の非濁をめぐる」

2010年12月19日日曜日

中國古代の財政と國家

渡邊信一郎『中國古代の財政と國家』(汲古書院、2010年9月)

汲古叢書91。
漢代から唐後半期までの財政と国家構造について論じている。
第一部「漢代の財政と帝国」
第二部「魏晋南北朝期の財政と国家」
第三部「隋唐期の財政と帝国」
の三部構成のもと、序説+十六章(補論含む)となっている。

まずは第二部・第三部から読んでいるが、なかなか読み終わらない。
苦手意識とかなんとかいってる場合じゃないなぁ。しっかり読みこまねば。

ちょっとばかり

いろいろと懸案事項が片付き、
さぁ、研究だ! とならなきゃいけないのですが、
なんだか、ちょっとばかり、気合いがぬけちゃってます。
いや、ここまでじゃありませんが。

2010年12月18日土曜日

華竜の宮

上田早夕里『華竜の宮』(早川書房、2010年10月)

ハヤカワSFシリーズ Jコレクションの一冊。このブログでは、これまで小説の類は紹介してこなかったので、書くか迷ったのですが、他に媒体もないので書いてみます。SF小説に興味ない方は飛ばしてください。


先日見に行ったトランスフォーメーション展の影響で、なんだか無性にSF小説が読みたくなってしまい、いくつか立ち読みした中で、おもしろそうだと思って購入。

海底隆起で、多くの陸地が水没した25世紀が舞台。未曾有の混乱を乗り越えるため、積極的に生命操作技術を活用し、人体に応用していった結果、海に適応した海上民が誕生。陸上民と海上民の確執、各国家連合の思惑、そして再び大変動の兆しが……。

まさしく、「変身―変容」の世界。久しぶりにSF小説を読んだけど、引き込まれて、586頁を一気に読んでしまった。


で、今回の小説の舞台はアジア海域。日本政府の末端外交官が主人公なのだけど、中国系の人々も多数登場する。こちらもなかなか魅力的。ただ、SF小説の中の中国系政府は、たいてい非人道的に描かれているが、『華竜の宮』でもひどいことばかりやっている。プロローグで描かれる混乱期には、殺到した避難民を殺戮する人工知性体(殺戮知性体)を世界で初めて発明している。なんだかコードウェイナー・スミスのマンショニャッガー(=人間狩猟機)みたいな設定(なお、1950年代に書かれたためか、こちらはドイツ人が発明)。本編でも、中国が中心となっている〈汎アジア連合〉は、海上民の虐殺に乗り出している。

ここがどうも気にかかる。
SF小説は、未来を扱うことが多いのだけど、当然のことながら、小説が書かれた時期の国家イメージが反映されてしまう。多分、昔は中国が出てくることすらあまりなかったのではなかろうか。その昔、ドイツやソ連が荷っていた(であろう)SF小説中の役割を、今は中国が荷っているのかもしれない。欧米や日本で傾向が違うかもしれないし、そんなにSF小説読んでないから、実際のとこはわかりませんが。調べてみたら面白いかも。

ちなみに、日本政府は相変わらず、官僚主義な上に、汎アジア連合ではなく、欧米・太平洋連合の〈ネジェス〉に加入している。まぁ、これは現在の状況そのままですね。

2010年12月16日木曜日

オランダのアート&デザイン 新・言語

東京都現代美術館で開催中のトランスフォーメーション展のついでに見た
「オランダのアート&デザイン 新・言語」展。
全然期待してなかったのですが、なかなかよかったです。
「人とモノとの関係、そして人と人とのコミュニケーションを問いかける」
オランダのアーティスト/デザイナー4名を紹介する展覧会。
地下一階のみの展示で、ずいぶんこじんまりしている。

インパクトあったのが、マーティン・バースの家具。
                作家:マーティンバース CC/BY-NC-ND
生まれたての小鹿、または、よぼよぼの宇宙生物みたいな机。

                          作家:マーティンバース CC/BY-NC-ND
表面がゆがみまくっている衣装棚。

                作家:マーティンバース CC/BY-NC-ND
一分ごとに人が分針を消したり書いたりする時計。

正直、使い勝手はあんまりよくなさそうだけど、
なんだか楽しくなってくるデザイン。


続くマルタイン・エングルブレクトの作品(5点のインスタレーション)は、
人とのコミュニケーションをテーマにしたもの。
迷惑な電話セールスをけむにまく「迷惑電話撃退マニュアル」や、
隣人とのコミュニケーションを円滑(?)にすすめるための
グッズを販売する「ご近所ショップ」などなど、
ちょっとしたブラックユーモアが効いていて、かなり面白い。


トランスフォーメーション展とは一転して、
シンプルであっさり見ることができ、
ユーモアあふれる作品ばかりで純粋に楽しい。

ただ、ネックはお値段……。
こちらの展覧会だけだと、一般1100円・学生850円。
トランスフォーメーション展があれだけたくさん展示していて、
一般1300円・学生1000円となると、ちょっと割高な気がしないでもないです。
セット券(一般1800円・学生1400円)で入ったほうがいいかもしれません。


会期:2010年10月29日~2011年1月30日
休館日:月曜日、12月29日~1月1日、1月11日
開館時間:10時~18時

2010年12月15日水曜日

ヒトの進化七〇〇万年史

河合信和『ヒトの進化七〇〇万年史』(ちくま新書、2010年12月)

古人類学に関する著書が多数ある科学ジャーナリストによる
最新の人類学概説書。デニーソヴァ人の発見や、
ネアンデルタール人と現生人類の交雑の可能性など、
今年、報告された最新情報を取り込んでいて、ざっと人類史をみるのに便利。

なお、北京原人・ジャワ原人(両方とも学名はホモ・エレクトス)は、
「人類進化学的観点からは傍系にすぎない」として、殆ど触れられていない。

トランスフォーメーション

現在、東京都現代美術館で開催中の
トランスフォーメーション展に行ってきました。
テーマは「変身―変容」。
文化人類学者の中沢新一が共同プロデュースしてます。

この展覧会、前から知ってたのですが、
どうにも食指が動きませんでした。原因はポスター。
著名なアーティストであるマシュー・バーニーの作品が
ポスターになっているのですが、なんとなく苦手な雰囲気。
迷いに迷って、今回やっと見に行くことに。

参加アーティストは15カ国21組。
三階・一階・地下一階と展示スペースがかなり広く、
しかも映像作品が多いので、全部見るのに結構時間がかかります。
結果的に2時間半くらい滞在しました。

印象に残った作品は以下の通り。
マーカス・コーツ《ローカル・バード》:人間に鳥の鳴真似をさせて、
 映像の速度を上げることで本物の鳴き声っぽくみせる作品。
スプツニ子!の作品:生理の疑似体験マシーンや
 カラスとのコミュニケーションなど。
変容人類研究室(名前はうろ覚え):正式な出展作品ではなく、
 アーカイヴコーナーなのだけど、古今東西(旧石器時代から現在まで)の
 様々な「変身―変容」の事例をパネル形式で紹介している。
 映画・マンガ・浮世絵・祭祀・民族文化・壁画・ロボットなどなど。
 今回の展示で一番面白かったです。

個人的な感想をいうと、作品はいろいろあるのだけど、
どうにも全体的にグロテスクで雰囲気が暗い。
なんだかユーモアが足りないような気がしてしまった。

確かに、人間と何か(動植物・無機物)の融合、
人間から何かへの変容というテーマは、
昔から重たいもの、暗いものだと相場が決まっている。
そのことは、変容人類研究室の紹介を見てもよくわかる。

……ということは、今回の展示も昔ながらの枠組みを
超えてないということになりやしないだろうか。
それだったら、SF小説の方がぶっ飛んだ「変身―変容」たくさんあるし。
例えば、コードウェイナー・スミスの人類補完機構シリーズとか、
日本では神林長平・北野勇作・大原まり子などなど。


ポスター見たときの直感に従っておけばよかったと反省。
ただ、同時開催の「オランダのアート&デザイン新・言語」が、
予想以上におもしろかったので、まぁ、行ってよかったです。
こちらの感想は後日。

トランスフォーメーション
会期:2010年10月29日~2011年1月30日
休館日:月曜日・12月29日~1月1日
開館時間:10時~18時
観覧料:一般1300円・学生1000円

2010年12月12日日曜日

北朝・隋代の無量寿・阿弥陀像銘

倉本尚徳「北朝・隋代の無量寿・阿弥陀像銘―特に『観無量寿経』との関係について―」(『仏教史学研究』52-2、2010年3月)

北朝・隋代の造像銘における無量寿・阿弥陀像銘の地域的・時代的相違を考察し、北斉時代から阿弥陀信仰が明確化することを指摘。
さらに北斉の阿弥陀像銘に『観無量寿経』に基づく表現が多く見えるとし、
阿弥陀信仰の普及には、太行山脈一帯で活躍した禅師の影響が大きいのではないかとする。

倉本氏は、近年、積極的に北朝時代の仏教石刻史料(造像銘など)を用いて、
仏教史研究をすすめている。造像銘には、高次元の仏教理解とはまた違った、
当時の庶民の仏教信仰の様子が反映されている。
今後、ますます造像銘などを用いた研究が盛んになってほしい。

2010年12月11日土曜日

唐代郷里制下における里正の治安維持活動

石野智大「唐代郷里制下における里正の治安維持活動」(『駿台史学』140、2010年8月)

唐代郷里制下の村落行政で、中心的役割を果たした里正に焦点をあて、
まず里正の別称(里長・里尹・里胥)を確認したうえで、
その治安維持活動の具体像に迫っている。

近年、中国では唐代の末端地方行政の研究が盛んに進められているのに対し、
日本では90年代以降、めっきり研究が減ってしまっている。
21世紀にはいって、史料や研究状況が変わってきているので、
研究が増えてもいいと思うのだけど。

池田学展「焦点」

現在、ミヅマアートギャラリーにて開催中の池田学展「焦点」に行ってきました。
ミヅマアートギャラリーは、飯田橋と市ヶ谷の間にあるギャラリー。
倉庫みたいなシンプルな外観。

今回、個展が開かれている池田学は、
壮大で緻密なペン画を生み出しているアーティスト。
「興亡史」(2006年 200cm×200cm)や「予兆」(2008年 190cm×340cm)
といったど迫力の大作で知られています。

今回の個展では、一転して22cm×27cmと小さな作品にチャレンジ。
壮大で緻密な世界はそのままに、ギュッと凝縮した感じ。

個展のタイトル「焦点」は、これまでの大作とは逆に、
「小さな部分にも焦点を当て、そこから外に広がっている世界を想像する」
ことからきているそうです。

個展の顔ともいえるポストカードに選ばれた作品は「Gate」。
荒れすさぶ海の中に、ぽつんと存在する堤防と、ぽっかりあいた穴。
そのなかには、高速道路を行きかう車、ビルの夜景。
この不思議な世界、一見しただけで引き込まれてしまう。
まさにコンセプトを体現した作品です。

作品は全部で20点。
いずれも日常的感覚からすこしずれた、
奇妙でちょっと不穏な世界が描かれている。
しかも、細部まで作りこまれていて、
たった22×27cmなのに、様々な発見・物語がある。

お気に入りは、Gate、擬態、Bait、海の階段、famer's tank。
他の作品に比べると地味だけど、Fall lineと波もいい感じ。
本筋とは関係ないが、絵のどこかに潜んでいる
著者の名前(学)を探すのも楽しい。

かなりおすすめです。

なお、今月、羽鳥書店より、初画集『池田学画集1』が出版されました。
1年以上かけて制作されたという「興亡史」・「予兆」などの大作や
最新作を含め45点収録されてます。
池田学展ではサイン本を購入できます。こちらもみていて飽きません。

池田学展「焦点」
MIZUMA ART GALLERY(神楽ビル2階) 
飯田橋徒歩8分・市ヶ谷徒歩5分
2010年12月8日(水)~2011年1月15日(土) 11時-19時
休廊日:日・月・祝日 冬季休廊12月26日~1月6日
無料

2010年12月9日木曜日

学習院大学東洋文化研究所主催講演会

学習院大学東洋文化研究所主催講演会
日時:2010年12月10日(金)18:00~20:00
会場:学習院大学・中央教育研究棟国際会議場(12F)
講演:王維坤「西安で発掘されたソクド人墓の最新研究」

2010年12月3日金曜日

新アジア仏教史05中央アジア

奈良康明・石井公成編集委員『新アジア仏教史05 中央アジア 文明・文化の交差点』(佼成出版社、2010年10月)

最初は買うか迷っていたのですが、目次をみてやはり購入。
西域南道・北道やトルファン・敦煌の仏教の状況、
仏教美術がまとめられていて、とても勉強になります。

目次は以下の通り。
第一章「インダス越えて―仏教の中央アジア」:山田明爾
第二章「東トルキスタンにおける仏教の受容とその展開」:橘堂晃一
第三章「中央アジアの仏教写本」:松田和信
第四章「出土資料が語る宗教文化―イラン語圏の仏教を中心に―」:吉田豊
第五章「中央アジアの仏教美術」:宮治昭
第六章「仏教信仰と社会」:蓮池利隆・山部能宜
第七章「敦煌―文献・文化・美術―」:沖本克己・川崎ミチコ・濱田瑞美

特に第三章「中央アジアの仏教写本」がおもしろかった。
20世紀における中央アジアの仏教写本の発見史を述べた後、
1996年の新発見仏教写本(1世紀頃・アフガンで発見)公表後、
様々な言語・文字・内容の写本が続々と出現している状況が記されています。
その原因はアフガン内戦からアメリカのアフガニスタン侵攻、
そして現在に至る混乱で、盗掘が横行したことにあるようです。
そのため、正確な出土地がわからないようですが、2003年と2006年には正式調査によって、バーミヤーンの石窟から仏教写本が発見されたそうです。
現在進行形で次々に新たな研究テーマが生れていく様子がうかがえます。

2010年12月2日木曜日

東アジアの兵器革命

久松崇『東アジアの兵器革命―十六世紀中国に渡った日本の鉄砲―』(吉川弘文館、2010年12月)

朝鮮の役を契機に日本から明朝に伝播した鉄砲を切り口として、
16~17世紀の東アジアにおける兵器革命を描いている。
16世紀明朝に普及していた火器から日本の火縄銃や新式火器への変容、
明朝における制度的限界と後金の積極的受容の様子が示されている。
日本人捕虜(日本降夷)が家丁などに編入されて、
楊応龍の乱やモンゴル・女真との戦いに参加し、
火器の普及に一役買っていたとは驚きました。
東アジアにおける人的移動・交流の研究としても見ることができると思います。

2010年12月1日水曜日

検証「前期旧石器遺跡発掘捏造事件」

松藤和人『検証「前期旧石器遺跡発掘捏造事件」』(雄山閣、2010年10月)

奥付を見ると、岡村道雄『旧石器遺跡捏造事件』(山川出版社、2010年11月)よりも前に出ている。う~ん、気付かなかった。
著者の松藤和人氏は、西日本に基盤を置く旧石器研究者。
藤村新一氏と関係が希薄だったことから、
発掘捏造事件を比較的冷静に叙述している。
その分、インパクトは弱い。
ただ、「前、中期旧石器問題調査研究特別委員会」における
東北大閥と明大閥の対立などの内幕を書いていて興味深い。
また、最後に前期旧石器遺跡と目されている
岩手県金取遺跡・島根県砂原遺跡を紹介しているが、
疑義が呈されている点にはさして触れていない。

2010年11月30日火曜日

古語の謎

白石良夫『古語の謎―書き替えられる読みと意味―』(中公新書、2010年11月)

古語の歴史ではなく、「古語認識の歴史」を通して、
江戸時代の「古学」、さらには「古語とは何か」を語っている。
柿本人麻呂の歌(『万葉集』巻一・48番目)「東野炎立所見而反見為者月西渡」の読み方、『徒然草』にみえる「おこめく」は「おごめく(蠢く)」なのか、
といった具体的な問題を扱う一方で、
江戸時代の古学の歴史もバランス良くまとめていて読みやすい。
学問の発展によって、かえって古語が創り出されることもあるという指摘は、
他人事ではないような気がする。

2010年11月27日土曜日

藤原道長の摺本文選

池田昌広「藤原道長の摺本文選」(『鷹陵史学』36、2010年9月)

藤原道長の日記『御堂関白記』に登場する摺本注文選(五臣注本)の版本を推定し、当時の宋刊本受容の意義に言及している。

2010年11月25日木曜日

冼星海伝小考

平居高志「冼星海伝小考―パリ遊学時代を中心として―」(『集刊東洋学』104、2010年10月)

中国において、国家作曲者の聶耳と並ぶ有名作曲家である
冼星海の遊学時代の事績を再検討している。
この論文で初めて冼星海を知りましたが、
中国では神格化が進んでしまい、自身の回想などに頼ってしまっていて、
正面から事績が再検討されていないようです。

パリ遊学時代の所属学校や師弟関係などを詳細に検討し、
「音楽歴をより華やかで権威あるものとする」回想の特徴を浮き彫りにしている。
その背景に共産党への入党が関係していた可能性を指摘している。

『続「訓読」論』

中村春作・市來津由彦・田尻祐一郎・前田勉編『続「訓読」論―東アジア漢文世界の形成―』(勉誠出版、2010年11月)

2008年に出た『「訓読」論―東アジア漢文世界と日本語』の続編で、
これまたにんぷろの成果。
第Ⅰ部:東アジアにおける「知」の体内化と「訓読」
第Ⅱ部:近世の「知」の形成と「訓読」―経典・聖諭・土着―
第Ⅲ部:「訓読」と近代の「知」の回廊―文学・翻訳・教育―
合計16本の論文が並ぶ。前回と違って、日本だけでなく、
朝鮮半島や満洲語も取り上げられている。

特に印象深かったものは、
中村春作「琉球における「漢文」読み―思想史的読解の試み―」と
川島優子「白話小説はどう読まれたか―江戸時代の音読、和訳、訓読をめぐって―」。
中村論文は、琉球における多層的な言語状況と変遷についてまとめている。
川島論文は、江戸後期の金瓶梅読書会が残した史料を用いて、
当時、どのように白話小説を読んでいたかを明らかにしている。

2010年11月22日月曜日

秋の空き地で

近所の猫屋敷で今年も子猫誕生。
空き地で毎日元気にじゃれあってます。
ねこじゃらしがなかったので、草の茎で代用。
十分、遊んでくれます。

2010年11月21日日曜日

シンポジウム東洋史学100年からの展望

シンポジウム東洋史学100年からの展望
日時:20101211日(土)13:3017:00
場所:東京大学文学部一番大教室(法文二号館二階) 
主催:東京大学東洋史学研究室

報告者:佐藤次高・弘末雅士・小嶋茂稔・太田信宏
ディスカサント:羽田正・桃木至朗
特別演奏:古箏奏者 姜小青

報告タイトルが発表されていないのが残念。
どんなシンポジウムになるのか気になります。

水島司編『アジア遊学136 環境と歴史学』

水島司編『アジア遊学136 環境と歴史学 歴史研究の新地平』(勉誠出版、2010年9月)

近年、急速に研究が進められている環境史の特集号。
第一部「環境と歴史学へのアプローチ」、
第二部「環境と地域史」のもと、23の論文が並んでいる。
一口に環境史といっても、多様な切り口があることを実感。
問題意識もきわめて明確。なんだかちょっと気後れしてしまう。

2010年11月18日木曜日

洛陽学国際シンポジウム

洛陽学国際シンポジウム―東アジアにおける洛陽の位置―
(唐代史研究会2010年度秋期シンポジウム)
会場:明治大学駿河台校舎リバティタワー10階1103教室
日時:2010年11月27日(土)13:00~17:30、28日(日)9:30~17:00

11月27日(土)報告13:00~17:30
氣賀澤保規「開会挨拶、洛陽学シンポジウム趣旨説明」
塩沢裕仁「洛陽・河南の歴史地理と文物状況」
岡村秀典「中国のはじまり―夏殷周三代の洛陽」
石黒ひさ子「後漢刑徒墓磚について」  
   休憩(15時15分~15時30分)
落合悠紀「曹魏洛陽の復興と「正始石経」建立」
佐川英治「漢魏洛陽城研究の現状と課題」        
討論・質疑  コメンテーター:王維坤

11月28日(日)報告9:30~17:00
小笠原好彦「日本の古代都城と隋唐洛陽城」   
車崎正彦「三角縁神獣鏡と洛陽」
酒寄雅志「嵩山法王寺舎利蔵誌と円仁」 
  昼食(12時~13時)
毛陽光「洛陽近年出土唐代石刻の概要と新成果」
肥田路美「龍門石窟と奉先寺洞大仏」
氣賀澤保規「洛陽と唐宋変革と東アジア」   
  休憩(15時15分~15時30分)
コメント・討論:「洛陽学」の可能性について
 コメンテータ一:妹尾達彦・高明士

2010年11月12日金曜日

マニ教

青木健『マニ教』(講談社、2010年11月)

講談社選書メチエよりマニ教の概説書がでました。
なお、書名は「マニ教」となってますが、
本文中では一貫して原音に近い「マーニー教」としています。

第一章はマーニー教研究資料の発見史、
第二章はマーニーの生涯、第三章はマーニー教の教義、
第四章~第八章はマーニー殉死後のマーニー教史。
第八章では中国におけるマーニー教について紹介。
マーニー教の教義と歴史がよくわかる一冊。

各地の様々な時代・言語の文献から、
今は亡き宗教を研究する難しさとおもしろさが伝わってくる。
マーニー教と先行宗教との関係性もまとめられていて、
なかでもゾロアスター教との関係がとても興味深い。
従来、マーニー教の善悪二元論は、
ゾロアスター教の影響で成立したものとされていたが、
近年の研究では、むしろ、一神教的だったゾロアスター教が、
マーニー教の影響で二元論的教義に変化していったと理解されているらしい。

2010年11月11日木曜日

シンポジウム「源氏物語と唐代伝奇」

シンポジウム「源氏物語と唐代伝奇」
日時:2010年12月11日(土)13:00~18:00
場所:明治大学駿河台キャンパス リバティータワー13階 1136教室
主催:明治大学古代学研究所

報告
河野貴美子「古註釈からみる源氏物語と唐代伝奇」
芝崎有里子「落窪物語と遊仙窟」
新間一美「源氏物語と遊仙窟ー夕顔巻・若紫巻を中心にー」
日向一雅「明石巻の光源氏と明石君の出会いと別れー『鶯鶯伝』との比較ー」
陳明姿「唐代伝奇と『源氏物語』における夢物語ー「夢遊」類型の夢物語を中心にしてー」
仁平道明「『源氏物語』と唐代伝奇の〈型〉」

2010年11月8日月曜日

現代アート調査と考察

牧陽一「現代アート調査と考察 2008・2009 広州・上海・北京―消費されないこと Face up to Reality」(『埼玉大学紀要(教養学部)』45-2、2010年3月)

珍しく大学紀要に中国現代アート関連の論文が載っていたので紹介します。
著者は、『中国現代アート』(講談社、2007年2月)や
『アヴァン・チャイナ』(木魂社、1998年9月)などを上梓している
中国現代アートの研究者。

2008年・2009年に広州・上海・北京で見た展覧会・作品の解説。
鮮明な問題意識を持った作品を中心に取り上げている。
「政治体制」に属さず、現実を批判する力を持ち、
なおかつ「商品化」をも拒否する作品は、確かにかっこいい。

でも、ちょっと、「商品化」した作品や、問題意識の希薄な作品に対して、
否定的過ぎるような気がしないでもない。

東アジア海域叢書刊行開始

以前の日記でちょっとふれた「にんぷろ」科研の成果をまとめた
東アジア海域叢書全20巻の刊行が、先月はじまりました。
第一弾は山本英史編『近世の海域世界と地方統治』(汲古書院、2010年10月)。

以下にラインナップをまとめます。
井上徹編『海域交流と政治権力の対応』(12月発売予定)
勝山稔編『小説・芸能から見た海域交流』(2011年1月発売予定)
吉尾寛編『海域世界の環境と文化』(2011年3月発売予定)
市来津由彦他編『江戸儒学の中庸注釈と海域世界』(2011年4月発売予定)
須江隆編『碑と地方志のアーカイブズを探る』
平田茂樹・遠藤隆俊編『外交史料から十~十四世紀を探る』
高橋忠彦編『浙江の茶文化を学際的に探る』
松田吉郎編『寧波の水利と人びとの生活』
山川均編『寧波と宋風石造文化』
伊藤幸司・中島楽章編『寧波と博多を往来する人と物』
藤田明良編『蒼海に響きあう祈りの諸相』
堀川貴司・浅見洋二編『蒼海に交わされる詩文』
森平雅彦編『中近世の朝鮮半島と海域交流』
小島毅編『中世日本の王権と禅・儒学』
藪敏裕編『平泉文化の国際性と地域性』
横手裕編『儒仏道三教の交響と日本文化』
加藤徹編『明清楽の伝来と受容』
井出誠之輔編『聖地寧波の仏教美術』
藤井恵介編『大宋諸山図・五山十刹図 注解』

A5判上製箱入、平均350頁、予価各7350円。
近年、これだけの成果をあげた東洋史関連の科研費って、他にあるのだろうか。
量より質という意見もあるだろうけど、各論文もかなりおもしろそう。

第40回中央アジア学フォーラム

中央アジア学フォーラムのお知らせ(第40回)
日程: 2010年12月4日(土)13:30~18:00
場所:大阪大学豊中キャンパス・文法経本館・2階大会議室

[研究発表]
松田和信「アフガニスタンの仏教写本その後」
[論文紹介]
福島恵「張乃翥「洛陽景教経幢与唐東都”感徳郷”的胡人聚落」『中原文物』2009-2, pp. 98-106」(洛陽のソグド人に関する墓誌情報をからめて報告)」
[新刊紹介]
中田美絵「葛承雍(主編)『景教遺珍──洛陽新出唐代景教経幢研究』(北京:文物出版社,2009年刊)」

2010年11月5日金曜日

旧石器遺跡捏造事件

岡村道雄『旧石器遺跡捏造事件』(山川出版社、2010年11月)

旧石器遺跡捏造事件の「第一次関係者」に
位置付けられてしまった著者が語る旧石器遺跡捏造事件。
各遺跡における捏造の状況などを紹介し、
25年間にわたって、捏造を見抜けなかった背景を説明している。

疑問ある石器でも、自説に近ければ問題視せず、
合理化を図っていた様子が描かれている。

一般向けということで、詳細な分析などは無いし、
先日読んだ『旧石器捏造事件の研究』の疑問が
解消されるわけではないけれど、これはこれで、一気に読んでしまった。
212頁~216頁には、2009年末に藤村新一氏に会った時のある意味衝撃的な様子が記されている。結局、捏造事件については何も語らなかったらしい。

当事者が語らない(語れない)以上、
これ以上、事件の真相を追うのは難しいだろうなぁ。

ただ、『旧石器捏造事件の研究』や本書でも指摘されているように、
考古学界の一部で、捏造事件の教訓が生かされてない状況にあるのが怖い。

2010年11月4日木曜日

平成22年度白東史学会大会

平成22年度白東史学会大会
日時:12月4日(土)14:00~17:20
場所:中央大学駿河台記念会館330号室
報告
14:00~15:00 山元貴尚「前漢前半期における領域について」 
15:10~16:10 西川和孝「雲南省普洱における漢人移民と茶山開発について―清朝後期から民国期を中心にして―」
 16:20~17:20 妹尾達彦「ケンブリッジ東洋学の今日」   

2010年11月3日水曜日

旧石器捏造事件の研究

角張淳一『旧石器捏造事件の研究』(鳥影社、2010年5月)

不覚なことに、かなり前に出ていたのに気付きませんでした。
別の本を探していて、偶然発見。目次をみて即座に購入しました。

章立は次の通り。
第一章「旧石器捏造事件とはどんな事件か」
第二章「捏造事件の本質と構造」
第三章「石器研究法から見た捏造事件」
第四章「学史からみた捏造事件」
第五章「あとがきにかえて―捏造事件から未来の考古学へ」

衝撃の旧石器捏造事件の発覚から、10年が経とうとしています。
その後の「検証」で、1975年頃から約25年にわたる捏造が明らかとなり、
旧石器考古学が根底から覆されてしまいました。

さて、この事件については、毎日新聞の一連の記事と
毎日新聞の取材班がまとめた『発掘捏造』(新潮文庫、2003年6月、初版2001年)と『古代史捏造』(新潮文庫、2003年10月、初版2002年)を読んだだけです。2003年にぶあつい報告書が出たのは知ってましたが、考古学専攻ではないし、そもそも古書価格が高いこともあって読んでません。その後、いつしか興味も薄れ、関連書籍を追いかけることはしていませんでした。

本書の著者は、捏造発覚前に疑問を明示していた数少ない研究者の一人です。
今回、『旧石器捏造事件の研究』を読んで、別の意味で大きなショックを受けました。本書では、第一章で捏造事件と考古学協会特別委員会の「検証」のあらましを述べた後、第二章で詳細に捏造事件の構造について分析しています。

捏造事件はおおまかにみると、
前半期(70年代後半~90年代初頭)の公的機関による発掘下で行われた、
「理論」に合致した緻密な捏造と、
後半期(90年初頭~2000年)の東北旧石器文化研究所設立後の
縄文石器に酷似する石器を用いた雑な捏造の二期にわかれるとし、
様々な角度から前半期の捏造が根拠としたと思われる「理論」について詳細な検討を加えています。果たして前半期の捏造は、専門的訓練を受けていないアマチュアに可能なのだろうか。

そこで示唆されている旧石器捏造事件の構造は、まことに恐るべきものです。
そして第四章によれば、その構造は、遡って岩宿遺跡の発見にもうかがえるとしています。(ただし、岩宿遺跡の「第一発見者」である相沢忠洋氏は、その構造に含まれていないとしています)

果たして、本書で指摘されている構造が、事実であるか否かは
考古学の素人である僕には、よくわかりません。
ただ、少なくとも「理論」の危うさに関する指摘は、説得力あったように思います。
しっかりとした書評がなされることを願うばかりです。
ひとまず来年の回顧と展望の要チェック項目が一つ増えました。


さてさて、とりあえず次は、昨日出たばかりの、
岡村道雄『旧石器遺跡捏造事件』(山川出版社、2010年11月)を
早急に購入して読んでみたいと思います。

2010年10月31日日曜日

第108回史学会大会

第108回史学会大会
日程:11月6日(土)・7日(日)
場所:東京大学法文1号館・2号館

11月6日(土)13:00~ 法文2号館1番大教室
公開シンポジウム「越境する歴史学と歴史認識」
桜井万里子「グローバル化時代の歴史認識―古代ギリシア人の自己認識という視座から考える」
古畑徹「渤海国をめぐる日中韓の歴史認識」
野村眞理「二つの顔を持つ国―第二次世界大戦後オーストリアの歴史認識問題」
永島広紀「日本の朝鮮統治と「整理/保存」される古蹟・旧慣・史料」
コメント:村井章介・吉澤誠一郎・加藤陽子
討論

11月7日(日) *日本史部会は中国史関係を中心に列挙
日本史部会<第1会場>  法文2号館1番大教室
[古代]9:30~12:00
須原祥二「中臣鎌足のつくった「令」について」
河野保博「日唐厩牧令の比較からみる日本古代交通体系の特質」
志村佳名子「日本古代の朝参制度と上日の意義」
[中世]13:00~17:00
オラー・チャバ「遣明使節の貿易活動と中国の牙行・商人――「信票」の導入とその背景をめぐって」
屋良健一郎「琉球王国辞令書の様式変化に関する考察」

日本史部会<第2会場>  法文2号館2番大教室
[近世]10:00~12:00
鴨頭俊宏「漂着異国人の移送情報をとおして見る寛政年間の幕藩体制―中国人太平洋岸漂着と朝鮮人日本海沿岸漂着の対比から」

東洋史部会 法文1号館113番教室 9:30~17:00
曺貞恩「中国医療伝道協会と清末社会―福建の医療宣教師ホイットニーの事例から」
宮古文尋「翁同龢の免職帰郷と戊戌政変―変法運動と外国人の処遇問題」
佐野実「明治日本における外国公債引受・発行の過程について―郵伝部公債と横浜正金銀行」
上出徳太郎「清末、省制時期の新疆における伊犂将軍」
橘誠「ボグド・ハーン政権におけるチンギス・ハーンの表象―八白宮のフレー移転計画をめぐって」
 昼休み 12:00~13:00
麻田雅文「中東鉄道の敷設決定過程再考―ロシアはなぜ「満洲」に鉄道を敷いたのか」
守田まどか「16世紀イスタンブルにおける街区とイマームへの寄進―『ワクフ調査台帳』の分析を中心に」
会田大輔「令狐徳棻等撰『周書』の北周像の形成―隋唐初の諸史史料との比較を通じて」
福永善隆「内朝の形成―宮中諸官の変遷を中心として」
藤野月子「和蕃公主の降嫁における儀礼について」
林美希「唐代前期における北衙禁軍の展開と宮廷政変」
鄭東俊「古代東アジアにおける律令の伝播と変容についての試論―高句麗・百済律令における所謂「泰始律令継受説」をめぐって」
辻大和「17世紀初頭朝鮮の対外貿易と明朝の干渉」

2010年10月24日日曜日

三国志研究第五号

『三国志研究』第五号(三国志学会、2010年9月)

目次は以下の通り。
【講演】
川合康三「身を焼く曹植」
【論考】
並木淳哉「蜀漢政権における権力構造の再検討」
髙橋康浩「韋昭「博奕論」と儒教的理念」
島田悠「孫呉滅亡後の三呉―西晋の三呉支配―」
上原究一「「漢兒」なる張飛―金末の張飛人気と「燕人」の来源―」
竹内真彦「青龍刀と赤兎馬―関羽像の「完成」過程―」
中川諭「黄正甫刊『三国志伝』三考」
後藤裕也「余象斗本『三国志演義』評語小考」
田村彩子「川劇三国戯「上方谷」をめぐって」
藤巻尚子「『太平記鈔』における三国志の受容―『太平記賢愚鈔』との比較を始点として―」
清岡美津夫「現代日本における三国要素の変容と浸透―アクセス集計を事例に―」
【文献目録】
朝山明彦「関帝信仰研究文献目録【和文編】」
【資料整理】
後藤裕也「余象斗本『三国志演義』評語翻刻」
【翻訳】
増田真意子「周澤雄著「文和乱武」―詐欺師的策謀家から有徳の大臣へ―」
【雑纂】
前川貫治「三国志迷いの旅(四)―安徽・江蘇の旅―」

歴史・文学・版本学・演劇・日本における三国志受容など、
様々なジャンルの論考があって、読み応えがある。
号を重ねるごとに、徐々に歴史分野の論考の割合が減っている気もするけど、
それはそれで、まぁ、いいのかもしれない。
(四号は東方学会の原稿が掲載されているので、歴史分野が多く見えるが、
論考だけを見ると、意外に歴史分野の割合は低い)

若干、気になったこととして、
資料整理の翻刻は、後藤論文の直後につけたほうが、効果的だったように思える。
あと、翻訳については、書誌情報・作者などに関する解題がついておらず、
掲載意義がよくわからなかった。

個人的には、清岡論文のサイトのアクセス集計から見る
現代日本の三国志受容の様相が興味深かった。
ゲームやアニメなどの三国志的要素を持った作品の流行・受容が、
三国志などの根源に関心を向ける動きにつながる様子は、
アクセス集計を見る限り確認できない、という結論は重要な指摘なようにも思える。
多分、実際にはゲームやアニメから、三国志そのものに興味を持つ人も出てくるだろうし、もともと興味ある人がゲームやアニメにも関心を持つこともあるだろうから、
一概にいえないだろうけど、必ずしもゲーム・アニメなどの流行が、
三国志人気につながるわけではない、というのは間違いないだろう。

三国志ですら、そうなのだから、
ましてやゲームもアニメもな~んにもない他の時代では……。

収録 アジア学の系譜

先日、古本屋にて、
『アジア』11-7(アジア評論社、1976年9月)を購入。
恥ずかしながら、初めて知った雑誌だったのだけど、
「収録/アジア学の系譜」と題して、
19人の「アジア学」の研究者のインタビューを掲載しており、
200円と格安だったこともあって買ってみた。

目次は次の通り。
岩村忍「「アジアの見方」を考える」
藤枝晃「「文字の文化史」に至るまで」
山本達郎「東南アジア史研究の諸問題」
貝塚茂樹「人間学としての中国研究」
前嶋信次「イスラム世界への視座」
竹内好「アジアへの関わりのエトス」
西田龍雄「言語学者がみたアジア」
今西錦司「生物の世界の精神」
日比野丈夫「中国史学としての華僑研究」
江上波夫「騎馬民族説の歴史観」
中村元「東洋人の思惟方法を考える」
市村真一「地域研究方法論の模索」
中尾佐助「アジアの自然環境と文化複合」
梅棹忠夫「「文明の生態史観」の背景」
川喜田二郎「村落調査方法論」
衛藤瀋吉「アジア現代史への開眼」
旗田巍「朝鮮史学を貫いたもの」
中根千枝「社会構造論的アジア観」
東畑精一「アジアの中の日本」
〈聞き手〉矢野暢

『アジア』で1974年から2年間にわたって連載された
「アジア学の系譜」をまとめたものらしい。そうそうたる面々。
インタビュアーの質問に権威臭(しかも若干誘導的)が感じられるが、
生い立ちや学問へのきっかけや形成過程を語っていて、なかなか面白い。

あちこちに、新日本製鉄・三井物産・サッポロビール・キリンビール・
日本鋼管・丸紅・三菱重工業・日本コロムビアなどの大企業が
広告を出しているのが、時代を感じる。

2010年10月21日木曜日

新アジア仏教史08 中国Ⅲ 宋元明清

沖本克己編集委員・菅野博史編集協力『新アジア仏教史08 中国Ⅲ 宋元明清 中国文化としての仏教』(佼成出版社、2010年9月)


アジア仏教史の新シリーズ。中国編第三弾(第一弾はまだ出てません)。
目次は以下の通り。
第一章「宋代の思想と文化」土田健次郎
第二章「元・明の仏教」野口善敬
第三章「仏教民間信仰の諸相」陳継東
第四章「日中交流史」西尾賢隆
第五章「仏教美術」肥田路美
第六章「中国仏教の現在」陳継東

本巻は宋以降の中国仏教をメインに扱っているが、
それだけではなく、日中交流史(唐後半~明)や仏教美術(魏晋~隋唐)、
宋代の道学と仏教の関係なども概説している。

正直、宋代以降の仏教については、全くと言っていいほど知識がない。
第二章はその点で参考になった。ただ、元イメージが古いのがちょっと残念。
第六章「中国仏教の現在」では、清末の仏教から、
民国期の仏教復興運動、文革期の弾圧を経て
現在に至る状況が紹介されていて興味深い。

2010年10月18日月曜日

平成22年九州史学会大会

平成22年九州史学会大会
日時:2010年12月11日・12日
場所:九州大学
参加費1500円

12月11日(土)13:30~ 九州大学法文系講義棟101
シンポジウム「蔵書目録―知の表象の世界」
岩崎義則「平戸藩主松浦静山の書物収集と情報交流―楽歳堂文庫蔵書目録の検討―」
大渕貴之「目録を読む難しさ―唐初の類書観を中心として―」
岡崎敦「西欧中世の書物と蔵書目録―方法論と諸成果―」
伊藤隆郎「アラビア語の蔵書目録と書籍目録―史料と研究の可能性―」

12月12日(日) 東洋史部会 九州大学法文系講義棟204 9時~
シンポジウム「モンゴル帝国の中国支配とその社会―石刻史料による成果と課題―」
森田憲司「中国近世石刻研究の課題 ―その材料と方法をめぐっての回顧― 」
井黒忍「水利碑から見た分地支配と社会―山西ジョチ家投下領の事例をもとに― 」
松田孝一「「答里真官人(ダーリタイ・オッチギン)位」の寧海州分地について」
村岡倫「石刻資料から見た探馬赤軍の歴史」

研究発表  
井上雄介「前漢武帝の封禅について」
塩田孝浩「前漢における刑罰について ―死刑の問題を中心として―」
植松慎悟「光武帝期の官制改革とその影響」
稲住哲朗「盧思道と隋 ―北斉系士人の正統観―」
堀地明「刑科題本と乾隆10年山西大同府天鎮県閙賑案」
和田英穂「台湾人の戦後処理 ―『戦犯』と『漢奸』を中心に―」
崔淑芬「中国における「SOS子ども村」の一考察―新疆ウイグル自治区「SOS子ども村」の事例から― 」
小林聡「五胡・北朝期における北族的服制の展開―河西・朝陽・大同の出土文物を主たる題材として―」

12月12日(日) 朝鮮学部会 法文系講義棟202 10時~
濱田耕策「劉仁願紀功碑の復元と碑の史料価値」
井上直樹「6世紀末・7世紀の東アジア情勢と高句麗の対倭外交」
赤羽目匡由「唐代越喜靺鞨の住地とその移動について」
安田純也「高麗時代の蔵経道場について」
川西裕也「朝鮮時代における差定文書の淵源と機能」
森平雅彦「朝鮮後期の漢江水運とその技術―「生態環境の朝鮮史」のための予備的考察―」
白井順「前間恭作の晩年―三木栄・岩井大慧・小倉進平との交流について―」
申英根「地域活性化政策による伝統祭の変容と地域社会のコンフリクト―韓国江原道の「江陵端午祭」を事例として―」

2010年10月17日日曜日

内陸アジア史学会50周年記念公開シンポジウム

内陸アジア史学会50周年記念公開シンポジウム
「内陸アジア史研究の課題と展望」
日時:2010年11月13日(土)13:00~17:30
会場:早稲田大学小野記念講堂

基調講演 13:10~14:30
森安孝夫「モンゴル時代までの東部内陸アジア史:実証研究から世界史教育の現場へ」
堀川徹「モンゴル時代以降の西部内陸アジア史:実証研究の深化と展開の可能性」

パネル報告 14:45~16:00
林俊雄「考古学研究の20年:中央アジア・シベリア・モンゴル」
稲葉穣「モンゴル征服以前の西トルキスタン:テュルク・イラン・アラブのフロンティア」
森川哲雄「ポストモンゴル時代の北アジア研究について」
小松久男「近現代史研究の眺望と課題:イスラーム地域を中心に」
中見立夫「近現代モンゴル・チベット・中国東北研究の特質」

16:05~17:30 総合コメント 桃木至朗
16:50~17:30 討論 

2010年10月15日金曜日

僧侶と海商たちの東シナ海

榎本渉『選書日本中世史4 僧侶と海商たちの東シナ海』(講談社、2010年10月)

9世紀の遣唐使以後から、15世紀の遣明使までの
東シナ海における海域交流について、
僧侶と海商に焦点をあてて、その様態の変化を綴っている。

こんなにも色々な日本人僧がいたんだ、とびっくり。
詳細に紹介されている入宋僧の円爾と、
入元僧の龍山徳見については、この本ではじめて知った。

また、まず地道な個別実証の積み重ねの必要性を説く著者の姿勢に共感。

――――――――――――――――――――――――
追記:2010年10月17日22時25分

ゆえあって、杉山正明・北川誠一『世界の歴史9 大モンゴルの時代』(中央公論社、1997年8月)を読み直していたら、円爾弁円が2頁にわたって登場していた。はじめて知ったのではなく、単に覚えていなかっただけだったのか……。

2010年10月13日水曜日

日本仏教と高麗版大蔵経

特別陳列 「日本仏教と高麗版大蔵経-獅谷忍澂上人を中心として-」 日程: 2010年10月30日(土) ~11月6日(土) 10時~17時
場所:佛教大学宗教文化ミュージアム 第2研究成果展示室
入場料無料


シンポジウム 「日本仏教と高麗版大蔵経」
日時:2010年10月30日(土) 9時~17時
会場:宗教文化ミュージアム 宗教文化シアター
定員130名 事前申込不要・参加費無料

パネリスト
末木文美士・藤本幸夫・朴相国・永崎研宣・梶尾晋
馬場久幸・貝英幸・松永知海

2010年10月9日土曜日

2010年度東洋史研究会大会

2010年度東洋史研究会大会
日時:2010年11月3日(水・祝)9時~17時 
会場:京都大学文学部新館第三講義室(二階)
大会参加費500円(資料・要旨代を含む)

発表題目
[午前の部]
中西竜也「スーフィズムとタオイズム―一九世紀中国西北部における対話―」
五味知子「「誣姦」の意味するもの―明末清初の判牘を中心に―」
丸橋充拓「唐開元軍事儀礼の源流」
原宗子「戦国秦漢期における樹木観の変遷」 

[午後の部]
上田裕之「洋銅から〔テン〕銅へ―清代辧銅制度の転換点をめぐって―」
近藤真美「『スブキーのファトワー集』に見るワクフ問題」
齋藤久美子「オスマン朝下アナトリア南東部におけるティマール制」
金文京「一七世紀後半日朝武器密貿易とその清朝への波及」
糟谷憲一「甲午改革期以後の朝鮮における権力構造について」
井上裕正「『海国図志』成立の背景」

2010年10月7日木曜日

戦国秦漢時代における王権と非農業民

柿沼陽平「戦国秦漢時代における王権と非農業民」(『史観』163、2010年9月)

戦国秦漢時代の非農業民に着目し、
なかでも「常人ならざる性質」を帯びた人々と王との類似性を確認した後、
「異界」である市場・山林叢沢や「異人」と王・皇帝との祭祀・財政を通じた
密接な関係性を明らかにし、戦国秦漢時代の王権の存立構造に迫っている。
貨幣史から、いよいよ皇帝権力へ。
紙幅の関係もあってか、ちょっと駆け足だった気もするけど、
次の展開が気になります。

第29回橿原考古学研究所公開講演会

第29回橿原考古学研究所公開講演会
日時:2010年11月3日(水・祝)
会場:奈良県橿原文化会館 大ホール
主 催:奈良県立橿原考古学研究所・(財)由良大和古代文化研究協会
入場先着 1280名(入場無料)

テーマ:『東アジアの王墓と桜井茶臼山古墳』
プログラム
10:10~11:10 豊岡卓之「桜井茶臼山古墳の調査成果と意義」
11:10~12:30 李恩碩「伽耶における三・四世紀の墳丘墓と王墓」
12:30~13:30 〈昼食休憩〉
13:30~13:50 平成22年度文化財保護功労者感謝状贈呈式 奈良県教育委員会
13:50~15:10 王巍 「曹操高陵の発見と中国の墳丘墓・王墓形成」
15:10~15:20 〈休  憩〉
15:20~16:40 フォーラム (コーディネーター:菅谷文則)

2010年10月4日月曜日

皇室の文庫

先日、三の丸尚蔵館で開催中の「特別展 皇室の文庫 書陵部の名品」に行ってきました。意外にも「書陵部の名品」がまとまった形で一般に展示されるのは初めてだそうです。

今回の特別展では、坂本龍馬直筆の「薩長同盟裏書」が
話題になっているらしいのですが、それ以外にも名品がずらり。
漢籍などは少ないですが、一級品が展示してあります。
たった一室なのだけど、龍馬効果のせいか、かなりの混雑と熱気。
いくつかのジャンルに分けて展示してあります。

まず最初は「古典と絵巻」。
トップバッターは、『日本書紀』の平安・鎌倉期の抄本。
そのうち巻2は北畠親房の伝授奥書がある南北朝期の抄本。
他には、『源氏物語』(三条西実隆等写・16世紀)、『古今和歌集』(寂恵写・1278年)、後深草院二条撰『とはすかたり』(江戸時代写・孤本)などなど。

お次は個人的にはメインの「古写経と漢籍」。
まずは、遣唐使船によって舶来された吉蔵撰『勝鬘寶屈』(684年写)。
続いて長屋王が発願して書写された『大般若波羅蜜多経』(712年写)。
そして、北宋版『御注孝経』(1023~1033年の間の刊行・孤本)。
狩谷棭齋が江戸の古書肆で入手したものらしい。
さらに金沢文庫本『群書治要』(鎌倉時代の抄本・1255年の奥書)。
ヲコト点(多分、清原家の訓点)もはっきり見えます。
この『群書治要』は、徳川家康の手をへて紅葉山文庫に入ったもの。

続いて「明治維新期の文書」が展示。
上に述べた「薩長同盟裏書」とか、「五箇条御誓文」(原本控)とか、
天皇の儀礼・行幸に関する公文書などが並んでます。

「貴族社会と日記」のコーナーには、
九条兼実の日記『玉葉』や、平信範の日記『平兵部記』などが、
「天皇と宸筆」のコーナーには、花園天皇の日記『花園院宸記』や『伏見天皇御集』、尾形光琳画「後水尾天皇御画像」などがあります。
『花園院宸記』は、花園上皇のえがいた行幸絵図を展示。描かれた牛や馬が味があっていい感じ。学問好きなのは知っていたけど、絵もうまかったとは少々驚きました。

他には仁徳天皇陵・百舌鳥陵墓参考地出土の
動物埴輪や家形埴輪なども置いてある。


さて、これまで長々と展示品を羅列してきましたが、
今回の展示品で最も興奮したのが、隅っこにある「修補の技」コーナー。
修補の説明のパネルがあり、その下に修補前と修補後の古文書が置いてある。

修補前の古文書(鎌倉後期らしい)をなんとなく見たら、
『説文』・『文心雕龍』・『漢書』・『拾遺記』という書名が!
どうやら、鎌倉期に作られた類書のようです。
『拾遺記』の内容を確認したら、『太平御覧』所引『拾遺記』と文章が一致しました。

まだ修補前なので、全体像はわかりませんが、
他にも漢籍を多数引用しているかもしれません。
さらには何か逸文があるかもしれません。
(もしかしたら、既に知られている類書なのかもしれませんが)
ぼろぼろの紙をめくってみたい、ガラス越しにそんな思いにかられてしまいました。


「特別展 皇室の文庫 書陵部の名品」は、
10月17日(日)まで三の丸尚蔵館で開催。
休館日:毎週月曜・金曜・10月12日(火)、開館時間:9時~16時15分
観覧料は無料です。

2010年10月3日日曜日

第103回訓点語学会研究発表会

第103回 訓点語学会研究発表会
日時:2010年10月17日(日)
場所:東京大学山上会館

報告 午前11時~
ジスク マシュー「古代日本語の書記表現における漢字の意味的影響―「のす」と「載」の関係を中心に―」
ゼイ 真慧「漢字とその訓読みとの対応関係についての一考察―「常用漢字表」所載漢字と平安時代の漢字との比較から―」

午後1時半~
平井吾門「倭訓栞の成立過程について ―語釈の発展を中心に―」
藤本灯「三巻本『色葉字類抄』に収録された人名について―「名字部」を中心に―」
千葉軒士「キリシタン・ローマ字文献の撥音表記について」
松尾譲兒「『今昔物語集』と訓読資料」
柳原恵津子「『後二条師通記』における使用語彙の一側面―各年毎の新出語彙という観点から―」

屠本『十六国春秋』考

梶山智史「屠本『十六国春秋』考―明代における五胡十六国史研究の一斑―」(『史学雑誌』119-7、2010年7月)

清代以降、偽書扱いされてきた[明]屠喬孫本『十六国春秋』の成立過程を解明。
清版では削除されている序文を確認するため、
中国・日本に所蔵されている明版『十六国春秋』の調査を行った結果、
序文の収録状況に違いがあることを発見。
その序文の内容から、『十六国春秋』に関わる学術ネットワークの存在を指摘。
また、屠喬孫らが、崔鴻撰『十六国春秋』が散逸していたことを認識しており、
「当時存在した十六国史に関するあらゆる史料を駆使して、『十六国春秋』の
原貌を復元」することを意図していたとする。
さらに、編纂者以外の序文に、屠喬孫らが崔鴻撰『十六国春秋』を発見・補訂した、
と勘違いしているものが複数あることを指摘し、
編纂者の序文が脱落していった結果、清代に偽書説が流布したとする。

版本調査・目録学・地方志を駆使した論文で、とても刺激的。
明代の出版史・学術史については、文学・思想を中心に研究が進められているが、
史書に着目した研究は、まだまだ未開拓といっていいはず。
また、十六国時代をめぐる学術史ということでも興味深い。

2010年10月2日土曜日

漢字・七つの物語

松岡榮志『漢字・七つの物語―中国の文字改革一〇〇年―』(三省堂、2010年9月)

民国期から現在までの漢字改革運動(漢字廃止論・簡体字化)の流れを詳細に解説。第六章「漢字とコンピュータ」では、漢字のコード化について紹介。

簡体字化したことの一般的な意義はさておき、
学術論文や校注などでは、なるべく繁体字(旧字)を使ってほしいなぁ、
と思います。せめて、論文中の引用史料は繁体字にしてもらえないだろうか……。
まぁ、僕自身、引用史料には「原文になるべく近い繁体字を用いる」という
あいまいなルールでやっているので、人のこと言えませんが。

でも、簡体字しか使っちゃいけないとなると、
例えば、乾隆帝の避諱のため「暦」を「歴」に改めた、
という文章の意味が通じなくなってしまうんですよね(簡体字だと両方「历」)。
やっぱり、これはちょっとまずいような気がします。

日本の新字体・旧字体問題も含めて、
なかなか解答の見えない問題です。

第61回日本道教学会大会

第61回日本道教学会大会
日時:2010年11月13日(土)
会場:関西大学千里山キャンパス第一校舎5号館6階E601~603

報告
[午前の部] 10:00~11:50
二ノ宮聡「旧北京の碧霞元君信仰―妙峰山娘娘廟会を中心に―」
王晧月「道教の斎法儀礼における命魔の観念」
鈴木健郎「白玉蟾と道教聖地」
[午後の部] 13:00~14:10
田村俊郎「両晋南北朝時代における観音の偽経とその展開―『高王観世音経』を中心に―」
坂出祥伸「江戸時代中期の山口貫道著『養神延命録』について」

国際シンポジウム「道教研究の新側面―周縁からのアプローチ―」14:30~17:00
増尾伸一郎「日本からの視点」
鄭在書「韓国からの視点」
大西和彦「ベトナムからの視点」

2010年10月1日金曜日

猫率の低下

称猫庵を名乗っているにも関わらず、
猫率の低下が甚だしい……。
秋になったことだし、これから猫との遭遇率もあがるはず。
ということで、特に意味は無いけど猫写真。

2010年9月30日木曜日

泥縄

まことにもって泥縄ですが、高橋智『書誌学のすすめ』を読んだ後になって、
漢籍版本の基礎知識を確認したいと思い、積読状態だった
陳国慶著・沢谷昭次訳『漢籍版本入門』(研文出版、1984年1月)を読みました。

原著は陳国慶『古籍版本浅説』(遼寧人民出版社、1957年)なので、
情報が古いところも多いのだけど、
沢谷氏の訳注と参考文献案内がそれを補ってくれます。

次は魏隠儒・王金雨著、波多野太郎・矢嶋美都子訳『漢籍版本のてびき』(東方書店、1987年5月)を読むつもり。とはいえ、これも20年以上前の訳書なのだけど。
ついでに米山寅太郎『図説中国印刷史』(汲古書院、2005年)も
見直してみようと思って、蔵書を探したのですが、
奥の下の方にあるようなので、今回はパス。

そういえば結構前に、長澤規矩也『古書のはなし―書誌学入門―』(冨山房、再訂1977年5月)も読んだのだけど、版本の基礎知識というのは、なかなか頭に残らない……。やはり読んだだけじゃ、知識が定着しないということなのだろうか(より根本的な記憶力の問題は置いときます)。

マニ教「宇宙図」

9月27日(月)の毎日新聞に、
「マニ教「宇宙図」国内に現存」
という記事とカラー図版が掲載されていました。

以下は、記事を一部引用。
「マニ教の宇宙観を描いたとみられる絵画が国内に存在することが
26日までに、京都大の吉田豊教授(文献言語学)らの調査で分かった。
「10層の天と8層の大地からなる」というマニ教の宇宙観の全体像が、
ほぼ完全な形で確認されたのは世界で初めて」

大きさは、縦137.1㎝、横56.6㎝。絹布に彩色。個人蔵。
元代頃に、江南地方の絵師が制作したらしいです。

森安孝夫「日本に現存するマニ教絵画の発見とその歴史的背景」(『内陸アジア史研究』25、2010年3月)には、日本国内で最近確認されたマニ教関係絵画が紹介されていますが、個人蔵や寺院蔵のものなど、まだまだ面白いものがたくさん眠っているんでしょうね。

書誌学のすすめ

高橋智『書誌学のすすめ―中国の愛書文化に学ぶ―』(東方書店、2010年9月)

第Ⅰ部「書誌学のすすめ」、第Ⅱ部「書物の生涯」、第Ⅲ部「書誌学の未来」。
第Ⅰ部・第Ⅱ部は、『東方』の連載記事(2003年1月~2004年12月、2006年6月~2008年1月)をまとめたもの。第Ⅲ部は書き下ろし。

体系的な書誌学の概説書というわけではなく、
書誌学に関する具体的な逸話を集積するなかで、
書誌学の魅力に迫っている。図版も多くて、よみやすい。
書誌学というと、型式論・年代比定のイメージが特に強かったけれど、
「書物」自体の流転の歴史を明らかにする学問でもあると実感。

なお、副題に「中国の愛書文化」とあるように、あくまで宋元以降の版本・写本がメインで、唐写本の流れをくむ日本の古写本(旧抄本)については、あまり触れていない。

2010年9月29日水曜日

東方学会第60回全国会員総会

東方学会第60回全国会員総会
日時:2010年11月6日(土)12:30~19:30
会場:芝蘭会館別館2階研修室1

講演会
12:40~13:40 根立研介「運慶と中国美術の受容」
13:50~14:50 池田雄一「中国古代における律令の形成と習俗」
研究発表
15:10~15:40 岩尾一史「古代チベット帝国の兵士とキャ制」
15:45~16:45 白井順「『小学』注再考―その思想研究の可能性を求めて―」
16:20~16:50 守川知子「シャー・イスマーイールとサファヴィー朝初期のシーア派信仰」
16:55~17:25 吉田ゆか子「バリ島仮面舞踊劇を担う者たちの現在―知識の習得過程を中心に―」

参加費:1000円、懇親会費:3000円

2010年9月27日月曜日

戦後日本人の中国像

馬場公彦『戦後日本人の中国像―日本敗戦から文化大革命・日中復交まで―』(新曜社、2010年9月)

日本敗戦から1972年の日中復交までに刊行された総合雑誌・論壇誌における
中国関係の記事をすべて抽出し(約2500本)、
戦後日本の知識人における中国像・叙述の変遷を丹念に分析している。

出てきた結果は、あまり新鮮味があるとはいえないが、
いままで漠然と認識していた戦後日本の中国叙述の変化について、
しっかりと肉付けしてくれて参考になる。

また、証言編として、総合雑誌などで積極的に
発言してきた人物のインタビューも載せている。
竹内実・野村浩一・岡部達味・本多勝一・小島麗逸・
中嶋嶺雄・加々美光行・津村喬などなど、立場は様々。
自伝的要素あり、自己批判あり、当時の日中関係の裏側ありで面白かった
個人的には、収録されなかった安藤彦太郎氏のインタビューが気になった。

2010年9月26日日曜日

斯道文庫開設50周年記念 書誌学展

斯道文庫開設50年記念事業『書誌学展』
日程:2010年11月29日(月)~12月4日(土)9時半~16時半
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 図書館旧館2F大会議室
入場無料。

斯道文庫の蔵書から日本・中国・朝鮮・ヴェトナムの古典籍およそ100点を展示。
[主な展示品]
四分律:天平12年(740)頃写本
物初賸語:南宋(13世紀)刊本
広韻:宋末元初(13世紀)刊本
南華経:明・万暦33年(1605)刊本
直齋書録解題:清・乾隆39年(1774)刊本

展示構成は第Ⅰ部「書物との対話」と第Ⅱ部「斯道文庫の五十年」。
展示会場には、動画による展示解説もあるらしい。
開催期間は短いけれど、時間があったら見に行きたい。


さらに、書誌学展最終日に記念講演とシンポジウムを開催。
「古典籍の探究-書誌学の世界-」
日時:2010年12月4日(土)13:00~15:30
場所:慶應義塾大学三田キャンパス 北館ホール
[基調講演]13:00~
塩村耕「岩瀬文庫に教わったこと」
[シンポジウム]14:00~
井上進・大木康・真柳誠

2010年9月24日金曜日

これから出る本

あちこちの出版社から、来月・再来月あたりに
個人的に興味ある本が続々と出版されるようです。
忘れないようにメモしておかなきゃ。
なお、データ・内容紹介は出版社のHPや新聞などから抜粋しました。

湯沢質幸『増補改訂 古代日本人と外国語 東アジア異文化交流と言語世界』
出版社:勉誠出版  刊行日:2010年9月(予定)、
予価:2940円  頁数:304頁
[内容紹介]
古代日本人は、東アジアの人々と どのような言語で交流していたのか?
漢字・漢語との出会い、中国語をめぐる日本の学問のあり方新羅・渤海など周辺諸国との交流、円仁ら入唐僧の語学力など古代日本における異国言語との格闘の歴史を明らかにする。
『言語』から考える東アジア文化交流史

中村春作・市來津由彦・田尻祐一郎・前田勉編『続「訓読」論 東アジア 漢文世界の形成』
出版社:勉誠出版  刊行日: 2010年10月(予定)
予価:6300円  頁数:464頁
[内容紹介]
東アジアの「知」の成立を「訓読」から探る
東アジア漢文世界において漢文テキストは実際にどのような〈てだて〉で「読まれ」、そこでいったい何が生じたのか、そこから何が形成されたのか
「知」の伝播と体内化の過程を「訓読」論の視角から読み解くことで
東アジア漢文世界の成立を検証する。

新編森克己著作集編集委員会編『新編森克己著作集4 増補日宋文化交流の諸問題』
出版社:勉誠出版  刊行日:2010年10月(予定)
予価: 10500円  頁数:450頁

榎本渉『選書日本中世史4 僧侶と海商たちの東シナ海』
出版社:講談社(選書メチエ)  刊行日:2010年10月7日
予価:1680円

渡邉義浩『儒教と中国 「二千年の正統思想」の起源』
出版社:講談社(選書メチエ)  刊行日:2010年10月7日
予価:1680円

妹尾達彦『農業と遊牧の交わる都―北京の都市社会誌―』
出版社:刀水書房  刊行日:2010年中
予価1600円 

氣賀澤保規編『遣隋使がみた風景―東アジアからの新視点―』
出版社:八木書店  刊行日:2010年11月(予定) 
予価:3,990円  頁数:304頁(予定)
[内容紹介]
1400年前の遣隋使を徹底検証!
統一王朝・隋に派遣した古代日本・朝鮮半島の事情とは?
国際環境や政治から風俗まで、図版を収録し紹介


さらに汲古書院からは、「寧波プロジェクト」(にんぷろ)成果の集大成として、
『東アジア海域叢書』全20巻が刊行されるらしい。
第一弾は、山本英史編『近世の海域世界と地方統治』(10月刊)、
第二弾は、井上徹編『海域交流と政治権力の対応』(12月刊)。
平均350頁で、予価は各7350円。各巻のタイトル・内容が知りたい。
全部買うつもりはないけど、なんだか面白そう。

ホームレス博士

水月昭道『ホームレス博士―派遣村・ブラック企業化する大学院―』(光文社新書、2010年9月)

『高学歴ワーキングプアー』(光文社新書、2007年)、
『アカデミア・サバイバル』(中公新書ラクレ、2009年)に続く新書第三弾。
本屋で立ち読み、45分ほどで読了しました。

『高学歴ワーキングプアー』と論調はほぼ同じ。
近年の動向(昨年の仕分け事業など)や、様々なエピソードを追加した感じ。
全国のポスドク・院生が一斉ストライキを起こしたら、
大学教育・研究は大変なことになるぞ、とあったが確かにそうかも。

やっぱり、『高学歴ワーキングプアー』の問題提起のインパクトに比べると、
第二弾・第三弾は正直言って微妙な感じ。

2010年9月15日水曜日

東アジア世界史研究センター研究会

平成22年度東アジア世界史研究センター研究会
日時:2010年9月25日14時~17時
場所:専修大学神田校舎1号館7階7A会議室

講演
中村裕一「贈尚衣奉御井真成を巡る二・三の問題―唐代の外国使節の授官と関連して―」

申し込み
電子メールで9月16日(木)まで。
詳細は東アジア世界史研究センターのHPをご参照ください。

一時期、流行った井真成。
最近はめっきり出番が減ってる模様。
久しぶりにお目にかかった気がします。

2010年9月14日火曜日

西嶋文庫蔵書目録

梅原郁・中田實編『西嶋文庫蔵書目録』(就実女子大学図書館、2001年3月)

故西嶋定生氏の蔵書目録。最近、ひょんなことから手に入れました。
西嶋氏の蔵書が、最後につとめた就実女子大学に
一括して寄贈されていたこと自体、この目録で始めて知りました。
しかも、研究書のみならず、趣味の本までまるまる全部。
総計15000冊。

就実女子大学に設置された西嶋文庫では、
西嶋氏が愛用していた机・椅子・文房具・書棚なども寄贈され、
生前の書斎を模した造りになっているらしい。

この目録も通常の分類と異なり、
西嶋文庫の書棚の配置情況を反映した分類。
そのため、検索の便はあまり芳しくない。
でも、その欠点を補ってあまりある面白さ。

いわゆる稀覯本は殆どないし、
研究書もそこまでおもしろいわけでもない。
では、何が面白いかといえば、やっぱり趣味の本。

友達の家に行って、本棚をチェックした時の感覚に頗る近い。
こんな本持ってんだ~、とか、
こんな小説読んでたんだ~、とか、そんな感じ。

解題に、病気療養中に釣りにはまっていたので、
釣りの本が多いと書いてあったけど、
確かに100冊近くある。やっぱり研究者って凝り性なんだなぁ。

小説コーナーをチェックしていたら、
井伏鱒二、司馬遼太郎、立原正秋、陳舜臣などにまじって、
筒井康隆『文学部唯野教授』が!!
しかも単行本(岩波書店、1990年)と
同時代ライブラリー(岩波書店、1992年)の両バージョンがそろってる。
もしかして、お気に入りだったのだろうか?
大学&文学理論ドタバタ小説と西嶋定生。
う~ん、結びつかない。

そして、もうひとつびっくりしたのが、
それほど多いとはいえない欧米小説の中に、
スタニワフ・レム著、沼野充義ほか訳『完全な真空』(図書刊行会、1989年)があったこと。『完全な真空』は、ポーランドのSF作家レムが書いた架空の書籍に対する書評集。まさか、こんな本を持っていたとは。
寄贈されただけなのか、それとも買って読んだのか。かなり気になる。

西嶋文庫には、寄贈された抜刷も保管されている。
最も多かったのは越智重明氏で、なんと94種。
次点が池田温氏の62種。
全部綺麗にとっておいた西嶋氏もすごいけど、
94種も贈った越智氏もすごい。

漢籍目録とかとはまた違った面白さ。
研究者の私生活・趣味の読書が見えてくる目録って
他にもないだろうか。

2010年度秋期東洋学講座

2010年度秋期東洋学講座「東洋文庫とアジア―その4―」
主催:財団法人東洋文庫
会場:三菱商事ビルディング3階会議室

10月18日(月)18時~20時
佐藤次高「日本人のイスラーム理解―5つのキーワード―」

11月8日(月)18時~20時
瀧下彩子「マンガ家たちの中国近代史―東洋文庫所蔵の漫画資料を読む―」

11月22日(月)18時~20時
平野健一郎「戦後日米間のなかの中国研究と東洋文庫」

聴講無料
申し込み方法:東洋文庫の東洋学講座のメールアドレス
またはファックスに事前申し込み。
(東洋文庫のHPをご参照ください)


今回の東洋学講座はなかなか面白そう。
東洋文庫所蔵の漫画資料ってどんなものなのだろうか。
11月22日の講演では、1960年代に大騒ぎになった
A・F財団問題にも触れるのだろうか。

2010年9月13日月曜日

平成22年度古典籍展観大入札会

平成22年度古典籍展観大入札会
日程:2010年11月12日(金)10時~18時、13日(土)10時~16時30分
会場:東京古書会館

去年初めて見に行った古典籍展観大入札会、
今年も見に行くつもりです。
現時点での目玉商品は以下の通り(東京古典会のHPより漢籍関係のみ抜粋)。

白氏文集断簡(興福寺切) 鎌倉中期頃写 伝後京極良経筆:一巻
大雲輪請雨経巻下 平安後期写 紺紙銀界金泥書写:一巻
和漢朗詠集 烏丸光広筆 宗達模様料紙:二冊
奈良絵巻 長恨歌 寛文延宝頃写 極彩色:三巻
五山版 五百家註音辯昌黎先生文集 唐・韓愈撰 南北朝時代刊:一五冊
五山版 韻府群玉 南北朝頃刊:一〇冊
大般若波羅蜜多経 巻第四百八十四 建中二年徐浩敬書写:一巻
宋槧本 弘明集 梁・僧祐遍 存巻一・十二・十四:三帖
韻府群玉 明・正統二年刊 田安徳川家旧蔵:二〇冊
鉅宋 広韻 南宋麻沙鎮劉仕隆刊本 初印本:五冊
資治通鑑綱目 宋・朱熹 明・成化九年序刊経廠本:三〇冊

2010年9月11日土曜日

『芸術界』総129期

迂闊にも中国でこんな雑誌が出ているとは知らなかった。


『芸術界』総129期 2010年8月号(芸術界雑誌社、2010年8月)。
英文タイトルは『LEAP』。

中国当代芸術双語双月刊、
すなわち、中国現代アートのバイリンガル雑誌(隔月刊)。
中国語と英語で中国現代アートをところせましと紹介している。
総頁数は216頁(フルカラー)で、読みごたえたっぷり。
展覧会の広告も多いけど、それもまたいい感じ。

張曉剛や徐震といった著名なアーティストから、
近年、売り出し中の若手アーティストまで網羅。
記事内容もインタビューや作品紹介、市場、展覧会レビューと盛りだくさん。                               (目次の一部)

なにより誌面がかっこいい。


以前、日本でもアジア太平洋地域の現代アートを紹介していた
バイリンガル雑誌(日本語・英語)の『ARTiT』があったけど、
今はウェブに移行してしまい、雑誌自体は出ていない。

それにしても129期ということは、ずいぶん前からあったはず。
なんで気付かなかったのだろうか。
それとも現代アート専門になったのは近年のことなのだろうか。

そう思って百度で検索してみたら、
2010年2月に現在の形になったとのこと。
ある意味できたてほやほや。
これから、バックナンバーを探してみよう。

2010年9月5日日曜日

三菱が夢見た美術館

現在、三菱一号館美術館で開催されている
「三菱一号館美術館開館記念展〈Ⅱ〉三菱が夢見た美術館―岩崎家と三菱ゆかりのコレクション」を見に行ってきました。

岸田劉生《童女像(麗子花持てる)》がトップを飾る
現在配られているチラシを見る限り、全くもって興味わかないのだけど、


以前、配られていたらしいチラシを見ると、
途端に興味がわいてくる。


展覧会の構成は次の通り
序章「「丸の内美術館」計画:三菱による丸の内の近代化と文化」
第1章「三菱のコレクション:日本近代美術館」
第2章「岩崎家と文化:静嘉堂」
第3章「岩崎家と文化:東洋文庫」
第4章「人の中へ街の中へ:日本郵船と麒麟麦酒のデザイン」
第5章「三菱のコレクション:西洋近代絵画」
終章「世紀を超えて:三菱が夢見た美術館」

正直言って、目当ては第2章・第3章のみ。
静嘉堂、そして東洋文庫の名品を見ることができる。

三菱一号館美術館は、今年の四月に開館したばかり。
明治時代の三菱一号館を復元させた作り。
レンガ造りで見た目はものすごく歴史ありそう。
内部に入ってみると、美術館とは思えない狭さ。
でも、この狭さが鑑賞に心地よい。

最初は、序章・第1章は素通りしようかと思っていたのだけど、
見たら見たで結構いい感じ。図録のカバーデザインにもなっている
黒田清輝の《春の名残》がなかなかよかった。

で、いよいよ第2章。
岩崎彌之助・小彌太が収集した古典籍・美術品をおさめた静嘉堂。
その逸品が並んでいる。

まずはじめは、南宋前期刊『周礼』と南宋初期刊『李太白文集』。
陸心源の旧蔵書に由来する南宋版。もちろん両方とも重要文化財。
素人から見ても、かっこいい刷り上がり。
蔵書印も見てると面白い。パスパ文字(多分)のものや、
肖像画を描いた蔵書印(陸心源?)もある。

お次は、曜変天目(国宝)。
茶器には全くと言っていいほど興味ないのだけど、
この茶器は本当にすごかった。
12~13世紀の建窯産だけど、現代陶磁器も真っ青のデザイン。
黒茶碗の内側に青光りする斑点。偶然なのかもしれないけど、
時代を越えたデザインってこういうのを言うのではなかろうか。

あと、松永久秀が持っていた付藻茄子(九十九茄子)も展示してある。
参観中は、九十九茄子は松永久秀自害の時に壊されたはずだから別物だろう、
と勘違いして、じっくり見なかったのだけど、
よくよく思いだしたら、道連れに壊されたのは平蜘蛛だった。
図録の解説を見たら、久秀から信長にわたり、本能寺の変にも巻き込まれたが、
なんとか救われ、秀吉のもとへ。そして今度は大阪夏の陣に罹災。
損壊してしまったが、惜しんだ家康が焼け跡から破片を回収させて、
修復させたという。
いや~、激動の茶器だわ。


う~ん、こんな調子で紹介してたら、先に進まないですね。
では第3章「岩崎家と文化 東洋文庫」に。

もうここは、書名だけでも十分かもしれませんね。
国宝『毛詩』、国宝『文選集注』、
重要文化財『楽善録』、重要文化財『論語集解』。

『毛詩』と『論語集解』には、ヲコト点や半切・訓点が
書き込まれていて見ていて飽きない。
しかも『論語集解』は、ちょうど学而篇の冒頭
「子曰学而時習之不亦悦乎」が展示されているし。
うろ覚えのヲコト点の知識でも楽しめる。
今思ったのだけど、ヲコト点図をもっていけばさらに楽しめたかも。
持っていけばよかったなぁ……。

『ターヘル・アナトミア』と杉田玄白訳『解体新書』が
隣り合わせにおかれているのもなかなかの演出。

坂本龍馬熱にあやかって、海援隊が出版した和英対照発音ハンドブックの
『和英通韻以呂波便覧』も展示してある。

乾隆帝期の『平定準■[口+葛]爾方略(満文)』は、
満文が縦書きで左から右に表記するため、左開きになっている。
縦書き=右開きに慣れているので、違和感たっぷり。

あと16~18世紀の日本・アジア地図五点も見ていて飽きない。
他にも日本の古活字本や朝鮮本などなど、いろんなものがあります。
東洋文庫の名品をまとめてみる機会は、
そうそうないので、ほんっとに眼福でした。

第4章~終章は省略します。
最後の最後に三菱が丸の内を購入したころの風景画、
郡司卯之助「三菱ヶ原」が飾ってあります。
まるで野原。100年の月日の重さを感じます。


今回の展覧会の会期は、11月3日(水・祝)までで、休館日は月曜日です。
開館時間は、水・木・金は10時~20時、火・土・日は10時~18時。
当日券は、一般1300円、学生1000円です。
また、何回か展示替えがあります。
残念ながら曜変天目は今日(9月5日)までだそうです。

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追記:9月14日(火)21:20

『論語集解』を紹介する時に、学而篇の冒頭を掲げましたが、
ふと「なんか違うなぁ」と思って、よくよく見てみると、
「不亦説乎」とあるべき箇所が「不亦悦乎」となってました。
修正しなきゃ、と思ったのですが、念のため図録を見返すと、
やっぱり「不亦悦乎」となってます。
残念ながら、図録では左傍に書かれた注記まではよめず。
その場で気づけばよかった……。
旧抄本ゆえのことなのか、別の原因があるのか、
調べてないのでわかりませんが、とりあえずそのままにしておきます。

2010年9月2日木曜日

第21回中唐文学会大会

第21回中唐文学会大会

日時:2010年10月8日(金)14:00~
会場:広島市まちづくり市民交流プラザ北棟5階研修室A・B

報告
14:00~ 種村由季子「駱賓王における交遊の地縁性」
15:00~ 太田亨「静嘉堂文庫所蔵『唐柳先生文集』(宋版)の残巻について」
16:00~ 内田誠一「唐代詩人の影を追って―河南登封・山西永済・江西九江旧蹟調査報告―」
17:00~ 総会

第61回仏教史学会学術大会

第61回仏教史学会学術大会

日時:2010年10月23日(土)
会場:佛教大学

午前の部
[東洋部会] 研究発表(10:00~12:00)
福島重「元代華北における曹洞宗の展開」
山口周子「「雲馬王譚」の変容―Jatakaから『今昔物語』まで―」
山中行雄氏「タイ北部ランナー王国(1296-1558)で成立したパーリ語注釈書の重要性について―Vessantaradiipaniiを例として―」

[日本部会] 研究発表(10:00~12:00)
関山麻衣子「古代における神仏習合思想の形成―古代朝鮮仏教を手がかりに―」
松金直美氏「門主達如の下向・参向―近世東本願寺教団の社会的位置をめぐって―」
斎藤信行「真宗教団の体制内化―覚如・存覚を中心に―」

午後の部
[合同部会] 研究発表(13:00~15:00)
坂口太郎「知られざる僧伝研究者 島田乾三郎―その業績と蔵書をめぐって―」
小山貴子「中世後期の在地修験の動向」
池田昌広「「古記」所引『漢書』師古注について」

[記念講演](15:10~)
竺沙雅章「宋元版大蔵経再説―とくに契丹大蔵経をめぐって―」

2010年8月31日火曜日

李公子の謎

佐藤文俊『李公子の謎―明の終末から現在まで―』(汲古書院、2010年8月)

李自成に仕えたとされる李巌の実在・非実在をめぐる論争について、
明末の史料から現在の最新研究までを網羅。
非実在説で決まりかなぁ、と思っていたら、
近年、新たな族譜の発見で、再び実在説が強くなっているらしい。
郭沫若による政治利用(影射史学)も興味深い。

李巌論争に関する日本の研究が殆ど登場しないけど、
日本の研究者は、李巌の実在・非実在に興味なかったのかな。

博物学と書物の東アジア

高津孝『博物学と書物の東アジア―薩摩・琉球と海域交流―』(榕樹書林、2010年8月)

琉球弧叢書23。琉球と薩摩の博物学(本草学・鳥学)、
琉球の書物・文化、薩摩の文化の三つのテーマで、
東アジア社会(江戸・清・琉球)の文化交流・連動性を描いている。
第一部「博物学の海域交流」の「一、『琉球産物志』から『質問本草』」や
「二、中国伝統医学と琉球」、第二部「書物と文化の海域交流」の
「一、琉球の出版文化」、「二、近世琉球の書物文化」などが特に興味深かった。

付録の「がじゅまる通信」No.64も面白い。
榮野川敦「一九九三年の琉球関係漢籍調査と琉球版『論語集註』の確定」は、
高津孝氏との漢籍調査のいきさつや思い出を語っている。
また、武石和実「博物学・本草学の本」は、古書市などに出回った
琉球関係の博物学の和本について紹介している。

2010年8月28日土曜日

漢文と東アジア

金文京『漢文と東アジア―訓読の文化圏』(岩波新書、2010年8月)

日本のみならず、朝鮮や中国周辺諸民族の訓読現象について紹介し、
東アジアを、「漢字」文化圏ではなく、「漢文」文化圏として
捉えなおすことを提唱している。

第一章では、日本の訓読について通史的に述べ、
漢訳仏典が訓読のヒントになった可能性を指摘している。
第二章では、朝鮮半島の訓読について、かなり詳細に紹介し、
近年明らかになってきた朝鮮訓読と日本訓読の関係性を論じている。
また、契丹やウイグル、ヴェトナムの訓読現象を紹介し、
さらには現代中国語における訓読現象にも言及している。
第三章は変体漢文を取り上げている。

日本以外の地域の訓読現象を詳細に紹介していて興味深い。
契丹語まじりの漢詩は、はじめて見た。
また、新羅の変体漢文に言及する際に、
「中国南北朝時代の北朝系の漢文」との類似性を指摘している(198頁)。
蛇足ながら、注に引かれている小川環樹「稲荷山古墳の鉄剣銘と太安万侶の墓誌の漢文におけるKoreanismについて」(『小川環樹著作集』第五巻、筑摩書房、1997年)は、北朝の墓誌などにみえる変体漢文(鮮卑語の影響)について論じていて、もう少し注目されていい論文だと思う。

第62回日本中国学会大会(日本漢文)

第62回日本中国学会大会(日本漢文)

日時:2010年10月9日(土)・10日(日)
会場:広島大学文学部
諸会費:大会参加費2000円、昼食弁当代1000円、写真代1000円

第五部会 日本漢文 (B104教室)
10月9日(土)
10:00~10:30 丹羽博之「藤井竹外「芳野」詩の背景 ―元稹「行宮」詩と李氏朝鮮徐居正「皐蘭寺」詩―」
10:30~11:00 中丸貴史「漢文日記叙述と漢籍 ―摂関家の日記としての『後二条師通記』―」
11:00~11:30 河野貴美子「中国古典籍研究における日本伝存資料の意義 ―北京大学図書館蔵余嘉錫校『弘決外典鈔』をめぐって」
11:30~12:00 住吉朋彦「『千家詩選』と『新選集』―周防国清寺旧蔵本をめぐって―」
13:30~14:00 佐藤道生「平安時代に於ける『文選集注』の受容」
14:00~14:30 佐藤進「六臣注文選所引毛詩の訓読について」
14:30~15:30 戸川芳郎「「日本漢文」部会設立趣旨説明:日本漢文研究のことども」

10月10日(日)
09:30~10:00 郭穎「日本漢詩における「和臭」・「和習」・「和秀」―『東瀛詩選』を手掛かりに―」 10:00~10:30 高山大毅「『滄溟先生尺牘』の時代 ―書肆と古文辞末流―」
10:30~11:00 小池直「伊藤仁斎の学問論における朱子学批判の意義」
11:00~11:30 松井眞希子「海保青陵『老子國字解』について―徂徠學派における『老子』研究―」
11:30~12:00 有馬卓也「岡本韋庵の思想」
13:00~13:30 中村聡「『博物新編』―幕末明治初期に渡来した自然神学的科学書の正体―」
13:30~14:00 唐煒「西大寺本金光明最勝王経平安初期点における中国口語起源の訓読」
14:00~14:30 陶徳民「大正後期の「漢文直読」論をめぐる学問と政治 ―文化交渉学の視点による考察―」

さすが日本中国学会。三部門でこれだけの報告をそろえている。
哲学・思想にも、文学・言語にも、興味深い報告があるが、
個人的に一番関心あるのが日本漢文。かなり面白そうだなぁ。

第62回日本中国学会大会(文学・語学)

第62回日本中国学会大会(文学・語学)

日時:2010年10月9日(土)・10日(日)
会場:広島大学文学部
諸会費:大会参加費2000円、昼食弁当代1000円、写真代1000円

第三部会 文学・語学Ⅰ (B204教室)
10月9日(土)
10:00~10:30 浜村良久 ・水野實「『詩經』國風における歌謡型と脚韻規則の考察」
10:30~11:00 胡晋泉「「關雎」再考―『詩経』「關雎」篇における「再生産」の技法について―」
11:00~11:30 安藤信廣「北周趙王「道會寺碑文」の問題点 ―聖武天皇『雑集』中の「周趙王集」に基いて」
11:30~12:00 丸井憲「沈佺期・宋之問の「變格」五言律詩について ―張九齢・王維の五律との比較をもとに―」
13:30~14:00 長谷川 真史「元稹「楽府古題序」の矛盾 ―元稹の文学観における「古」と「新」―」
14:00~14:30 山崎 藍「井戸をめぐる―元稹悼亡詩「夢井」における「遶井」―」
14:30~15:00 原田愛「蘇軾「和陶詩」の継承と蘇轍」
15:00~15:30 荒木達雄「虎を見る目の変化 ―『醒世恒言』「大樹坡義虎送親」と『水滸伝』から―」
15:30~16:00 上原究一「『李卓吾先生批評西遊記』の版本について ―「広島本」の真価―」

10月10日(日)
09:30~10:00 大橋賢一「尤袤本『文選』李善注考 「善曰」に着目して」
10:00~10:30 栗山雅央「「三都賦」劉逵注の特質 ―晋代の辞賦注釈と紙―」
10:30~11:00 蕭涵珍「馬琴の『曲亭伝奇花釵児』にみる李漁の『玉搔頭伝奇』」
11:00~11:30 竹村則行「明清文学史から見た清・顧沅の『聖蹟図』」
11:30~12:00 小方伴子「段玉裁『説文解字注』における『国語』の引用テキストについて」
13:00~13:30 落合守和「順天府档案に見える供詞の言語について」
13:30~14:00 岩田和子「清末民初湖南における「私訪」故事説唱の流通について」
14:00~14:30 平田昌司「章炳麟の語彙・文体変化の一要因」
14:30~15:00 藤田一乘「日本から來たエスペラント」

第四部会 文学・語学Ⅱ(現代) (B253教室)
10月9日(土)
13:30~14:00 王暁白「戦時の「夢」に浮かぶ都市―張恨水のエッセー集『両都賦』への一考察」
14:00~14:30 城山拓也「戴望舒と夢想する言葉」
14:30~15:00 岸田憲也「郭沫若の詩題に用いられた「日本人民」「日本友人」語の考察 ―一九六〇年代前半の旧詩を中心に―」
15:00~15:30 湯山トミ子「解放の扉の前と後―二人の“蝦球”と消えた女性群像」
15:30~16:00 渡邊晴夫「孫犁の文体について ―その特徴と文革後の変化―」

第62回日本中国学会大会(哲学・思想)

第62回日本中国学会大会(哲学・思想)

日時:2010年10月9日(土)・10日(日)
会場:広島大学文学部
諸会費:大会参加費2000円、昼食弁当代1000円、写真代1000円

第一部会:哲学・思想Ⅰ (B251教室)
10月9日(土)
10:00~10:30 白雲飛「夢の中の死者と魂」
10:30~11:00 吉冨透「『楚辭』から見た上海博物館藏戰國楚竹書『三德』の構成とその内容」
11:00~11:30 青山大介「『呂氏春秋』と〈蓋廬〉―先秦末漢初における時代性と地域性に関する考察―」
11:30~12:00 多田伊織「六朝期の散逸医書『僧深方』の輯佚と復元」
13:30~14:00 城山陽宣「董仲舒対策の真偽説の再検討」
14:00~14:30 島田悠「西晉武帝の「無為の治」」
14:30~15:00 白高娃「劉向『列女伝』について―「孽嬖伝」を中心に」
15:00~15:30 南部英彦「劉向の公私観とその政治的背景」
15:30~16:00 大久保隆郎「浮屠と讖緯―華夷思想展開の一試論―」

10月10日(日)
09:30~10:00 髙田哲太郎「『管子』に於ける「道」の展開」
10:00~10:30 頴川智「通行本『老子』の「道」に見られる矛盾」
10:30~11:00 池田恭哉「『劉子』に見える劉昼の思想」
11:00~11:30 齊藤正高「「物理小識自序」の再檢討」
11:30~12:00 原信太郎・アレシャンドレ「劉宗周の本体工夫論」
13:00~13:30 安部力「『天学初函』における『職方外紀』の位置について ―イエズス会士が伝えたもの―」
13:30~14:00 播本崇史「明末天主教書における霊魂について ―その「行」に関する一考察―」
14:00~14:30 早坂俊廣「全祖望と鈔書の精神史」
14:30~15:00 水上雅晴「乾嘉の學と科擧」

第二部会:哲学・思想Ⅱ (B253教室)
10月10日(日)
10:00~10:30 高橋均「〔養老令・学令〕の「凡教授正業…論語鄭玄・何晏注」をめぐって ―日本に「論語鄭玄注」は伝わったのか―」
10:30~11:00 大兼健寛「『新五代史』と『蜀檮杌』 ―王蜀を主として」
11:00~11:30 関口順「東アジアにおける「礼」の特質と機能について ―「礼」認識と「礼」受容の困難さ―」

あまりにも報告者の数が多いので、
哲学・思想、文学・語学、日本漢学ごとに分けます。

2010年8月27日金曜日

和漢比較文学会第三回特別研究発表会

和漢比較文学会 第3回 特別研究発表会(特別例会)プログラム
〔和漢比較文學會-2010台灣特別研究會〕

日時:2010年9月3日(金)
場所:台湾大学(台北市羅斯福路四段一号)文学部国際会議室

午前(8:50~12:35)
林欣慧「桐壺更衣―中国后妃像の受容と変容―」
郭潔梅「源氏物語と唐の歴史との関係-紅葉賀巻にみえる好色な老女の物語と則天武后の故事を通じて-」
吉原浩人「大江以言擬勧学会詩序と白居易」
丹羽博之「白居易と岩垣竜渓の「代売薪女贈諸妓」詩」
藏中しのぶ「大安寺文化圏の歴史叙述―『大安寺碑文』『南天竺婆羅門僧正碑』の手法と構想―」 
西 一夫「大伴家持の詩文表現受容―歌と左注―」
張培華「枕草子における和漢朗詠集の引用―四系統本文の表現差異を中心に―」 
谷口孝介「菅原道真の官職表現」

午後(13:30~19:25)
木戸裕子「「殆ど江吏部の文章に近し」-大江匡衡と平安後期漢詩文-」 
郭穎「日本漢詩における「和臭」・「和習」・「和秀」―『東瀛詩選』を手掛かりに―」
鈴木望「無窮会の文事―加藤天淵・吉田学軒の宮内省御用掛としての任務に就きて―」
森岡ゆかり「近代台日女性漢詩人の「詠史」―陳黄金川『金川詩草』(1930年刊)・三浦英蘭『英蘭初稿』(1934年刊)比較小考」―」
森田貴之「『唐鏡』考 ―法琳『弁正論』の受容―」
菊地真「『日蔵夢記』の世界観」
陳可冉「芭蕉俳諧と日本漢詩の一接点―「馬に寝て」句を読み直す―」
新間一美「『奥の細道』と白居易の「三月尽」」
相田満「日本の古典絵画を観相する」
増子和男「獺怪異譚を語り継ぐ者―泉鏡花を中心として―」
三田明弘「『法苑珠林』『太平広記』における神異僧伝とその日本への影響」
堀誠「日中の俗信と文学―比較文学の一視点―」
陳明姿「『今昔物語集』の鬼と中国文学―本朝部を中心にして―」 

第29回和漢比較文学会大会

第29回和漢比較文学会大会

日時:2010年9月25日(土)・9月26日(日)
会場:信州大学教育学部東校舎504教室

9月25日(土)公開講演会
14:10~17:35
玉城司「松代藩六代藩主真田幸弘の文芸―漢詩・和歌・俳諧―」 
仁平道明「和漢比較文学研究の射程―〈『源氏物語』と『後漢書』清河王慶伝〉再論―」 

9月26日(日)研究発表会・総会
9:30~12:00
隋源遠「「年内立春詠」の和漢比較的研究」
韓雯「「暗香」考―「夜の梅」のイメージを中心に―」
小財陽平「三宅嘯山の『唐詩選』受容」

13:00~16:30
李國寧「林家の隠逸思想と其角の市隠」
仁木夏実「水府明徳会蔵「詩集」について」
山田尚子「『王沢不渇鈔』における句題詩序の構成について」
三木雅博「〈忠と孝との鬩(せめ)ぎ合い〉と中国孝子譚―『経国集』対策文から平家・近松へ―」 

2010年8月15日日曜日

“これも自分と認めざるをえない”展



東京ミッドタウンにある21_21DESIGN SIGHTで開催中の
「“これも自分と認めざるをえない”」展に行ってきました。
企画者は佐藤雅彦。「属性」をキーワードに、
「自分らしさ」や「個性」を考えるアート展。


受付をすませると、
すぐに身長やら、体重やらを計測される(数字は出ません)。
「注文の多い展覧会である」とチラシにある通り、
確かに出だしから注文が多い。
飛ばそうかとも一瞬思ったけど、これがメイン会場で意味を持ってくる。


階段を下りると、早速展示がはじまる。
白いパネルの上に、群れをつくって泳ぎ回る微生物。
なんだろうと思って近づくと、それは指紋。
機械に読み取らせた指紋が泳ぎだす、
ユークリッド「指紋の池」


続いて、メイン会場に入るための「属性のゲート」。
男性or女性、30歳以上or29歳以下、笑顔or無表情
この3つのゲートが立ちふさがる。
オムロン社の開発した顔面識別装置によって、
認識されたゲートが開く仕組み。

例えば、カメラに顔を向けて、
笑顔だと判定されたら、笑顔のゲートが、
無表情だと判定されたら、無表情のゲートが開く。

さぁ、どんなもんだろ、と思って進むと、
なんと3つのうち、2つのゲートで誤判断された。
結構ショック。

コンセプトとしては、
「あなたの思っている属性と機械が認識する属性は一致してますか?
あなたの属性ってなんでしょうね?」といったとこなんでしょうが、
機械の顔面識別能力が、まだまだ低いだけな気がする。
見ていたら、「男性」と判断される「女性」がちょくちょくいて、
笑って動揺をごまかしていた。誰が見ても明らかに女性なのになぁ。


その後のメイン会場は、
虹彩、ふるまい、類似性、耳紋、視線、距離、鼓動などなど、
「属性」、「分類」、「個性」をめぐる参加型アートがずらり。
小型アミューズメントパークといったところで、なかなか楽しい。
それでいて「個性」とは何か、どこまでが「自分」なのか、
といったことを考えさせてくれる。
ただ、どれも参加型のため、時間がちょっとかかるのが難点。


一番大きな問題は、
長時間並んだものほどつまらない、ということ。
待てば待つほど、期待値が高まるのだけど、
結果的に「えっ、これで終わり?」てな感じ。

特に「座席番号G-19」はひどい。
30~40分並んだあげく、3分ほどつまらない画像を見せられ、
説明も何もない。


結構、考えさせられるし、それでいて楽しい展覧会のはずだったのだけど、
長時間並んだせいで、なんだかつまらなかったなぁ、という印象が強い。
もったいないなぁ。

見に行く際は、長蛇の列をなしている展示は、
すっとばした方がいいかと思います。


開催期間:2010年11月3日(水)まで。
開館時間:11:00~20:00
休館日:火曜日
入場料:一般1000円・大学生800円

2010年8月14日土曜日

誕生! 中国文明



東京国立博物館で開催中の「誕生! 中国文明」展に行ってきました。
中国・河南省で出土した文物を展示しているこの展覧会、
ポスターのひよこはさておき、なかなか見応えあります。


第一部は「王朝の誕生」
「夏」王朝から漢代までの文物を展示。
図版などによく登場する「夏」の動物紋飾板が最初の展示物。
その他、周の玉覆面やら、春秋・鄭の九鼎やら、前漢の金縷玉衣やら、
権力に関するもの(威信財の類)が多数展示してある。


第二部は「技の誕生」
「暮らし」・「飲食の器」・「アクセサリー」の三つのテーマ。
時代の変化の説明がないので、ちょっとわかりにくいかも。

第二部で一番面白かったのが、後漢の明器。
七層楼閣(番犬・荷物を運ぶ人付き)や水鳥・魚の遊ぶ池、
蝉のバーベキュー、動物の解体シーン(骨をしゃぶる犬付き)など、
当時の豪族の生活が浮かびあがる明器がずらり。

蝉なんかじゃなくて、もっといいもの明器にすればいいのに、
と思ったけれど、やっぱり再生の象徴たる蝉がよかったのだろうか。
それとも墓主が蝉好きだったのかな。

「アクセサリー」では、戦国時代のトンボ玉やら、
北朝時代の貴石金製指輪が興味深かった。


第三部は「美の誕生」
テーマは「神仙の世界」・「仏の世界」・「人と動物」・「書画の源流」の四つ。
後漢の青銅製(金メッキ)動物は、一角の麒麟が丸みがあっていい感じ。
後漢の胡人俑は猪木もびっくりのアゴ。
唐代になるとずいぶんリアルな感じで、造形がかなり異なる。
技術的な問題だけでなく、胡人の浸透具合が違ったからだろうなぁ。

「書画の源流」は、正直そんなにぱっとしないけど、
西晋の「徐義墓誌」、唐の「楊国忠進鋌」(銀板)あたりはじっくり拝見。
南北朝時代の彩色画像磚や、唐代の山水図瓶なんかは初めて見た。


今回の展覧会は、一級品ばかりがきている、
というわけではないのだけど、面白いものが結構きてます。
図録もなかなかいい感じ。

9月5日(日)まで東京国立博物館平成館で開催。

2010年8月13日金曜日

『思想』No.1036

『思想』No.1036(2010年8月)は、
特集「ヘイドン・ホワイト的問題と歴史学」。
言語論的転回も、ヘイドン・ホワイトも、『メタヒストリー』も
全然わかってないのだけど、背伸びして読んでみました。

目次は以下の通り
ハリー・ハルトゥニアン「思想の言葉」
ヘイドン・ホワイト「実用的な過去」
ヘイドン・ホワイト「コンテクスト主義と歴史理解」
聞き手:エヴァ・ドマンスカ「〈インタビュー〉ヘイドン・ホワイトに聞く」
デヴィッド・ハーラン「40年後の「歴史の重荷」」
安丸良夫・小田中直樹・岩崎稔(司会)「〈座談会〉『メタヒストリー』と戦後日本の歴史学―言語論的転回の深度と歴史家の責任」
上村忠男「トロポロジーと歴史学―ホワイト=ギンズブルグ論争を振り返る」
長谷川貴彦「物語の復権/主体の復権―ポスト言語論的転回の歴史学」
長谷川まゆ帆「ヘイドン・ホワイトと歴史家たち―時間の中にある歴史叙述」
成田龍一「3つの「鳥島」―史学史のなかの「民衆史研究」」
今野日出晴「歴史を綴るために―〈歴史教師〉という実践」
舘かおる「歴史分析概念としての「ジェンダー」」
桜井厚「「事実」から「対話」へ―オーラル・ヒストリーの現在」


やはり、『メタヒストリー』を読んでいないのに、
ヘイドン・ホワイト特集を読むのは無理があったかもしれないです。
ヘイドン・ホワイトの『メタヒストリー』は、
原著が1973年に出たにも関わらず、日本語訳が出ていません。
どうやら、もうすぐ出るらしいので、読んでから再チャレンジしようかな。

ただ、ところどころで、ホワイトの考えが『メタヒストリー』刊行当時から、
論争や批判を経て、変化している様子がうかがえました。
その点も含めたヘイドン・ホワイト概説みたいな
文章があれば、もう少し理解できたんじゃないかなぁ、と思います。

それにしても、ホワイトってどうせバリバリの歴史哲学者でしょ、
とか思っていたのですが、実は1928年生まれで、
西洋中世の教会史を研究していたとは驚きでした。


個人的に楽しくスムーズに読めたのは、
ホワイトのインタビュー、「〈座談会〉『メタヒストリー』と戦後日本の歴史学」、
成田論文、今野論文、桜井論文あたり。
やっぱり、理論より具体的な文章の方が読みやすく感じてしまう。
なかでも今野論文の現代歴史学(言語論的転回以後の歴史学)と歴史教育の関係、その実践方法に関する論文が最も興味深かったです。

2010年8月12日木曜日

東アジアの出土資料と情報伝達

国際学術シンポジウム「東アジアの出土資料と情報伝達」
会場:愛媛大学法文学部8階大会議室
日時:2010年10月9日・10日

10月9日(土)15:00~18:30
陳偉「中国簡牘研究の現状-秦簡牘の総合整理と研究」
金慶浩「韓国簡牘研究の現状-東亜資料学の可能性」
コメント:工藤元男・金秉駿
通訳:廣瀬薫雄・佐々木正治

10月10日(日)10:00~16:00
藤田勝久「中国簡牘にみえる文書伝達と交通」
平川南「日本古代における文字使用」
鈴木景二「日本古代の木簡と墨書土器」
佐藤信「日本古代の出土資料研究の課題」
松原弘宣「日本古代における情報伝達と世論形成」
シンポジウム討論

2010年8月11日水曜日

晋代貨幣経済の構造とその特質

柿沼陽平「晋代貨幣経済の構造とその特質」(『東方学』120、2010年7月)

晋代は銭・布帛中心の貨幣経済が展開したが、
秦漢代と異なり、銭が国家的決済手段ではなく、
市場における経済的流通手段となっていたとする。

戦国秦漢の貨幣経済について研究してきたからこそ、
晋代の貨幣経済の構造が見えてくるのだろう。
今後、さらに時代を下って、各時代の貨幣経済の構造を
明らかにしてくれるのが楽しみ。

2010年8月10日火曜日

第四回中国中古史青年学者国際研討会

第四回中国中古史青年学者国際研討会
日時:2010年8月27日~8月29日
会場:台湾大学文学院演講庁

プログラム

8月27日
09:20~10:10 李昭毅「従漢代「分等課役」原則説「傅」与「為正」」 
 コメント:阿部幸信
10:10~11:00 陳侃理「従陰陽書到明堂礼―読銀雀山漢簡〈迎四時〉」 
 コメント:游逸飛
11:20~12:10 陳識仁「寐寤之道:中国中古時代的睡眠観」
 コメント:余欣
13:40~14:30 谷口建速「従長沙走馬樓呉簡看三国呉的給役与賦税」
 コメント:孟彦弘
14:30~15:20 張文杰「走馬樓呉簡所見戸籍簡籍注内容試探」
 コメント:魏斌
15:40~16:30 張栄強「「使戸」与「延戸」—江陵松柏漢簡所見的蛮夷編戸問題」
 コメント:永田拓治
16:30~17:25 魏斌「漢晋南方人名考—単名・二名的展開及其意義」
 コメント:呉修安・許凱翔

8月28日
09:00~09:50 徐沖「「処士功曹」小論:東漢後期的処士・故吏与君臣関係」
 コメント:安部聡一郎
09:50~10:40 趙立新「南朝士人起家前的名声与交遊」
 コメント:小尾孝夫
11:00~11:55 黃玫茵「唐代後期江南貶官研究─以江南六使区官僚的貶入遷出為中心」
 コメント:游自勇・陳文龍
13:30~14:20 岡部毅史「関於北魏前期的位階秩序—以対爵与品的分析為中心」
 コメント:胡鴻
14:20~15:10 吉田愛「東魏北斉的鄴和晋陽」
 コメント:朱振宏
15:30~16:25 林静薇「東魏北齊遣使制度初探」
 コメント:佐川英治・松下憲一
16:25~17:20 梶山智史「北魏的東清河崔氏—崔鴻《十六国春秋》編纂的背景」
 コメント:古怡青・林宗閱

8月29日
09:00~09:50 内田昌功「南朝後期建康的朝堂布局」
 コメント:孫正軍
09:50~10:40 藤井康隆「関於南北朝陵墓喪葬空間的構思和設計」
 コメント:林聖智
11:00~11:50 陳昊「若隱若現的城市中被遺忘的屍體?—隋代中期至唐代初期的疾疫、疾病理論的轉化與長安城」
 コメント:胡雲薇
13:30~14:20 顧江龍「漢唐婦女爵邑制度的演進」
 コメント:鄭雅如
14:20~15:10 葉煒「唐代異姓爵的襲封問題」
 コメント:戸川貴行
15:30~16:20 蔡宗憲「鄧艾祠廟的跨域分布及其祭祀爭議—中古神祠的個案研究之一」
 コメント:雷聞
16:20~17:10 田中靖彦「澶淵之盟和曹操祭祀—関於真宗朝的「正統」的萌芽」
 コメント:仇鹿鳴

今年は台湾で開催される中国中古史青年学者国際研討会。
日本・中国・台湾の若手研究者が結集していて壮観。
面白そうな報告がたくさん並んでいる。

2010年度魏晋南北朝史研究会大会

2010年度魏晋南北朝史研究会大会
日時:9月18日(土)13時~
会場:駒澤大学深沢校舎1-2講義室

[報告]
堀井裕之「墓誌からみた北魏後期~隋初における趙郡李氏と族葬墓の形成」
コメント 室山留美子
篠原啓方「高句麗墓誌の特長と、魏晋南北朝代墓誌の影響について」
コメント 三崎良章氏
   
[学会報告] 
市来弘志「“高台魏晋墓与河西歴史文化学術研討会”参加記」
阿部幸信「“第四届中国中古史青年学者国際研討会”参加記」

2010年8月5日木曜日

項羽

佐竹靖彦『項羽』(中央公論新社、2010年7月)

『劉邦』の続編に相当。
前著と同様、『史記』・『漢書』の作為性を指摘し、楚漢戦争の実像に迫ろうとする。
合理的根拠に基づく大胆な仮説が多く、読み物としても面白い。

某書店の中国史コーナーをくまなく探したけれど見つからず、
あきらめて帰ろうとした時、
ふと、時代小説コーナーにあるのではないかと思い、
確認したところ、平積みされていた。

出版社と表紙の雰囲気で小説扱いされちゃったんだろうなぁ。
でも、中身は本格的な伝記です。

書物を読み利用する歴史

バレンデ・テル・ハール著、丸山宏訳「書物を読み利用する歴史―新しい史料から―」(『東方学』120、2010年7月)

宗教書をもとに、明清期の非エリートの書物に対する
態度の一端を明らかにしようとしている。
取り上げられた宗教書は、龍華会(無為教)で作られた『七支因果』と
民衆叛乱の際に利用された『五公経』の二つ。

このうち、『五公経』については、
中国の古書サイト孔夫子を利用して、『五公経』の写本を検索し、
ヒットした古書店の地理的分布や数ページ分のスキャン画像をもとに、
『五公経』の写本が清・民国期広く流布していたとする。
斬新な手法で、なかなかまねできない。

2010年8月4日水曜日

鮮卑拓跋氏の南下伝説と神獣

佐藤賢「鮮卑拓跋氏の南下伝説と神獣」(『九州大学東洋史論集』38、2010年4月)

考古学・環境史の成果と文化人類学・神話学の知見を援用し、
鮮卑拓跋氏の「南下伝説の背後に潜む史実」の解明を試みている。
史料の殆どない時代の史実に、どのように迫って行くか、
様々な学問分野を取り込んでいて興味深く、参考になります。

中国貴族制と「封建」

渡邉義浩「中国貴族制と「封建」」(『東洋史研究』69-1、2010年6月)

中国の貴族制は「身分制として皇帝権力により組織された」とし、
なかでも両晋南北朝期の貴族制は、爵制を中心とした
「封建」という理念によって正統化されたとする。
そして、唐代に貴族の基準が、爵位ではなく官品に移行したことにより、
唐の貴族の自律性・世襲性が失われていくとする。

社会的身分としての貴族と国家的身分制としての貴族制とを
分離して考える必要性を指摘するなど、
様々な論点が提示されていて、とても刺激的。

貴族制の根本に位置付けられている爵制だが、
北朝の爵制は、まだはっきりしてない部分が多いので、
今後、研究を進めていく必要がありそう。

2010年8月2日月曜日

第五回三国志学会大会

三国志学会 第五回大会
日時:2010年9月11日(土)
会場:二松学舎大学 九段キャンパス3号館 3021教室
参加費:500円(会員無料)

【研究報告】
10:10~11:00 松尾亜季子「蜀漢の南中政策と「西南シルクロード」」
11:10~12:00 藤巻尚子「結びつけられる三国志と太平記―近世初期の学問・思想の一齣として」
13:00~13:50 仙石知子「毛宗崗本『三国志演義』における養子の表現」
14:00~14:50 稀代麻也子「劉楨―「文学」の「感」」

【講演】
15:30~17:00 興膳宏「人物評価における「清」字」

三国志学会ももう五年目に突入。
今年は史学分野の報告が殆どないですね。

東方学120

『東方学』第120輯(東方学会、2010年7月)

今号も興味深い論文が多数並んでいる。
目次は以下の通り。

【論文】
中嶋隆蔵「隋唐以前における「静坐」」
柿沼陽平「晋代貨幣経済の構造とその特質」
江川式部「唐代の上墓儀礼―墓祭習俗の礼典編入とその意義について―」
遠藤星希「李賀の詩における時間認識についての一考察―太陽の停止から破壊へ―」
村上正和「清代中期北京内城における芸能活動と演劇政策―宗室・旗人との関係を中心に―」
王俊文「武田泰淳における「阿Q」―「私」の分裂と浮遊―」
栗山保之「イエメン・ラスール朝時代のアデン港税関―その輸出入通関について―」
金京南「「三界唯心」考―『十地経論』における世親の解釈とその背景―」

【翻訳】
バレンデ・テル・ハール著、丸山宏訳「書物を読み利用する歴史―新しい史料から―」

【内外東方学界消息(百十九)】
ジョナサン・シルク著、ロルフ・ギーブル訳「追悼 エーリック・チュルヒヤー教授(1928年9月13日~2008年2月7日)」
丘山新「悼念任継愈先生」
赤松明彦「第14回国際サンスクリット学会報告」

【座談会】
「先学を語る」――河野六郎博士
 〔出席〕梅田博之、大江孝男、辻 星児、坂井健一、古屋昭弘

【追悼文】
中野美代子「追憶の伊藤漱平先生―「漱平」さんから「伊藤教授」まで―」
大木康「伊藤漱平先生を偲んで」
斯波義信「石井米雄先生を偲ぶ―東洋文庫と先生―」
桜井由躬雄「石井米雄先生追悼―栄光の官職・研究の孤独―」
野口鐡郎「追悼 酒井忠夫先生」

神父と頭蓋骨

アミール・D・アクゼル著、林大訳『神父と頭蓋骨―北京原人を発見した「異端者」と進化論の発展―』(早川書房、2010年6月、原著は2007年出版)

著者は数理科学や科学者に関するノンフィクションを多数執筆している
統計学者・ノンフィクション作家。
今回の題材は、北京原人・人類進化の研究者でありながら、
敬虔なイエズズ会士であったピエール・テイヤール・ド・シャルダン。

神学と進化論の融合を図ったため、イエズス会に圧迫され続けた
テイヤールの人生の軌跡を巧みに描いている。
要所要所に人類化石の発見史や現在の研究状況も
織り交ぜられていてわかりやすい。
北京原人の発見・研究史も簡潔にまとめられている。

ただ、副題の「北京原人を発見した」という部分は、
英文副題が「……and the Search for Peking Man」となっているし、
テイヤールが発見したわけではないので、
「北京原人を探求した」ぐらいの方がよかったような気がします。

2010年7月31日土曜日

須田悦弘展

今年の夏は本当に暑くてきついですね。

と、そんなわけで、先日、銀座のギャラリー小柳で
開催されている須田悦弘展(本日19時終了)に行ってきました。

ギャラリーに入ると、そこはがらんどうで、
壁にチューリップや朝顔などが
ぽつんぽつんと数輪あるだけ。


この配置が、かっこいい。


花に近付いてみると、全て彩色した木彫り。
虫喰いの後や葉脈、おしべやめしべも全部彫りこまれている。

リアルなだけでなく、どことなく雰囲気のある花たち。
壁から茎が生え、花が咲く。この異質の組み合わせがとてもいい。


一輪だけ残して、他の花弁は摘み取られた朝顔。
枝の切り口は、まるでシャープなハサミで切り取られたかのよう。

チューリップや芍薬といった大きな花もいいけど、
壁の隅っこにひっそりと咲いている萩やつつじもいい。

そして、もっとかっこよかったのが、
ひっそりと受付の足元に生えていたどくだみ。


会場には、こっそりと雑草も置かれている。
展示案内には出ていないので、見落とす人も多いみたい。
以前、ある展覧会で、壁際に雑草が生えてる!と勘違いした清掃員に、
本当に掃除されてしまったことがあるそうです。
また、展示作品と気付かず、踏まれて壊れたことも何度もあるそうです。


展示作品は全部で13点(らしい)。全部見つけるのは、なかなか大変。
だんだん、四葉のクローバーを探す気分になってきました。

大倉集古館の展示とのコラボ(ただし、展示場に説明なし)も、
ちょくちょくあるみたい。
別の美術館で、もしかしたら、偶然出会えるかも。


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追記(2010年8月4日)

展示場で作品集『須田悦弘』(2010年7月)を
購入したことを書き忘れてました。1000部限定で、サイン入り。
これまでの須田氏の作品の数々を見ることができて嬉しい限りです。

『談藪』研究

何旭『『談藪』研究』(不二出版、2010年2月)

隋代に作られたが、宋代に散逸してしまった
『談藪』(南北朝時代を中心とした志人小説)の研究書。
撰者や内容、『世説新語』との関係や後世に与えた影響、
小説史上の位置などを分析した後、
逸文の106条の原文・訳文・注釈を付している。

2010年7月23日金曜日

北魏大乗の乱についての一考察

藤井政彦「北魏大乗の乱についての一考察―沙門法慶の背景をめぐって―」(『大谷大学史学論究』15、2010年3月)

従来、弥勒下生信仰やマニ教・ゾロアスター教などの影響が
指摘されてきた北魏の大乗の乱と首謀者の法慶について、
当時の仏教思潮、特に習禅者との関わりから分析している。

西北出土文献研究第8号

『西北出土文献研究』第8号(西北出土文献研究会、2010年5月)
【論説】
園田俊介「北涼沮渠氏と河西社会―北涼建国以前の沮渠氏を中心として―」
町田隆吉「4~5世紀吐魯番古墓壁画・紙画再論」
關尾史郎「「五胡」時代の符について―トゥルファン出土五胡文書分類試論(Ⅲ)―」
【ノート】
岩本篤志「杏雨書屋蔵「敦煌秘笈」概観―その構成と研究史―」
片山章雄「大谷探検隊吐魯番将来《玄武関係文書》続考」
荒川正晴「ソウル,シルクロード博物館参観記」
【訳註】
佐藤貴保「西夏法令集『天盛禁令』符牌関連条文訳注(上)」

『西北出土文献研究』も8号目(特刊も含めれば10冊目)。
これだけ充実した内容の雑誌を毎年しっかり出しているのがすごい。

2010年7月22日木曜日

〈中国思想〉再発見

中国思想史研究者の溝口雄三氏が、
最近亡くなったことを新聞報道で知りました。
5月に以下の本が出たばっかりだったので驚きでした。

溝口雄三『〈中国思想〉再発見』(左右社、2010年5月)

別にいいやと思って買わずにいたのですが、
亡くなったと知り、ついつい購入してしまいました。

放送大学叢書10。放送大学のテキスト『中国の思想』を一部簡略化したもの。
前半では、中国における天・理・自然・公の概念について説明し、
日本との比較をしている。
後半は、宋学以後の思想史の流れを論じている。

2010年7月15日木曜日

第3回中国石刻合同研究会

第3回中国石刻合同研究会
日時:2010年7月24日(土)
会場:明治大学アカデミーコモン地階 博物館教室

報告
10:30~11:15 石野智大「西安碑林博物館蔵「茘非明達等四面造像題名」考」
11:15~12:00 石見清裕「ソグド人墓誌と北朝末期の華北」
13:00~13:45 徳泉さち「石碑の装飾意匠の変遷-穿に注目して-」
13:45~14:40 宮崎洋一「顔真卿撰書「八関斎会報徳記」について-伝世石刻の変化と享受の一例-」
14:30~15:15 兼平充明「近年の五胡-北魏初期の墓誌史料に関する研究動向-」
15:30~16:15 中村圭爾「買地券と墓誌の間」
16:15~17:00 沈慶昊「高麗朝鮮の墓碑と墓誌-その文体の歴史的な特徴-」
17:00~17:30 氣賀澤保規「新発見石刻「円仁法王寺舎利蔵誌」の紹介とその意義」
17:30~18:00 総合討論・質疑応答 コメント:高橋継男・氣賀澤保規

第11回入唐求法巡礼行記研究会

第11回入唐求法巡礼行記研究会
日時:2010年7月16日(金)16:30~19:20  
場所:國學院大學 常磐松ホール(渋谷キャンパス学術メディアセンター1階)
報告
酒寄雅志「入唐僧円仁に関する新出資料-中国法王寺釈迦舎利蔵誌の調査と検討-」
コメント:石見清裕・佐野光一・塩澤裕仁・鈴木靖民

2010年7月11日日曜日

新アジア仏教史07 中国Ⅱ隋唐

沖本克己編集委員・菅野博史編集協力『新アジア仏教史07 中国Ⅱ 隋唐 興隆・発展する仏教』(佼成出版社、2010年6月)

アジア仏教史の新シリーズ。目次は以下の通り。
第一章「隋唐仏教とは何か」吉川忠夫
第二章「インド仏教の中国的変容」青木隆・奥野光賢・吉村誠
第三章「教学仏教の様相」林鳴宇・吉田叡禮
第四章「民衆仏教の系譜」斉藤隆信・西本照真
第五章「禅宗の生成と発展」小川隆
第六章「密教の伝播と浸透」岩崎日出男
第七章「士大夫の仏教受容」中嶋隆藏

第二章は地論・摂論・三論・成実・唯識、
第三章は天台宗・華厳宗、第四章は浄土教・三階教を扱っている。
素人の僕には、第二章・第三章のハードルが高かった……。
でも、当時の学派の状況などが窺えて参考になる。

2010年7月8日木曜日

季刊 日本思想史76

日本思想史懇話会編集『季刊 日本思想史』76(ぺりかん社、2010年6月)は、
「特集―植民地朝鮮における歴史編纂:「併合一〇〇年」からの照射」。

目次は次の通り。
金性玟「朝鮮史編修会の組織と運用」
尹海東「トランスナショナル・ヒストリーの可能性―韓国近代史を中心に」
磯前順一・金泰勲「ポストコロニアル批評と植民地朝鮮」
桂島宣弘「植民地朝鮮における歴史書編纂と近代歴史学―『朝鮮半島史』を中心に」
長志珠絵「『朝鮮史』史料採訪『復命書』を〈読む〉―『朝鮮史』編纂と帝国の空間」
沈煕燦「実証される植民地,蚕食する帝国―今西龍の朝鮮史研究とその軋み」
全成坤「『朝鮮史』と崔南善」
高吉嬉「〈在朝日本人二世〉旗田巍における内なる朝鮮」

朝鮮総督府による『朝鮮史』編纂事業を中心に、
植民地朝鮮における「実証的」歴史書編纂の問題点をえぐりだしている。

第39回中央アジア学フォーラム

第39回中央アジア学フォーラム
日時:2010年7月31日(土)13時~17時半
場所:大阪大学・豊中キャンパス文法経本館2階大会議室
中央ユーラシア学研究会と海域アジア史研究会の共催

報告
13:00~14:00 覚張隆史「安定同位体分析による家畜馬の長距離輸送の復元と海域アジア・中央ユーラシア研究への応用の可能性」
14:20~15:00 堤一昭「モンゴル帝国の基本構造─チンギス・カンからクビライ・カアンへ―」
15:00~15:20 入野恵理子「北魏のバイリンガル性─史料に見える「鮮卑語」─」
15:35~16:10 高橋文治「漢語文献が語るモンゴル支配」
16:10~16:40 齊藤茂雄・旗手瞳「突厥文字碑文と唐蕃会盟碑の歴史的重要性」
17:00~17:30 総合討論

2010年7月5日月曜日

中国社会文化学会2010年度大会

中国社会文化学会2010年度大会
日程:7月10日(土)・11日(日)
会場:東京大学文学部1番・2番大教室(法文2号館2階)
参加費(資料代)1000円 

7月10日(土)自由論題報告
セッション1 知の誕生プロセスへの視線 14:30~17:20 一番大教室 
平澤歩「修母致子説について―漢朝正統論から生まれた経典解釈―」
 コメンテーター:渡邉義浩
水口拓寿「宋明知識人による風水の「発見」について―朱熹を焦点とする検討―」
 コメンテーター:村松伸
大野広之「中国東北地区図書館蔵の満州文字対音表記資料にみられる版本異動についての一考察」
 コメンテーター:寺村政男

セッション2 清朝期官僚にとっての「西洋」 15:30~17:20 二番大教室
小野泰教「咸豊期郭嵩燾の軍事費対策―士大夫意識、西洋体験との関連から見た―」
 コメンテーター:佐々木揚
藤原敬士「「夷務」をつかさどるということ―18世紀中葉の広州における貿易制度の構築と貢品制度との関わりについて―」
 コメンテーター:山本英史
会員総会 17:30~18:00

7月11日(日) シンポジウム 中国史上におけるイデオロギーの役割
セッション1 大一統のイデオロギーとしての儒教 10:00~12:00
渡邉義浩「「古典中国」の形成と王莽」
小島毅「再編された古典―宋代儒教の理念―」
懇親昼食会 12:00~13:00 2番大教室 会費1,000円

セッション2 近現代の革命イデオロギーと大衆 13:00~15:30
緒形康「中国革命のイデオロギーは人間の安全保障を準備したのか?
山田賢「革命イデオロギーの遠い水源―清末の「救劫」思想をめぐって―」
金野純「毛沢東時代における大衆動員と革命イデオロギー」     
総括討論 15:30~16:30

陰陽道の発見

山下克明『陰陽道の発見』(NHKブックス、2010年6月)

表紙に岡野玲子の『陰陽師』があしらわれているけど、
従来の陰陽道・陰陽師像を再検討している。

陰陽五行説や術数の受容から、陰陽道の成立、
官僚そして呪術宗教家としての陰陽師、
陰陽寮の官職世襲化をめぐる賀茂氏と安部氏の対立や、
安部晴明伝説の成立過程などなど。

やはり漫画などの影響で式神とか呪術のイメージが強かったけど、
官僚としての陰陽師の姿が見えてきて面白かった。

2010年7月4日日曜日

国際敦煌プロジェクト

国際敦煌プロジェクト 研究シンポジウム
日程:7月12日(月)~13日(火)
場所:龍谷大学大宮キャンパス西黌2階大会議室

7月12日(月)13:00~16:20「IDPの現在の活動」
岡田至弘「IDP-Japan」 
Susan Whitfield「IDP KeyNote Lecture!(IDP基調講演)」 
Vic Swift, Susan Whitfield「New IDP-DB Demonstration(IDP-DB デモンストレーション)」 
石塚晴通「Yellow Corrections Added to the Pelliot chinois Manuscripts from Dunhuang(ぺリオ蒐集敦煌漢文文献に加えられた黄液訂正)」
赤尾栄慶「A Inevetigation of Shogozo Scrolls owned by the shosoin Treasure House(正倉院聖語蔵経巻の調査について)」

7月13日(火)9:10~12:30「大谷探検隊とIDP」
三谷真澄「龍谷大学と旅順博物館の非漢字資料―その意義と保存状況」 
橘堂晃一「契丹大蔵経とウイグル仏教」 
和田秀寿「六甲二楽荘における大谷光瑞師の将来展望」 
入澤崇「オーレル・スタインと大谷探検隊」 
Imre Galambos「British suspicions towards members of the second Otani」

13:00~17:00「史料のデジタル化と保存」
鞍田崇「ヘディン探検隊ガラス乾板記録のデジタルアーカイブ」 
江南和幸「Origin of the Difference in papermaking technologies between those transffered to the East and the West from the motherland China」 
坂本昭二「A Scientific Study of Li Bo’s (李柏) Documents in the Otani Collection」
河嶋壽一「3-D Digital Restoration of a Six-Leaves」 
森正和「彩色資料の計測・保存」

主催:龍谷大学 古典籍デジタルアーカイブ研究センター・大英図書館国際敦煌プロジェクト・龍谷大学アジア仏教文化研究センター・仏教文化研究所西域研究会・idp.afc.ryukoku.ac.jp

2010年7月3日土曜日

歴史評論723

『歴史評論』723(校倉書房、2010年7月)は、「特集/60年安保から半世紀」。
目次は次の通り。
渡辺治「安保闘争の戦後保守政治への刻印」
岡田一郎「日本社会党と安保闘争」
三宅明正「「六〇年安保」と労働者の運動」」
谷川道雄「戦後歴史学と「国民」」

普段、『歴史評論』は買ってないし、
「安保闘争」にそこまで関心があるわけでもない(全くないわけでもないけど)。
ただ、今回は興味を引くタイトルがあったので購入。
だが、しかし……。


なお、特集外の【歴史のひろば】は次の通り。
髙橋亮介「日韓中西洋古代史学界の交流と動向」
金悳洙「韓国における西洋古代史研究」
次号には晏紹祥「中国における西洋古代史研究」が載るらしい。
韓国・中国の西洋古代史の研究状況を知る機会は、中々ないので興味深い。

2010年6月30日水曜日

地図帳中国地名カタカナ現地音表記の怪

明木茂夫『地図帳中国地名カタカナ現地音表記の怪―「大運河」が「ター運河」とはこれいかに』(一誠社、2010年5月)

地図帳における中国地名のカタカナ表記の奇妙さについて論じた小冊子。
中京大学の紀要などの連作論文のエッセンスを凝縮したものらしい。
確かに最近の地図帳にはカタカナ表記が多いなぁ、と思っていたけど、
まさか漢字を一切排除した地図帳がどんどん増加しているとは。
しかも、カタカナ表記のみで一部の公務員採用試験が行われたりしているらしい。

にしても、万里の長城を「ワンリー長城」って表記するのは無しでしょ。
笑ってよんでたけど、だんだん怖くなってきた。
やっぱり最低限、漢字も一緒に表記しないとだめだと思うのだけど。

汲古57号

古典研究会編『汲古』第57号(汲古書院、2010年6月)

目次は以下の通り。
小林芳規「日本のヲコト点の起源と古代韓国語の点吐との関係」
王宝平「康有為『日本書目志』出典考」
下田章平「完顔景賢撰・蘇宗仁編『三虞堂書画目』について」
志村和久「較新の漢字研究」
恩田裕正「『朱子語類』巻九十四訳注(九)」
平勢隆郎「正しからざる引用と批判の「形」―小沢賢二『中国天文学史研究』等を読む―」
田中大士「春日本万葉集の完全に残る例―付春日懐紙の総数再考―」
舟見一哉「伝足利義視筆『徒然草』の古筆切をめぐって」
岩本篤志「東条琴台旧蔵『君公御蔵目録』小考―高田藩榊原家の資料群の変遷に関連して―」

王論文と岩本論文からは、目録学の大変さと面白さが伝わってきた。
数千のデータを比較するなんて、気が遠くなりそう。まねできないなぁ。
あと、意外に舟見論文が読みやすかった。
これまで古筆切に関する文章は、専門的すぎてよくわからなかったけど、
舟見論文では、古筆切から室町時代の『徒然草』の受容状況に迫っていて、
興味深かった。

いろんな意味で今回の『汲古』は面白い。

2010年6月27日日曜日

落合多武展

一応、このブログでは現代アート鑑賞も特色の一つにしてるのですが、
なかなかアップできないでいます。前回アップしたのは四月上旬。
いまはもう六月末。時間がたつのは早いものです。

ちょっと前のことになりますが、ワタリウム美術館で開催中の
「落合多武展―スパイと失敗とその登場について―」に行ってきました。
ドローイング、映像、写真などなど。ノンジャンルな感じ。



とりあえず、全作品(21点)の三分の一近くに、
なんらかの形で猫が関わっている。
そういえば、ポスターも黒猫っぽいと言えなくもない。
猫好きなのかな。

「バランス」という反対語を羅列した作品(作者が考える反対語)では、
猫の反対語として名刺が選ばれていた。なんとなく納得。

「猫彫刻(スティーブン)」は、二つの穴があいた板の周りを、
猫がちらちらっと登場する映像作品。
最初は、全然猫が登場しないので、素通りしてしまった。

他に覚えているのは、「都会のリス」。
ギターを背負った街ゆくミュージシャンを撮った写真。
その後ろ姿は確かにリスっぽい。

「熱帯雨林のドローイング」は、コスタリカのジャングルで迷った経験を
もとに作ったドローイング。色鉛筆(緑)も紙もみないで描いたらしい。


と、まぁ、2階から4階までいろんな作品があるし、
ゆっくりみればそれなりに時間かかるのだけど……、
現代アート初級者の僕には、いまいちピンと来ず。
う~ん、でも、なんだろ、このもやもやした感じ。

例えば、「地球上で一番高い所にマンハッタンで行くビデオ」は、
10台のテレビに、ひたすら階段を登る映像が映されている。
10本で10時間らしい。
「ブロークン・カメラ」は、壊れたカメラの映像をただ延々と流している。
再生するたびに違ったエフェクトがかかってしまうらしい。
おもしろいかといえば、正直いってつまらない。
なんというか、没コミュニケーションという形のコミュニケーションみたい。
と、自分でそれっぽいこと言ってるけど、実はよくわかっていません。

そうそう、毎日五時よりスタッフによる展示解説があって、
アイリッシュコーヒー(コーヒー&ウィスキー)もふるまわれるみたいです。
それを聞けば(そして飲めば)、何か見えてくるのかも。

ワタリウム美術館で8月8日(日)まで開催。
開館時間:11時~19時(毎週水曜日は21時まで)。
入館料:大人1000円、学生(25歳以下)800円。

玄奘三蔵、シルクロードを行く

前田耕作『玄奘三蔵、シルクロードを行く』(岩波新書、2010年4月)

中国からガンダーラに至る玄奘の足取りを詳細に描いている。

内陸アジア出土古文献研究会7月例会

内陸アジア出土古文献研究会7月例会
日時:2010年7月24日(土)14:30〜17:30
場所:明治大学駿河台キャンパス研究棟4階 第2会議室
報告
落合俊典「“敦煌秘笈”における一,二の問題点」
土肥義和「唐代西州の均田制施行の一斑──新出龍朔二年(662)高昌県思恩寺僧籍及び神龍三年(707) 同県開覚寺手実について──」

2010年6月20日日曜日

木簡から古代がみえる

木簡学会編『木簡から古代がみえる』(岩波新書、2010年6月)

2009年に30周年を迎えた木簡学会が、一般向けにまとめた概説書。
木簡から何がわかるかを様々な角度から平易にまとめていて読みやすい。

目次は以下の通り。
一:木簡は語る―研究の足跡―  和田萃
 トピック1飛鳥池木簡 木簡から『日本書紀』を読み直す  市大樹
 トピック2荷札木簡 荷札が語る古代の税制 馬場基
二:奈良のみやこを再現する―宮都の木簡から― 舘野和己
 トピック3長屋王家木簡 上流貴族の暮らしぶり 森公章
 トピック4歌木簡 「地下の万葉集」は何を語るか 栄原永遠男
三:見えてきた古代の「列島」―地方に生きた人々― 平川南
 トピック5長登銅山木簡 官営鉱山と大仏造立 佐藤信
 トピック6袴狭木簡 雪国の地方官衙 吉川真司
四:東アジアの木簡文化―伝播の過程を読み解く― 李成市
 トピック7中国の木簡 秦漢帝国では 角谷常子
 トピック8沖縄のフーフダ 今も生きる呪符木簡 山里純一
五:木簡の出土から保存・公開まで 渡辺晃宏
 トピック9胡桃館木簡 三七年目の復活 山本崇
 トピック10木簡の再利用 木簡はお尻ぬぐいに使われた 井上和人

2010年6月19日土曜日

千年帝都洛陽

塩沢裕仁『千年帝都 洛陽―その遺跡と人文・自然環境―』(雄山閣、2010年1月)

洛陽の基礎的研究として、洛陽周辺の自然環境や
県城・街道・水系などを詳細に取り上げている。
また、遺跡・博物館の詳しい情報も掲載されている。
洛陽調査の際の必読文献。

2010年6月18日金曜日

『史学雑誌』119-5

「2009年の歴史学界―回顧と展望」『史学雑誌』119-5(史学会、2010年5月)

毎度のごとく、総説、歴史理論、日本古代、東アジアからアフリカまでは熟読。
その他の日本史は斜め読み。ヨーロッパ、アメリカは飛ばし読み。

論文リストになりつつあるという批判もあるし、
自分自身多少そう思っていたのだけど、
今回の西アジア・北アフリカの近現代を見て、
やっぱりそんなに面白くなくてもいいから、従来通りでいいかもと思ってしまった。

今回の西アジア・北アフリカの近現代は、
「「周縁」とされる存在を扱う研究」のみを取り上げていて、
従来の回顧と展望なら絶対取り上げられたであろう著作・論文を
全くと言い程取り上げていない(と思われる)。
確かにテーマを絞った分、一つ一つの著作・論文は
丁寧に取り上げられていて、単なる論文紹介にはなっていないけど……。

まぁ、何にせよ「回顧と展望」は、いろいろ勉強になるし、
自分もがんばろっ、という気持ちにさせてくれるからありがたい。

2010年6月17日木曜日

内陸アジア出土古文献研究会6月例会

内陸アジア出土古文献研究会6月例会
日時:2010年6月19日(土) 14:30〜17:30
会場:明治大学駿河台キャンパス研究棟4階 第一会議室
報告
岩本篤志「敦煌秘笈「雑字一本」小考」
池田温「第54回杏雨書屋特別展示会を見て」

溥儀の忠臣 工藤忠

山田勝芳『溥儀の忠臣 工藤忠―忘れられた日本人の満洲国―』(朝日選書、2010年6月)

従来、「大陸浪人」として軽く扱われてきた
溥儀の側近の工藤忠の詳細な伝記。
工藤忠の経歴・人脈(陸軍・外務省・アジア主義者・復辟派など)を丹念に調査し、
アジア主義者としての側面とその限界を明らかにしている。
それにしても、第二革命、第三革命、張作霖爆殺事件、
溥儀の天津脱出、満洲国の建国などなど、
次から次に大事件に関わる工藤忠は、確かにただものではない。

2010年6月9日水曜日

魏書序紀考証

吉本道雅「魏書序紀考証」(『史林』93-3、2010年5月)

『魏書』序紀の建国神話と拓跋氏の南下の二つの問題に検討を加えたもの。
園田俊介「北魏・東西魏時代における鮮卑拓跋氏(元氏)の祖先伝説とその形成」(『史滴』27、2005年12月)、
佐藤賢「もうひとつの漢魏交替―北魏道武帝期における「魏」号制定問題をめぐって―」(『東方学』113、2007年1月)
とじっくり読み比べたい。

Symphony of Science

友人に教えてもらったのですが、
かっこいいの一言です。

カール・セーガンやリチャード・ファインマンといった科学者の
講演や画像が加工されて歌になっています。



http://www.youtube.com/watch?v=XGK84Poeynk&feature=related


英語は苦手で詳しくはわかりませんが、
生物学バージョンや、
http://www.youtube.com/watch?v=hOLAGYmUQV0&feature=related
科学とは何かバージョン、
http://www.youtube.com/watch?v=9Cd36WJ79z4&feature=related
火星バージョンなんかもあるようです。
http://www.youtube.com/watch?v=BZ5sWfhkpE0&feature=related

ホーキングやドーキンスなども登場しています。

おおもとは、こちらの外国(アメリカ)のサイトです。
http://symphonyofscience.com/

人文科学版でも是非やってほしいのですが……、
う~ん、でもやっぱこうはいかないですかね。

2010年6月7日月曜日

「漢委奴国王」金印・誕生時空論

鈴木勉『「漢委奴国王」金印・誕生時空論―金石文学入門Ⅰ 金属印章篇―』(雄山閣、2010年5月)

タイトルに「誕生時空論」なんて入っているので、
一瞬、トンデモ本じゃないかと思うかもしれませんが、さにあらず。
国宝の「漢委奴国王」金印について、 印面の彫り方に主に着目し、
漢~晋期の出土品・伝世品の印章や、
さらには江戸時代の印章とも詳細に比較検討している。

三浦佑之『金印偽造事件―「漢委奴國王」のまぼろし―』(幻冬舎新書、2006年11月)では、
金印偽造説の根拠として、鈴木勉氏の研究を引用していたが、
今回の本は、三浦氏の新書がきっかけになってまとめたとのこと。

はっきりとした結論は、あえて出していないが、
少なくとも、中国で出土した金印・印章と異なる技術が使用されており、
むしろ、江戸時代の印章に技術的共通性がいくつか見られるとする。

2010年6月5日土曜日

東アジアを結ぶモノ・場

『アジア遊学132 東アジアを結ぶモノ・場』(勉誠出版、2005年5月)

今回は、日本と中国を行き来したモノを中心に、
東アジア海域世界の多様性・多義性を浮かび上がらせようとしている。

目次は以下の通り。
久保智康「海を渡った密教法具」
佐々木守俊「入唐僧と檀印」
瀧朝子「仏像とともに海を渡った鏡―清凉寺釈迦如来像―」
吉村稔子「平安時代中期の天台浄土教とその美術」
荒木浩「モノの極北―ツクモ・心・コトバ―」
山内晋次「『香要抄』の宋海商史料をめぐって」
高橋昌明「宋銭の流通と平家の対応について」
横内裕人「久米田寺の唐人―宋人書生と真言律宗―」
蓑輪顕量「麈尾と戒尺」
西山美香「浄智寺の奇瑞―福州版大蔵経焼失と舎利現出―」
水越知「「忠臣」、海を渡る―日中における文天祥崇拝―」
西谷功「楊貴妃観音像の〈誕生〉」
荒木和憲「中世対馬宗氏領国の海域交流保護政策」
橋本雄「大内氏の唐物贈与と遣明船」
伊藤幸司「硫黄使節考―日明貿易と硫黄―」
藤田明良「明清交替期の普陀山と日本―大蔵経日本渡来事件を中心に―」
松島仁「〈中華〉の肖像、あるいは徳川日本のセルフイメージ」
澤田和人「慶長小袖の時代性―中国・韓国の染織品と比較して―」
松尾晋一「港町長崎の危機管理―転換点としてのフェートン号事件」

ほとんどが中世以降。全体的に仏教関係が多い。
日中交流中心で、朝鮮半島や琉球はあまり取り上げられていない。
個人的には、山内晋次氏・水越知氏・橋本雄氏・伊藤幸司氏・
藤田明良氏・松島仁氏の論稿が興味深かった。

2010年6月3日木曜日

日本宋史研究の現状と課題

浅見洋二・平田茂樹・遠藤隆俊編『日本宋史研究の現状と課題―1980年代以降を中心に―』(汲古書院、2010年5月)

目次は以下の通り。
遠藤隆俊・平田茂樹・浅見洋二「前言」
平田茂樹「政治史研究―国家史・国制史研究との対話を求めて―」
小川快之「法制史研究」
宮澤知之「財政史研究」
岡元司「地域社会史研究」
遠藤隆俊「家族宗族史研究」
久保田和男「都市史研究」
須江隆「地方志・石刻研究」
市來津由彦「儒教思想研究」
松本浩一「仏教道教史研究」
内山精也「文学研究―詞学および詩文を中心に―」
勝山稔「古典小説研究およびその史学的研究への活用」
板倉聖哲「絵画史研究」
山崎覚士「五代十国史研究」
飯山知保「遼金史研究」
榎本渉「日宋交流史研究」

1980年代以降を中心とした研究史整理。
様々なジャンルが網羅されていて、内容も充実している。
西夏史が取り上げられていなかったのが、ちょっと残念。

『中国歴史研究入門』では、大まかな研究状況しかわからないし、
『史学雑誌』の回顧と展望では、長期的状況はよくわからない。
だから、こうした試みは、本当にありがたい。
他の時代でもやってくれないだろうか。

三国志演義の世界【増補版】

金文京『三国志演義の世界【増補版】』(東方書店、2010年5月)

1993年に出された東方選書39を増補したもの。
九章「東アジアの『三国志演義』」が丸々付け足されている。
他の章も多少の増補がなされているらしい。
七章「『三国志演義』の出版戦争」では、2010年の最新情報が見える。
恥ずかしながら、旧版を持ってなかったので、
増補版が出たのを機に購入。
『三国志演義』の成り立ちを知るには手ごろな一冊。

2010年5月31日月曜日

史学概論

遅塚忠躬『史学概論』(東京大学出版会、2010年5月)

歴史学者が書くこんな史学概論を待っていた。
史学概論といっても、史学史や研究法などではなく、
歴史学とは何か、という問題を正面から扱っている。

目次は以下の通り。
はしがき
序論:史学概論の目的
第1章:歴史学の目的
第2章:歴史学の対象とその認識
第3章:歴史学の境界
第4章:歴史認識の基本的性格

問題は多岐にわたっていますが、カギとなるのは、事実と真実。
歴史学は、事実には迫りうるが、真実は扱えないとする。

もちろん、言語論的転回論を踏まえ、素朴実在論は否定している。
しかし、その一方で歴史「物語り」論も否定している。

著者は、基本的に事実実在論の立場を取るが、
部分的または全面的に「揺らぐ」事実(主に事件史・文化史など)が
存在することを指摘し、「柔らかな実在論」を提唱している。

不勉強なだけかもしれませんが、
歴史学者が言語論的転回論や「物語り」論に
ここまで正面からまとめて応答したことは、
これまであまり無かったような気がします。
僕個人としては、納得の内容(影響されやすいだけかも)。
ま、先鋭的な研究者なら、頑固な見解とみなすでしょうし、
逆に「柔らかな実在論」に納得いかない人もいるでしょうね。
今後の議論が楽しみです。

2010年5月27日木曜日

東アジア世界史研究センター公開講座

平成22年度東アジア世界史研究センター公開講座
全体テーマ:遣唐使外交の終焉と東アジア・日本
日時:2010年7月10日(土)13:00~17:00
会場:専修大学生田校舎10号館10203教室   

講演
13:00~13:20 荒木敏夫「趣旨説明」
13:20~14:20 皆川雅樹「モノから見た遣唐使以後の東アジアの交流」(仮題)
14:30~15:30 佐藤宗諄「大陸文化の「日本化」と国際交流~白詩と道真~」
15:50~17:00 討論 

募集人員:250名(聴講無料・申込者多数の場合は抽選)
参加希望者の方は、東アジア世界史研究センターのHPで、
申込方法などをご覧になってください。
  

2010年5月23日日曜日

周恩来秘録

高文謙著、上村幸治訳『周恩来秘録―党機密文書は語る―』上・下(文春文庫、2010年5月)

2007年3月に刊行された同著の文庫化。
著者自身はもともと中国共産党中央文献研究室に勤務して、
周恩来生涯研究小組組長をつとめたが、天安門事件後に渡米した人物。
ただ、この本はあくまでノンフィクション。

「「大宰相」周恩来のイメージを覆す衝撃の書」というけど、
まぁ、どちらかといえば、予想通りの内容。
生き残るために、心ならずも文革に加担し、
戦友たちを切り捨てる側に回ってしまった悲劇と責任。
文革と行政のすりあわせに神経をつかう日々などなど。

ただ、予想以上だったのが、周恩来に対する毛沢東の嫉妬・猜疑心。
ここまでやるかぁ、といった感じ。しかし、もっとすごいのが、
様々な罠や闘争をギリギリでなんとか回避して、生き残った周恩来。
この才能を行政・外交の場で思いっきり活用できたらよかったのに。
到底まねできないけど、ある種の教科書として読むことも不可能ではない。

日本中世史の新書・選書

ここ数日、日本中世史に関する新書・選書を立て続けに読みました。

伊藤正敏『無縁所の中世』(ちくま新書、2010年5月)
本郷和人『選書日本中世史1 武力による政治の誕生』(講談社選書メチエ、2010年5月)

かたや寺社勢力、かたや武家勢力。
中世のはじまりも、かたや1070年(比叡山が諸役不入権を獲得)、
かたや12世紀末の鎌倉幕府の成立。
おそらく両者とも、いわゆる「主流」からは、ちょっと(?)はずれてるのだろうけど、
これだけ中世観が違うと、困惑するより面白くなってくる。
これから日本中世史は、ますます熱くなってくるのかもしれないなぁ、
そんなことを感じました。

2010年5月20日木曜日

ハングルの誕生

野間秀樹『ハングルの誕生―音から文字を創る』(平凡社新書、2010年5月)

全9章(序章・1~8章・終章)構成で、
前4章がハングル前史・ハングルの構造、
後4章がハングル(正音)の誕生から現在までの歴史を扱っている。
「はじめに」で、言語・文字自体について考えることを避けたい人は、
序章・第1章から第4章に飛んでも構わない、
と述べているが、その読み方はものすごくもったいない。

第2章で、漢字の構造、訓読の構造などを語った後、
第3章で、20世紀言語学を先取りしているハングル(正音)の仕組みについて、
詳細に論じ、「〈正音〉は音韻論、音節構造論、形態音韻論の三層構造である」
と述べている。この第3章こそが本書の核で、一番熱入っていて面白い。
言語学の知識がないため、ついていけないかな、と最初は思ったのですが、
全くそんなことはなく、十分楽しめました。

第4章のハングル(正音)の誕生は、ちょっとあっさりしているけど、
第5章では、ハングル(正音)は近代以前あまり使われていなかった、
というイメージを見事に打ち破ってくれます。

新書としては、368頁(本文319頁・索引・年表などが48頁)と
ちょっと大部ですが、読みごたえあります。

第14回六朝学術学会大会

第14回六朝学術学会大会
日時:2010年6月13日(日)12時40分~17時40分
会場:斯文会館講堂(湯島聖堂内)
大会参加費:1,000円、写真代:1,000円(希望者のみ)
懇親会費:6,000円(希望者のみ)

研究発表 12:50~15:45(各発表20分、質疑10分)
三田辰彦「東晋の「皇太妃」号議論とその展開」
北島大悟「沈約の隠逸観と文学」
佐野誠子「初唐期九月九日詩における陶淵明の影響」 
小林聡「唐朝六大服飾体系の成立過程─六朝隋唐における礼制の変容と他文化受容─」
福山泰男「徐淑小考―文学テクスト上の性差をめぐって─」

記念講演 16:00~17:00
堀池信夫「<可道>と<常道>-『老子』第一章の読みをめぐって」

第26回学習院大学史学会大会

第26回学習院大学史学会大会
日程:2010年6月12日(土) 
会場:学習院大学百周年記念会館

研究発表  *中国史関係のみあげます
第一会場:3階第1会議室           
14:10~15:10 矢沢忠之「前漢における保塞蛮夷と辺境防衛」
第二会場:3階第3会議室
13:00~14:00 村松弘一「碑林から博物館へ―近代西安における文物保護事業の展開」

講演:小講堂 
15:30~16:30 鐘江宏之「 「日本の7世紀史」再考―遣隋使から大宝律令まで―」
16:45~17:45 石見清裕 「唐の貢献制と国信物―遣唐使への回賜品―」

2010年5月16日日曜日

龍谷大学大宮図書館2010年春季特別展観

龍谷大学大宮図書館2010年春季特別展観
「大谷探検隊展-将来品と個人コレクション-」 
展示期間:2010年5月20日(木)~27日(木)
場所:龍谷大学大宮キャンパス(本館1階展観室)
開館時間:10時00分~17時00分(入館は16時30分まで)
休館日:無休
主催:龍谷大学大宮図書館

大谷探検隊将来品63点を展示。
吉川小一郎氏がトルファンのカラコージャ古墳群で発掘した
「伏羲・女媧図」が展示の目玉のようです。
他にも「ダライ・ラマ関連書類(青木文教コレクション)」や、
「光瑞上人御原稿」、「吉川小一郎氏筆西域壁画(鉛筆素描模写)」などを
初公開するそうです。

2010年5月14日金曜日

なぜだか猫に逃げられます

称猫庵を名乗っている割に、
最近バタバタしていて、猫写真が撮れません。

しかも、なぜだかすぐに逃げられます。
どうも動きが猫を不安にさせてしまうようです。
もっとのんびり動かないとなぁ。

というわけで、ちょっと前の写真です。
完全に不審者扱いされてます。

書道博物館「墓誌銘にみる楷書の美」

書道博物館企画展 中村不折コレクション 「 墓誌銘にみる楷書の美 」
期間:2010年5月18日(火)~7月11日
場所:台東区書道博物館

展示内容
南北朝隋唐時代の墓誌拓本&日本最古の墓誌「船氏王後墓誌」の計34点展示。
常設展では原石11基も展示している。
中村不折コレクションなので新出墓誌はないものの、
いずれも旧拓なので、見応えはあるはず。

2010年5月12日水曜日

訓点語学会研究発表会

第102回 訓点語学会研究発表会
日時:5月23日(日)
場所:京都大学文学部第3講義室

報告 午後1時30分~
石山裕慈「日本漢音における「韻書上声非全濁字の去声加点例」について」     
蔦清行「両足院所蔵の黄山谷の抄物二種」
青木毅「『水鏡』における漢文訓読語と和文語との混在について―〈漢文翻訳文〉における用語選択の問題として―」

午後3時30分~
廣坂直子「国際仏教学大学院大学蔵『摩訶止観 巻第一』の朱白の訓点について」  
小助川貞次「漢文訓読資料における句読点について」                
石塚晴通"Descriptive Catalogue of the Chinese Manuscripts with Reading Marks & Notes from Dunhuang" (『敦煌点本書目』)の英文術語                  

阪大史学の挑戦2

大阪大学歴史教育研究会大会「阪大史学の挑戦2」プログラム
日時:2010年8月9日(月)~11日(水)
会場:大阪大学中之島センター10F 佐治敬三メモリアルホール

8月9日(月)
第1部 近世世界におけるヨーロッパとアジア―ウォーラーステインを超えて
14:00 秋田 茂「グローバル・ヒストリー研究におけるヨーロッパ中心史観・パラダイム克服の試み―アジア・大阪からの視点」
15:30 休憩
15:45 玉木俊明「近代ヨーロッパの誕生—オランダからイギリスへ」
16:45 島田竜登「近世アジアとオランダ東インド会社」
17:45 中村武司(大阪大学文学研究科助教)ほか「高校世界史授業で使えるグローバル・ヒストリー関連用語」

8月10日(火)
第2部 中央ユーラシア史の枠組みの理解に向けて—スキタイ・匈奴からムガル・清帝国までの国家の基本構造とシルクロードの展開
9:00 森安孝夫「シルクロード成立後の北の遊牧国家、南の拓跋王朝、まとめた中央ユーラシア型国家」
10:40 堤一昭「モンゴル帝国の基本構造—チンギス・カンからクビライ・カアンへ」
11:20 杉山清彦(駒澤大学文学部准教授)「中央ユーラシアの「近世」—ポスト=モンゴル時代から“帝国 の時代”へ」
13:15 松井太「内陸アジア出土資料からみたモンゴル時代のユーラシア交流」
13:55 高橋文治「漢語文献が語るモンゴル支配」
14:50 入野恵理子「北魏のバイリンガル性—史料に見える「鮮卑語」」
15:10 齊藤茂雄・旗手瞳「突厥碑文と唐蕃会盟碑の歴史的重要性」
15:40 赤木崇敏「壁画と古文書から見た敦煌オアシス社会の実態」
16:45 森安孝夫「ソグドからウイグルへ——シルクロード東部の手紙文書」
17:20 堀 直「トルキスタンのイスラム化の過程」
17:50 向 正樹・矢部正明・後藤誠司・伊藤一馬「中央ユーラシア史関係用語リストの提示

8月11日(水) 
第3部 地域史からみる世界史、世界史からみる地域史
9:10 中村和之「アイヌ史と北東アジア史」
9:30 吉嶺茂樹「宗谷場所から世界史を考える」
9:55 吉満庄司「世界史の中の明治維新——幕末薩摩藩の対外政策を中心に」
10:20 笹川裕史「綿業にみる日本とイギリスの工業化 ——大阪になれなかったマン チェスター」
10:45 福本淳「機械文明とキリスト教の世界席巻の終点としての神奈川県」
11:30 討論 コーディネーター 後藤敦史
13:30 総合討論

歴史教育者(特に高校教師)を対象に行うシンポジウム。
個人的には第二部が気になる。
申し込みは、大阪大学歴史教育研究会のウェブサイトにて。
締め切りは6月15日とちょっと早め。

「訓点資料の構造化記述」研究発表会

国立国語研究所共同研究プロジェクト(萌芽・発掘型)「訓点資料の構造化記述」研究発表会
日時:5月24日(月)9:00~12:00
場所:京都テルサ 第五会議室

報告
高田智和「国立国語研究所蔵『金剛頂一切如来真実攝大乗現證大教王経』について」
岡本隆明「訓点の整理と資料の共有を目的とするデジタル画像データの利用について」

2010年5月7日金曜日

立教大学日本学研究所・第39回研究会

立教大学日本学研究所 第39回研究会
日時:2010年5月21日(金)18:30~
会場:立教大学池袋キャンパス太刀川記念館第1・2会議室
報告内容
水口幹記「日本呪符の系譜―天地瑞祥志・まじない書・道蔵―」

2010年5月3日月曜日

星新一展


世田谷文学館で開催中の「星新一展」に行ってきました。

まぁ、実のところ、そんなに星新一作品を読んでいるわけではないし、
特に好きというわけでもないのですが、
最相葉月『星新一―一〇〇一話をつくった人』(新潮社、2007年3月)を
読んで以来、なんとなく気になる作家なわけです。

偶然、星新一の父親の星一(星製薬の創業者)が書いた
「親切第一」という揮毫を手に入れたこともあり、
作品よりも、星家の歴史みたいなものに興味がある感じ。
母方の祖父が人類学の草分けの小金井良精で、
祖母が森鷗外の妹というのも面白い。

というわけで、せっかくのゴールデンウィーク、
どこにも行かないのもなんなので、見に行ってきました。

星新一の子ども時代の日記や絵、お気に入りのぬいぐるみに帽子、
祖父の小金井良精が集めた根付や、
酒場で著名人に書いてもらったコースター裏のサインなどなど、
星新一の素顔が垣間見える遺品・愛用品から展示はスタート。

星製薬の看板や製品、星一の制服やパスポート・揮毫など、
星家にまつわるものも展示してある。
残念ながら小金井良精の遺品はなかった。
空襲で燃えてしまったものもあるだろうけど、
日記とか論文とか展示してほしかったなぁ。


星家の展示が終わると、いよいよSF作家星新一の登場。
星製薬の社長時代の日記や小説の構想、
息抜きで参加した「日本空飛ぶ円盤研究会」の資料、
『宝石』に作品を転載してくれた江戸川乱歩の推薦文などなど。

圧巻はショートショートの下書き。
便箋の裏に、細かくて汚い字がびっしりと書いてある。
解読を試みたものの、早々に断念。到底、なんだかわかりゃしない。
原稿に清書した字は特徴あるけど結構読みやすいのだけど。

アイディアをメモ書きした紙片もおもしろい。
「オレハ宇宙人ダと思いこみ 地球セイフクをおっぱじめる」
「ゼイムショニモチサラレタ フクノカミ」などなど。
本当に断片的だし、実際に作品になったかどうかはわからないけど、
なんだか面白くなりそうな設定。

一方で、創作の苦悩を書いたエッセイや講演(CDで試聴できる)もある。
研究とは違うのだけど、通じる部分もある感じ。
アイデアは「得られるものではなく、育てるものである。
雑多な平凡な思いつきを整理し、選択し手を加えることに
精神を集中してつづければ、なにか出てくるのは確実である」(図録50頁)
という部分なんかは、特に参考になった。


と、そんなこんなで、予想以上に楽しい展覧会でした。
昨年までNHKで放映された「星新一ショートショート」も
ついつい見てしまったので、結局二時間近く滞在。
充実の一日でした。

星新一展は世田谷文学館で6月27日まで開催中。
開館時間:午前10時~午後6時。
観覧料:一般700円 学生500円

2010年5月2日日曜日

ソグド人の東方活動と東ユーラシア世界の歴史的展開

森部豊 『ソグド人の東方活動と東ユーラシア世界の歴史的展開』(関西大学出版部、2010年3月)

東ユーラシアにおけるソグド人の動向が、
安史の乱以後の中国華北の政治状況に深く関係していたことを論じ、
当該時期を「中国史」の枠組みではなく、東ユーラシア世界の枠組みで
とらえなおそうとする試み。
近年、ソグド人研究が流行しているが、研究書としてまとまった形で出るのは、
ほぼはじめて。値段も3800円と手に取りやすい。

目次は以下の通り
序論
第1章「北中国東部におけるソグド人の活動と聚落の形成」
第2章「安史の乱前の河北における北アジア・東北アジア系諸族の分布と安史軍の淵源」
第3章「7~8世紀の北アジア世界と安史の乱」
第4章「ソグド系突厥の東遷と河朔三鎮の動静」
第5章「河東における沙陀の興起とソグド系突厥」
第6章「北中国における吐谷渾とソグド系突厥-河北省定州市博物館所蔵の宋代石函の紹介と考察-」
結論
補論1「安史の乱の終息と昭義の成立」
補論2「昭義を通して見た唐朝と河朔三鎮との関係」

2010年4月29日木曜日

法史学研究会会報14号

『法史学研究会会報』第14号(2010年3月)は、205頁といつもより厚め。
論説・叢説・学界動向・文献目録・書評・追悼文と内容が盛りだくさん。
以下に中国関係文章のみをかかげます。

【論説】
陶安あんど「上海図書館所蔵の薛允升『唐明律合刻』手稿本について」
落合悠紀 「漢初の田制と阡陌についての一試論―漢「二年律令」田律246 簡の理解をめぐって―」
【叢説】
宮部香織「律令「条文名」覚書」
鈴木秀光「台湾における清代法制史関連史跡の探訪―官方関係を中心として―」
【学界動向】
岡野誠・服部一隆・土肥義和・川村康・石見清裕・荒川正晴・石野智大・三橋広延・十川陽一・江川式部「天聖令研究の新動向―『唐研究』第14巻(天聖令特集号)に対する書評を中心として―」
【文献目録】
岡野誠・服部一隆・石野智大編「『天聖令』研究文献目録(第2版)」
江川式部「南北朝隋唐期礼制関連研究文献目録(中文篇2/2001~2009年)」
【書評】
梅田康夫「小林宏『日本における立法と法解釈の史的研究 第1巻』」
松田恵美子「西英昭『《台湾私法》の成立過程』」
西英昭「高漢成『簽注視野下的大清刑律草案研究』」
西英昭「後藤武秀『台湾法の歴史と思想』」
【追悼文】
岡野誠「弔辞(島田正郎先生のご葬儀において)」
小林 宏「若き日の利光三津夫博士」
池田 温「滋賀秀三先生追悼文」

『唐研究』14号の天聖令関係論文全ての書評や、
天聖令研究文献目録、南北朝隋唐時代の礼制研究文献目録が、
掲載されていて、とっても有意義。
中国とは関係ないけど、瀬賀正博「落語「鹿政談」に見る名判官像」が、
奈良の鹿誤殺裁判から、江戸時代の名判官像を解き明かしていて面白かった。

2010年4月28日水曜日

遣唐使の光芒

森公章『遣唐使の光芒―東アジアの歴史の使者―』(角川選書、2010年4月)

東野治之『遣唐使』(岩波書店、2007年11月)に続く、一般向け遣唐使概説書。
文化・知識の移入や人物に関するは記述はやや少なめで、
対外認識や外交制度などに重点が置かれている。

正倉院文書の世界

丸山裕美子『正倉院文書の世界―よみがえる天平の時代』(中公新書、2010年4月)

1万点以上ある正倉院文書の中から、
漢籍・僧侶名簿・戸籍・行政文書・写経事業などを取り上げ、
奈良時代の社会を描き出している。

第一章「聖武天皇と光明皇后」では、
『雑集』と聖武天皇の仏教政策との関係を指摘し、
聖武天皇にとって座右の書であった可能性を述べている。
個人的に一番面白かったのは、第六章「国家プロジェクトを支えた人々」。
写経事業を荷った写経生たちの日常が浮かび上がってくる。
そういえば、ちょうど去年の正倉院展では、
写経生の減給規定(誤字・脱字があったり、見逃したら減給)の文書を
展示していたなぁ。

2010年4月25日日曜日

歌川国芳―奇と笑いの木版画

府中市美術館で開催中の「歌川国芳―奇と笑いの木版画」展に
行ってきました。

これまで特に浮世絵には興味なかったのですが、
歌川国芳の「奇と笑い」に焦点を当てていて、
さらに裏テーマとして「猫」があると知り、
だんだん、行ってみたくなったわけです。

ポスターもいい感じ。


巨大な魚の上に、別の浮世絵から踊る猫を持ってきている。
「猫もがんばっています」とあるけど、踊ってるだけだしなぁ。

展示会場は、おおまかにわけて三部構成。
第一部「国芳画業の変遷」は、国芳の生涯をたどりつつ作品を展示。
彼の出世作「通俗水滸伝豪傑百八人一個」も見ることができる。
第二部「国芳の筆を楽しむ」は、肉筆や風景画から国芳の特色を見せる。
そして第三部「もう一つの真骨頂」では、
「奇と笑いと猫の画家」として、彼の戯画や猫作品を展示している。

第一部・第二部ともに面白かったのですが、
なんといっても第三部が一番でした。
三枚つながりの作品、例えば「鬼若丸と大緋鯉」や「宮本武蔵と巨鯨」などの
迫力もものすごかったけど、
動物を擬人化した「道外獣の雨やどり」や、
ひな人形が喧嘩していて、犬の張り子が止めに入る
「道外十二月 三月ひいなのいさかい」といった作品がとても楽しい。
人形だから顔色変えないままで喧嘩している。止めに入った張り子も笑顔のまま。
けっこう凄惨な場面のはずだけど、緊迫感がない。


そしてたくさんの猫たち。
美人画の猫たちもあくまで浮世絵なんだけど、なんだかリアル。



他にも猫を擬人化した「くつろぐ夏の猫美人たち」や、
「おぼろ月猫の盛り」(吉原の猫版)、「流行猫の曲手まり」もいい感じ。
着物の柄に鈴や小判やタコをあしらっていて、
細部まで遊び心がつまってる。

東海道五十三次にかけた「猫飼好五十三疋」は、
東海道の宿駅をもじって猫の仕草にあてている。
例えば、戸塚は「はつか」、藤沢は「ぶちさば」、
保土ヶ谷は「のどかい」大磯は「おもいぞ」といった感じ。

まぁ、少々無理なもじりもあるけど、描かれた猫はどれも愛嬌ある。
歌川国芳の猫好きが伝わる楽しい作品。

それにしても江戸時代って、
面白い作品が次々生まれた時代なんだなぁ、と改めて実感。

「歌川国芳―奇と笑いの木版画」展は、
府中市美術館で5月9日まで開催中。
料金は、大人600円・学生300円とすこぶるお得。


『水滸伝』の衝撃

稲田篤信編『アジア遊学131 『水滸伝』の衝撃―東アジアにおける言語接触と文化受容』(勉誠出版、2010年3月)

『アジア遊学』の最新号は水滸伝特集。
「中国における成立と展開」・「東アジア言語文化圏の中で」・
「水滸伝と日本人」の三部構成。
目次は以下の通り。

○中国における成立と展開
佐竹靖彦「水滸伝の時代―江湖無頼の英雄から中華の英雄へ」 
佐藤晴彦「『水滸傳』は何時ごろできたのか?―異体字の観点からの試論」 
小松謙「水滸雑劇の世界―『水滸伝』成立以前の梁山泊物語」 
笠井直美「誰が小衙内を殺したか―『水滸伝』における「宣言としての暴力」の馴致」 
周以量「明清の水滸伝」 
劉岸偉「李卓吾は何故『水滸伝』を批評したのか」 
岩崎菜子「現代中国の伝統文化復興と蘇る『水滸伝』もの」 

○東アジア言語文化圏の中で
竹越孝「『語録解』と『水滸伝』」 
岡田袈裟男「異言語接触と『水滸伝』注解書群」 
小田切文洋「水滸語彙への関心と水滸辞書の成立」 
奥村佳代子「岡島冠山の唐話資料と『忠義水滸伝』―「水滸伝」読解に与えた見えない影響」 
稲田篤信「平賀中南―「水滸抄訳序」注解」 
中村綾「『水滸伝』和刻本と通俗本―『忠義水滸伝解』凡例と金聖歎本をめぐって」

○水滸伝と日本人
渡邉さやか「『本朝水滸伝』と弘前の祭礼」 
田中則雄「水滸伝と白話小説家たち」 
小澤笑理子「上田秋成と『水滸伝』一考察―魯智深で読む「樊噲」」 
井上啓治「京伝『忠臣水滸伝』と『水滸伝』三種」 
藤沢毅「栗杖亭鬼卵作『浪華侠夫伝』―枠組みと反体制としての「水滸伝」」
鈴木圭一「建久酔故傳」 
神田正行「『水滸伝』の続書と馬琴」 
黄智暉「曲亭馬琴における「翻案」と「続編」の問題―『水滸伝』と『水滸後伝』の受容をめぐって」 
石川秀巳「〈江戸の水滸伝〉としての『南総里見八犬伝』」 
佐藤悟「『傾城水滸伝』の衝撃」 
安田孝「露伴の翻案・翻訳」

どちらかといえば日本における『水滸伝』受容がメイン。
竹越孝「『語録解』と『水滸伝』」は、
朝鮮で作られた水滸伝語彙辞典を取り上げている。