2012年8月29日水曜日

幕府のふみくら

長澤孝三『幕府のふみくら―内閣文庫のはなし』(吉川弘文館、2012年9月)

現在は国立公文書館内の機構改革によって、名称がなくなってしまった内閣文庫の歴史と仕事について、最後の内閣文庫長(2001年1月~3月)であった長澤孝三氏が紹介。

紅葉山文庫を筆頭に、現在までの内閣文庫の歴史をふりかえり、内閣文庫が持っているえりすぐりの国書・漢籍などを解説し、内閣文庫の日々の仕事を紹介している。随所に挿入される[余録]と題した思い出話も興味深い。

以前、とある内閣文庫本を調査したことがある。
すぐに原本閲覧ができて、とてもうれしかった。
今では個人撮影も認められているそうだ。
気になる漢籍がいくつかあるので、
時間をつくって、また見に行きたい。

なお、現在では、情報公開促進の流れによって、
「原本による閲覧」が大前提となり、
年齢制限の撤廃や個人撮影の許可がなされているが、
資料保存の観点から、長澤氏は若干の憂慮を示している。

2012年8月25日土曜日

屍者の帝国

伊藤計劃×円城塔『屍者の帝国』(河出書房新社、2012年8月)

「早熟の天才・伊藤計劃の未完の絶筆が、
盟友・円城塔に引き継がれ遂に完成」(帯より引用)。

フランケンシュタインの技術と
バベッジの解析機関が実用化された19世紀末、
世界は「屍者」で満たされていた。
英国諜報員ジョン・ワトソンは
英露のグレートゲーム真っ只中のアフガニスタン奥地に赴く。
あるロシア人率いる「屍者の王国」をめざして……。
これが長い冒険の始まりにすぎないことをワトソンは知らない。

生者と屍者と世界文学の登場人物が混ざり合い、
史実とifと作品世界の溶け込みあった幻想の19世紀。
『ディファレンス・エンジン』を彷彿させる
SF&歴史改変小説であるのは当然のこと、
世界をまたにかける冒険小説でもあり、
なおかつ魂・意識・生死を問う思索小説でもある。
本筋とはずれるが、様々な仕掛けを探るのも楽しい。

伊藤計劃は、プロローグにあたる部分を書き残し、
続きもプロットも殆ど残さないまま、34歳の若さで亡くなってしまった。
そのため、ほとんどが円城塔の単独執筆なのだが、
驚くほど伊藤計劃の『虐殺器官』・『ハーモニー』との
つながりを感じさせる。

痺れながら、一気に読んでしまった。

19世紀末の歴史改変小説は英米で盛んだけども、
大体の作品の舞台は、欧米にとどまっている。
それに対して『屍者の帝国』は、がっつり「アジア」が舞台。
さっそく、世界に向けて翻訳すべきじゃないだろうか。

中国前近代ジェンダー史ワークショップ

中国前近代ジェンダー史ワークショップ
<唐宋変革は中国のジェンダー構造をどう変えたか?―中国ジェンダー史教育の方向を探る>ワークショップ(その1)
日時:2012年9月5日(水)午後1:30~5:30
場所:東洋文庫2階講演室

プログラム
13:30~13:45 趣旨説明:小浜正子
13:45~14:30 金子修一「漢代の皇后に関する諸問題」
14:30~15:15 猪原達生「唐代における宦官の婚姻と家族形成について」
15:15~16:00 五味知子「明清時代の貞節と秩序」
16:15~16:30 コメント 岸本美緒
16:30~17:30 総合討論

当日参加も可。ただし、人数把握のために参加予定の方は、
kohama*chs.nihon-u.ac.jp(*→@に変換してください) に連絡のこと。

2012年8月23日木曜日

東方学会平成24年度秋季学術大会

東方学会平成24年度秋季学術大会
日時:2012年11月10日(土)12:30~17:50
会場:芝蘭会館別館

プログラム
講演会
12:40~13:40 戸倉英美「舞楽「蘭陵王」新考」
13:50~14:50 後藤昭雄「平安朝の願文―中国の願文を視野に入れて」

研究発表(第29回・30回東方学会賞受賞者)
15:00~15:30 田中靖彦「朱熹の歴史認識と三国時代」
15:35~16:05 仙石知子「毛宗崗本『三国志演義』における関羽の義」
16:10~16:40 江川式部「唐代の弔祭」
16:45~17:15 福田素子「落語「もう半分」から考える日本の討債鬼故事受容」

17:30~17:50 第31回東方学会賞贈呈式
                     

2012年8月19日日曜日

東洋学報

東洋文庫の『東洋学報』が第93巻第1号(2011年6月刊)から、
PDFでダウンロードできることを遅ればせながら知りました。
しかも、最新号がダウンロードできるなんて太っ腹。

ちなみに『東洋学報』94-1(2012年6月)の目次は以下の通り。
菊地大「曹操と殊礼」
岡部毅史「北魏前期の位階秩序について―爵と品の分析を中心に―」
小武海櫻子「同善社の慈善事業―合川会善堂慈善会の軌跡を中心に―」
関智英「袁殊と興亜建国運動―汪精衛政権成立前後の対日和平陣営の動き―」

菊地論文は曹操に与えられた殊礼の前例と意義を検討している。なかでも魏公・魏王時代の曹操に与えられた殊礼(後漢の東海王彊・前漢の梁王武に基づく)によって、皇位継承資格者になぞらえられたことを指摘し、漢魏禅譲の機運が形成されたとする。

唐代史研究会2012年夏期シンポジウム


唐代史研究会2012年夏期シンポジウム「「隋唐帝国」論―宗教・法制・国際関係」
日期:2012年8月20日(月)~22日(水)
会場:文部科学省共済組合箱根宿泊所 四季の湯強羅静雲荘

【スケジュール】
8月20日
14:00~15:30 福島恵「墓誌史料より見たソグド人の東方移住の経路について」
15:30~17:00 小幡みちる「唐代道教教団における礼的秩序」
17:00~18:00 総会


8月21日
10:00~12:00 河上麻由子「南北朝時代から隋代にかけての国際秩序―倭国の位置を中心に」
12:00~13:30 昼食
13:30~15:00 古畑徹「唐王朝は渤海をどのように位置づけていたか―中国「東北工程」における「冊封」の理解をめぐって」
15:00~16:30 辻正博「隋唐律令史における大業律令の位置づけ」

16:30~18:00 総合討論

2012年8月14日火曜日

カラマーゾフの妹

高野史緒『カラマーゾフの妹』(講談社、2012年8月)

帯の「あの世界文学の金字塔には真犯人がいる。」にひかれて購入。高野史緒のSF作品はいくつか読んでいたけれど、最近、新作でないなぁ、と思っていたら、まさかあのドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』の続編を書いていたとは。

舞台は、『カラマーゾフの兄弟』の13年後の1887年。次男のイワンが郷里に未解決事件特別捜査官として、帰ってくるところからはじまる。『カラマーゾフの兄弟』の作中人物のその後とともに、再捜査がはじまるや、新たな事件が……。

一見、普通の続編&推理小説と思いきや、徐々に虚実ないまぜのロシアに。ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』第二部の構想を大胆にアレンジした上で、あの名探偵やロシア文学の登場人物、実在の学者・作品も取り込み、いつの間にか舞台はスチームパンク風の世界に。まさしくSFと推理小説とロシア文学の融合。

実のところ、『カラマーゾフの兄弟』は未読だったのだけど、本書を読みおえて、すぐさま新潮文庫版を購入。一気読みしてしまった。高野氏は光文社文庫版に依拠しているのだが、新潮文庫版の翻訳でも特に矛盾箇所は生じていなかった。巧みに原作の隙をついて、意外な真犯人を導き出している。

『ディファレンス・エンジン』や、キム・ニューマンの『ドラキュラ紀元』三部作、矢作俊彦『あ・じゃ・ぱん!』などを思い起こした。今月出る予定の伊藤計劃&円城塔『屍者の帝国』も同種の作品のはず。もちろん、江戸川乱歩賞応募作ということもあって、スチームパンク的要素は少な目。SF好きなら、なんなく入り込めるし、そうでない方も楽しめるはず(多分)。まぁ、苦手な方も多いかも。

水戸黄門「漫遊」考

金文京『水戸黄門「漫遊」考』(講談社学術文庫、2012年8月)

「この紋所が目に入らぬか!」でおなじみの水戸黄門。
彼には、日本・中国・朝鮮に仲間がいた。
中国の包拯に劉知遠、朝鮮の暗行御史、北条時頼……。
黄門さまの「漫遊」の起源をめぐって、
古代から現代、ギリシャ・インド・中国・朝鮮・日本、
王の巡幸・芸能者・スパイ、
神話学・民俗学・歴史学・文学、
講談・小説・映画・テレビと「漫遊」し、
その行き着いた果てに明かされる意外な印籠の起源。

お隣の中国では、今でも黄門の仲間たち(特に清の皇帝)は元気だが、
日本では、ついに2011年にテレビドラマ『水戸黄門』が終焉を迎えた。
善意の権力者が民衆を救うという物語が、
フィクションであっても成立しない時代が来たのかもしれない。

もうすぐ出版されるはずの冲方丁の『水戸光圀』は、
一体、どんな水戸黄門を描くのだろうか。

なお、先日まで、ファン・ヒューリックの狄(ディー)判事シリーズを読んでいたのだけど、本書には取り上げられていなかったが、彼も水戸黄門の仲間であることは間違いない。

原書は、金海南名義で1999年に新人物往来社から刊行。
う~ん、知らなかった。

2012年8月11日土曜日

北・東北アジア地域交流史

姫田光義編『北・東北アジア地域交流史』(有斐閣、2012年)

有斐閣の「新しい時代の大学テキストシリーズ」の有斐閣アルマの一冊。
「北・東北アジア地域」とは聞きなれない呼称だが、対象範囲は、環オホーツク海・環日本海圏、沿アムール圏、中央アジア圏と幅広い。「東アジア」・「東北アジア」といった呼称では、中華世界の「周辺地域」という印象を与えてしまいかねないため、「北・東北アジア地域」を用いるとする。

目次は以下の通り

序章「北・東北アジア地域の歴史と現代をどのように考えるか」(姫田光義)

第1部:シベリアの先住民族と環オホーツク海・環日本海交流圏
第1章「北・東北アジアの先住民族と環オホーツク海・環日本海交流圏」 (中村和之)
第2章「日本から見た環日本海交流圏」 (荒野泰典)

第2部:沿アムール河・ウスリー江交流圏の形成と現代
第3章「帝政期極東ロシア地域の諸民族の交流と生活」(サヴェリエフ イゴリ)
第4章「国境にまたがる民の20世紀―ロシア・ソ連朝鮮人のあゆみ」 (ユ ヒョヂョン)
第3部:モンゴルと中央アジアの交流圏の形成と現代
第5章「匈奴とモンゴルの交流圏 」(井上治)
第6章「モンゴル人にとって栄光の時代とは」 (今岡良子)
第7章「中央アジア交流圏が示すユーラシア像」 (梅村坦)

第4部:文化の移動と交流圏とをつなぐリンク
第8章「海の神様はどこまで広がったか」 (樋泉克夫)
第9章「間宮林蔵は北の大地で何を見たのか―清朝期の東北地域における「多民族的混交」の現実 」(王中忱)

東洋文庫ミュージアム企画展記念シンポジウム

東洋文庫ミュージアム企画展「ア!教科書で見たゾ」記念シンポジウム
日程:2012年8月18日(土)14時~17時
場所:東洋文庫2階講演室

講演
14時~14時30分:小川宏明「世界史は、ファンタジーワールドの物語か?!」
14時30分~15時:風間睦子「世界史教科書、図表のキャプションまで読み込め!」
15時10分~15時40分:岸本美緒「エ!これ見てないゾ?!世界史教科書の悩ましい図版選び」
15時40分~16時10分:桃木至朗「東南アジアと日本を「つなぐ」「くらべる」~新しい世界史の威力と魅力~」
16時20分~17時:パネルディスカッション

入場定員100名
事前申込制・抽選制(東洋文庫ミュージアム宛にはがきかメールにて申込み)
空席が出た場合、当日受付可。
参加費無料

国際学術シンポジウム「墓誌を通した魏晋南北朝史研究の新たな可能性」

国際学術シンポジウム「墓誌を通した魏晋南北朝史研究の新たな可能性」
日時:2012年9月16日(日)9:30~16:30
会場:日本女子大学目白キャンパス新泉山館大会議室
《午前の部》
9:40~10:30  佐川英治「南北朝新出墓誌の現地調査―南京・洛陽・西安・太原―」
10:30~11:30 王素「中國中古墓誌整理研究的新收穫―以大唐西市博物館新藏魏晉南北朝墓誌為中心―」(仮題)
11:30~11:50 質疑1

《午後の部》
13:00~14:00 張銘心「従墓誌的伝播所見漢文化的分流与合流―以魏晋南北朝為中心―」
14:00~15:00 李鴻賓「墓誌銘反映的關隴集団的摶成問題」(仮題)
15:00~15:20 質疑2
15:30~16:25 総合討論(司会:葭森健介、コメント:關尾史郎)

魏晋南北朝史研究会第12回大会

魏晉南北朝史研究会 第12回大会
日時:2012年9月15日(土)13時~
会場:日本女子大学目白キャンパス 新泉山館大会議室
 
   

研究報告
福原啓郎「西晉の張朗墓誌の総合的研究を目指して」
 コメンテーター 葭森健介
窪添慶文「北魏における弘農楊氏―楊播兄弟とその子息たち」
 コメンテーター 岡部毅史

学会報告
小尾孝夫「“第6届中国中古史青年学者聯誼会”参加報告」
阿部幸信「“第7回中国中古史青年学者国際会議”のご案内」