2011年4月9日土曜日

ハウス・オブ・ヤマナカ

朽木ゆり子『ハウス・オブ・ヤマナカ―東洋の至宝を欧米に売った美術商―』(新潮社、2011年3月)

戦前に日本・中国の美術品を欧米に輸出して世界に名を馳せた山中商会を取り上げたノンフィクション。副題が新潮社っぽく、あおり口調だけど、研究書といってもよさそうな内容。主にアメリカの公文書館で発見した資料を用いて、アメリカ支店を中心に山中商会の盛衰を描いている。闇商人的なイメージが強かったけれど、アメリカでは信頼できる美術商として活躍していたようだ。残念ながら日本での活動については、資料的制約から殆ど触れられていない。

アメリカ支店設立当初は、日本美術を中心としていたが、徐々に中国美術を扱うようになり、1910年代以降は中国美術が主要商品となったらしい。日本でも山中商会は活発に中国美術を売買していた。例えば、根津美術館にある天龍山石窟の仏頭は、山中商会が取り扱ったものである。山中商会の研究が進むことで、発見地・出土時期・流通経路などが明らかになる中国美術品も出てくるのではないだろうか。

実際、本書157~165頁によれば、現メトロポリタン美術館蔵の北魏の金銅仏(524年製)は、メトロポリタン美術館の1944年のカタログでは1924年に河北省の小さな村で発見されたとあるそうだが、山中商会の請求書から1918年に河北省正定で発見され、日本に入った後、アメリカにいったことがわかるそうだ。今後、是非とも山中商会研究が活発化してほしい。