2010年6月30日水曜日

地図帳中国地名カタカナ現地音表記の怪

明木茂夫『地図帳中国地名カタカナ現地音表記の怪―「大運河」が「ター運河」とはこれいかに』(一誠社、2010年5月)

地図帳における中国地名のカタカナ表記の奇妙さについて論じた小冊子。
中京大学の紀要などの連作論文のエッセンスを凝縮したものらしい。
確かに最近の地図帳にはカタカナ表記が多いなぁ、と思っていたけど、
まさか漢字を一切排除した地図帳がどんどん増加しているとは。
しかも、カタカナ表記のみで一部の公務員採用試験が行われたりしているらしい。

にしても、万里の長城を「ワンリー長城」って表記するのは無しでしょ。
笑ってよんでたけど、だんだん怖くなってきた。
やっぱり最低限、漢字も一緒に表記しないとだめだと思うのだけど。

汲古57号

古典研究会編『汲古』第57号(汲古書院、2010年6月)

目次は以下の通り。
小林芳規「日本のヲコト点の起源と古代韓国語の点吐との関係」
王宝平「康有為『日本書目志』出典考」
下田章平「完顔景賢撰・蘇宗仁編『三虞堂書画目』について」
志村和久「較新の漢字研究」
恩田裕正「『朱子語類』巻九十四訳注(九)」
平勢隆郎「正しからざる引用と批判の「形」―小沢賢二『中国天文学史研究』等を読む―」
田中大士「春日本万葉集の完全に残る例―付春日懐紙の総数再考―」
舟見一哉「伝足利義視筆『徒然草』の古筆切をめぐって」
岩本篤志「東条琴台旧蔵『君公御蔵目録』小考―高田藩榊原家の資料群の変遷に関連して―」

王論文と岩本論文からは、目録学の大変さと面白さが伝わってきた。
数千のデータを比較するなんて、気が遠くなりそう。まねできないなぁ。
あと、意外に舟見論文が読みやすかった。
これまで古筆切に関する文章は、専門的すぎてよくわからなかったけど、
舟見論文では、古筆切から室町時代の『徒然草』の受容状況に迫っていて、
興味深かった。

いろんな意味で今回の『汲古』は面白い。

2010年6月27日日曜日

落合多武展

一応、このブログでは現代アート鑑賞も特色の一つにしてるのですが、
なかなかアップできないでいます。前回アップしたのは四月上旬。
いまはもう六月末。時間がたつのは早いものです。

ちょっと前のことになりますが、ワタリウム美術館で開催中の
「落合多武展―スパイと失敗とその登場について―」に行ってきました。
ドローイング、映像、写真などなど。ノンジャンルな感じ。



とりあえず、全作品(21点)の三分の一近くに、
なんらかの形で猫が関わっている。
そういえば、ポスターも黒猫っぽいと言えなくもない。
猫好きなのかな。

「バランス」という反対語を羅列した作品(作者が考える反対語)では、
猫の反対語として名刺が選ばれていた。なんとなく納得。

「猫彫刻(スティーブン)」は、二つの穴があいた板の周りを、
猫がちらちらっと登場する映像作品。
最初は、全然猫が登場しないので、素通りしてしまった。

他に覚えているのは、「都会のリス」。
ギターを背負った街ゆくミュージシャンを撮った写真。
その後ろ姿は確かにリスっぽい。

「熱帯雨林のドローイング」は、コスタリカのジャングルで迷った経験を
もとに作ったドローイング。色鉛筆(緑)も紙もみないで描いたらしい。


と、まぁ、2階から4階までいろんな作品があるし、
ゆっくりみればそれなりに時間かかるのだけど……、
現代アート初級者の僕には、いまいちピンと来ず。
う~ん、でも、なんだろ、このもやもやした感じ。

例えば、「地球上で一番高い所にマンハッタンで行くビデオ」は、
10台のテレビに、ひたすら階段を登る映像が映されている。
10本で10時間らしい。
「ブロークン・カメラ」は、壊れたカメラの映像をただ延々と流している。
再生するたびに違ったエフェクトがかかってしまうらしい。
おもしろいかといえば、正直いってつまらない。
なんというか、没コミュニケーションという形のコミュニケーションみたい。
と、自分でそれっぽいこと言ってるけど、実はよくわかっていません。

そうそう、毎日五時よりスタッフによる展示解説があって、
アイリッシュコーヒー(コーヒー&ウィスキー)もふるまわれるみたいです。
それを聞けば(そして飲めば)、何か見えてくるのかも。

ワタリウム美術館で8月8日(日)まで開催。
開館時間:11時~19時(毎週水曜日は21時まで)。
入館料:大人1000円、学生(25歳以下)800円。

玄奘三蔵、シルクロードを行く

前田耕作『玄奘三蔵、シルクロードを行く』(岩波新書、2010年4月)

中国からガンダーラに至る玄奘の足取りを詳細に描いている。

内陸アジア出土古文献研究会7月例会

内陸アジア出土古文献研究会7月例会
日時:2010年7月24日(土)14:30〜17:30
場所:明治大学駿河台キャンパス研究棟4階 第2会議室
報告
落合俊典「“敦煌秘笈”における一,二の問題点」
土肥義和「唐代西州の均田制施行の一斑──新出龍朔二年(662)高昌県思恩寺僧籍及び神龍三年(707) 同県開覚寺手実について──」

2010年6月20日日曜日

木簡から古代がみえる

木簡学会編『木簡から古代がみえる』(岩波新書、2010年6月)

2009年に30周年を迎えた木簡学会が、一般向けにまとめた概説書。
木簡から何がわかるかを様々な角度から平易にまとめていて読みやすい。

目次は以下の通り。
一:木簡は語る―研究の足跡―  和田萃
 トピック1飛鳥池木簡 木簡から『日本書紀』を読み直す  市大樹
 トピック2荷札木簡 荷札が語る古代の税制 馬場基
二:奈良のみやこを再現する―宮都の木簡から― 舘野和己
 トピック3長屋王家木簡 上流貴族の暮らしぶり 森公章
 トピック4歌木簡 「地下の万葉集」は何を語るか 栄原永遠男
三:見えてきた古代の「列島」―地方に生きた人々― 平川南
 トピック5長登銅山木簡 官営鉱山と大仏造立 佐藤信
 トピック6袴狭木簡 雪国の地方官衙 吉川真司
四:東アジアの木簡文化―伝播の過程を読み解く― 李成市
 トピック7中国の木簡 秦漢帝国では 角谷常子
 トピック8沖縄のフーフダ 今も生きる呪符木簡 山里純一
五:木簡の出土から保存・公開まで 渡辺晃宏
 トピック9胡桃館木簡 三七年目の復活 山本崇
 トピック10木簡の再利用 木簡はお尻ぬぐいに使われた 井上和人

2010年6月19日土曜日

千年帝都洛陽

塩沢裕仁『千年帝都 洛陽―その遺跡と人文・自然環境―』(雄山閣、2010年1月)

洛陽の基礎的研究として、洛陽周辺の自然環境や
県城・街道・水系などを詳細に取り上げている。
また、遺跡・博物館の詳しい情報も掲載されている。
洛陽調査の際の必読文献。

2010年6月18日金曜日

『史学雑誌』119-5

「2009年の歴史学界―回顧と展望」『史学雑誌』119-5(史学会、2010年5月)

毎度のごとく、総説、歴史理論、日本古代、東アジアからアフリカまでは熟読。
その他の日本史は斜め読み。ヨーロッパ、アメリカは飛ばし読み。

論文リストになりつつあるという批判もあるし、
自分自身多少そう思っていたのだけど、
今回の西アジア・北アフリカの近現代を見て、
やっぱりそんなに面白くなくてもいいから、従来通りでいいかもと思ってしまった。

今回の西アジア・北アフリカの近現代は、
「「周縁」とされる存在を扱う研究」のみを取り上げていて、
従来の回顧と展望なら絶対取り上げられたであろう著作・論文を
全くと言い程取り上げていない(と思われる)。
確かにテーマを絞った分、一つ一つの著作・論文は
丁寧に取り上げられていて、単なる論文紹介にはなっていないけど……。

まぁ、何にせよ「回顧と展望」は、いろいろ勉強になるし、
自分もがんばろっ、という気持ちにさせてくれるからありがたい。

2010年6月17日木曜日

内陸アジア出土古文献研究会6月例会

内陸アジア出土古文献研究会6月例会
日時:2010年6月19日(土) 14:30〜17:30
会場:明治大学駿河台キャンパス研究棟4階 第一会議室
報告
岩本篤志「敦煌秘笈「雑字一本」小考」
池田温「第54回杏雨書屋特別展示会を見て」

溥儀の忠臣 工藤忠

山田勝芳『溥儀の忠臣 工藤忠―忘れられた日本人の満洲国―』(朝日選書、2010年6月)

従来、「大陸浪人」として軽く扱われてきた
溥儀の側近の工藤忠の詳細な伝記。
工藤忠の経歴・人脈(陸軍・外務省・アジア主義者・復辟派など)を丹念に調査し、
アジア主義者としての側面とその限界を明らかにしている。
それにしても、第二革命、第三革命、張作霖爆殺事件、
溥儀の天津脱出、満洲国の建国などなど、
次から次に大事件に関わる工藤忠は、確かにただものではない。

2010年6月9日水曜日

魏書序紀考証

吉本道雅「魏書序紀考証」(『史林』93-3、2010年5月)

『魏書』序紀の建国神話と拓跋氏の南下の二つの問題に検討を加えたもの。
園田俊介「北魏・東西魏時代における鮮卑拓跋氏(元氏)の祖先伝説とその形成」(『史滴』27、2005年12月)、
佐藤賢「もうひとつの漢魏交替―北魏道武帝期における「魏」号制定問題をめぐって―」(『東方学』113、2007年1月)
とじっくり読み比べたい。

Symphony of Science

友人に教えてもらったのですが、
かっこいいの一言です。

カール・セーガンやリチャード・ファインマンといった科学者の
講演や画像が加工されて歌になっています。



http://www.youtube.com/watch?v=XGK84Poeynk&feature=related


英語は苦手で詳しくはわかりませんが、
生物学バージョンや、
http://www.youtube.com/watch?v=hOLAGYmUQV0&feature=related
科学とは何かバージョン、
http://www.youtube.com/watch?v=9Cd36WJ79z4&feature=related
火星バージョンなんかもあるようです。
http://www.youtube.com/watch?v=BZ5sWfhkpE0&feature=related

ホーキングやドーキンスなども登場しています。

おおもとは、こちらの外国(アメリカ)のサイトです。
http://symphonyofscience.com/

人文科学版でも是非やってほしいのですが……、
う~ん、でもやっぱこうはいかないですかね。

2010年6月7日月曜日

「漢委奴国王」金印・誕生時空論

鈴木勉『「漢委奴国王」金印・誕生時空論―金石文学入門Ⅰ 金属印章篇―』(雄山閣、2010年5月)

タイトルに「誕生時空論」なんて入っているので、
一瞬、トンデモ本じゃないかと思うかもしれませんが、さにあらず。
国宝の「漢委奴国王」金印について、 印面の彫り方に主に着目し、
漢~晋期の出土品・伝世品の印章や、
さらには江戸時代の印章とも詳細に比較検討している。

三浦佑之『金印偽造事件―「漢委奴國王」のまぼろし―』(幻冬舎新書、2006年11月)では、
金印偽造説の根拠として、鈴木勉氏の研究を引用していたが、
今回の本は、三浦氏の新書がきっかけになってまとめたとのこと。

はっきりとした結論は、あえて出していないが、
少なくとも、中国で出土した金印・印章と異なる技術が使用されており、
むしろ、江戸時代の印章に技術的共通性がいくつか見られるとする。

2010年6月5日土曜日

東アジアを結ぶモノ・場

『アジア遊学132 東アジアを結ぶモノ・場』(勉誠出版、2005年5月)

今回は、日本と中国を行き来したモノを中心に、
東アジア海域世界の多様性・多義性を浮かび上がらせようとしている。

目次は以下の通り。
久保智康「海を渡った密教法具」
佐々木守俊「入唐僧と檀印」
瀧朝子「仏像とともに海を渡った鏡―清凉寺釈迦如来像―」
吉村稔子「平安時代中期の天台浄土教とその美術」
荒木浩「モノの極北―ツクモ・心・コトバ―」
山内晋次「『香要抄』の宋海商史料をめぐって」
高橋昌明「宋銭の流通と平家の対応について」
横内裕人「久米田寺の唐人―宋人書生と真言律宗―」
蓑輪顕量「麈尾と戒尺」
西山美香「浄智寺の奇瑞―福州版大蔵経焼失と舎利現出―」
水越知「「忠臣」、海を渡る―日中における文天祥崇拝―」
西谷功「楊貴妃観音像の〈誕生〉」
荒木和憲「中世対馬宗氏領国の海域交流保護政策」
橋本雄「大内氏の唐物贈与と遣明船」
伊藤幸司「硫黄使節考―日明貿易と硫黄―」
藤田明良「明清交替期の普陀山と日本―大蔵経日本渡来事件を中心に―」
松島仁「〈中華〉の肖像、あるいは徳川日本のセルフイメージ」
澤田和人「慶長小袖の時代性―中国・韓国の染織品と比較して―」
松尾晋一「港町長崎の危機管理―転換点としてのフェートン号事件」

ほとんどが中世以降。全体的に仏教関係が多い。
日中交流中心で、朝鮮半島や琉球はあまり取り上げられていない。
個人的には、山内晋次氏・水越知氏・橋本雄氏・伊藤幸司氏・
藤田明良氏・松島仁氏の論稿が興味深かった。

2010年6月3日木曜日

日本宋史研究の現状と課題

浅見洋二・平田茂樹・遠藤隆俊編『日本宋史研究の現状と課題―1980年代以降を中心に―』(汲古書院、2010年5月)

目次は以下の通り。
遠藤隆俊・平田茂樹・浅見洋二「前言」
平田茂樹「政治史研究―国家史・国制史研究との対話を求めて―」
小川快之「法制史研究」
宮澤知之「財政史研究」
岡元司「地域社会史研究」
遠藤隆俊「家族宗族史研究」
久保田和男「都市史研究」
須江隆「地方志・石刻研究」
市來津由彦「儒教思想研究」
松本浩一「仏教道教史研究」
内山精也「文学研究―詞学および詩文を中心に―」
勝山稔「古典小説研究およびその史学的研究への活用」
板倉聖哲「絵画史研究」
山崎覚士「五代十国史研究」
飯山知保「遼金史研究」
榎本渉「日宋交流史研究」

1980年代以降を中心とした研究史整理。
様々なジャンルが網羅されていて、内容も充実している。
西夏史が取り上げられていなかったのが、ちょっと残念。

『中国歴史研究入門』では、大まかな研究状況しかわからないし、
『史学雑誌』の回顧と展望では、長期的状況はよくわからない。
だから、こうした試みは、本当にありがたい。
他の時代でもやってくれないだろうか。

三国志演義の世界【増補版】

金文京『三国志演義の世界【増補版】』(東方書店、2010年5月)

1993年に出された東方選書39を増補したもの。
九章「東アジアの『三国志演義』」が丸々付け足されている。
他の章も多少の増補がなされているらしい。
七章「『三国志演義』の出版戦争」では、2010年の最新情報が見える。
恥ずかしながら、旧版を持ってなかったので、
増補版が出たのを機に購入。
『三国志演義』の成り立ちを知るには手ごろな一冊。