2010年4月29日木曜日

法史学研究会会報14号

『法史学研究会会報』第14号(2010年3月)は、205頁といつもより厚め。
論説・叢説・学界動向・文献目録・書評・追悼文と内容が盛りだくさん。
以下に中国関係文章のみをかかげます。

【論説】
陶安あんど「上海図書館所蔵の薛允升『唐明律合刻』手稿本について」
落合悠紀 「漢初の田制と阡陌についての一試論―漢「二年律令」田律246 簡の理解をめぐって―」
【叢説】
宮部香織「律令「条文名」覚書」
鈴木秀光「台湾における清代法制史関連史跡の探訪―官方関係を中心として―」
【学界動向】
岡野誠・服部一隆・土肥義和・川村康・石見清裕・荒川正晴・石野智大・三橋広延・十川陽一・江川式部「天聖令研究の新動向―『唐研究』第14巻(天聖令特集号)に対する書評を中心として―」
【文献目録】
岡野誠・服部一隆・石野智大編「『天聖令』研究文献目録(第2版)」
江川式部「南北朝隋唐期礼制関連研究文献目録(中文篇2/2001~2009年)」
【書評】
梅田康夫「小林宏『日本における立法と法解釈の史的研究 第1巻』」
松田恵美子「西英昭『《台湾私法》の成立過程』」
西英昭「高漢成『簽注視野下的大清刑律草案研究』」
西英昭「後藤武秀『台湾法の歴史と思想』」
【追悼文】
岡野誠「弔辞(島田正郎先生のご葬儀において)」
小林 宏「若き日の利光三津夫博士」
池田 温「滋賀秀三先生追悼文」

『唐研究』14号の天聖令関係論文全ての書評や、
天聖令研究文献目録、南北朝隋唐時代の礼制研究文献目録が、
掲載されていて、とっても有意義。
中国とは関係ないけど、瀬賀正博「落語「鹿政談」に見る名判官像」が、
奈良の鹿誤殺裁判から、江戸時代の名判官像を解き明かしていて面白かった。

2010年4月28日水曜日

遣唐使の光芒

森公章『遣唐使の光芒―東アジアの歴史の使者―』(角川選書、2010年4月)

東野治之『遣唐使』(岩波書店、2007年11月)に続く、一般向け遣唐使概説書。
文化・知識の移入や人物に関するは記述はやや少なめで、
対外認識や外交制度などに重点が置かれている。

正倉院文書の世界

丸山裕美子『正倉院文書の世界―よみがえる天平の時代』(中公新書、2010年4月)

1万点以上ある正倉院文書の中から、
漢籍・僧侶名簿・戸籍・行政文書・写経事業などを取り上げ、
奈良時代の社会を描き出している。

第一章「聖武天皇と光明皇后」では、
『雑集』と聖武天皇の仏教政策との関係を指摘し、
聖武天皇にとって座右の書であった可能性を述べている。
個人的に一番面白かったのは、第六章「国家プロジェクトを支えた人々」。
写経事業を荷った写経生たちの日常が浮かび上がってくる。
そういえば、ちょうど去年の正倉院展では、
写経生の減給規定(誤字・脱字があったり、見逃したら減給)の文書を
展示していたなぁ。

2010年4月25日日曜日

歌川国芳―奇と笑いの木版画

府中市美術館で開催中の「歌川国芳―奇と笑いの木版画」展に
行ってきました。

これまで特に浮世絵には興味なかったのですが、
歌川国芳の「奇と笑い」に焦点を当てていて、
さらに裏テーマとして「猫」があると知り、
だんだん、行ってみたくなったわけです。

ポスターもいい感じ。


巨大な魚の上に、別の浮世絵から踊る猫を持ってきている。
「猫もがんばっています」とあるけど、踊ってるだけだしなぁ。

展示会場は、おおまかにわけて三部構成。
第一部「国芳画業の変遷」は、国芳の生涯をたどりつつ作品を展示。
彼の出世作「通俗水滸伝豪傑百八人一個」も見ることができる。
第二部「国芳の筆を楽しむ」は、肉筆や風景画から国芳の特色を見せる。
そして第三部「もう一つの真骨頂」では、
「奇と笑いと猫の画家」として、彼の戯画や猫作品を展示している。

第一部・第二部ともに面白かったのですが、
なんといっても第三部が一番でした。
三枚つながりの作品、例えば「鬼若丸と大緋鯉」や「宮本武蔵と巨鯨」などの
迫力もものすごかったけど、
動物を擬人化した「道外獣の雨やどり」や、
ひな人形が喧嘩していて、犬の張り子が止めに入る
「道外十二月 三月ひいなのいさかい」といった作品がとても楽しい。
人形だから顔色変えないままで喧嘩している。止めに入った張り子も笑顔のまま。
けっこう凄惨な場面のはずだけど、緊迫感がない。


そしてたくさんの猫たち。
美人画の猫たちもあくまで浮世絵なんだけど、なんだかリアル。



他にも猫を擬人化した「くつろぐ夏の猫美人たち」や、
「おぼろ月猫の盛り」(吉原の猫版)、「流行猫の曲手まり」もいい感じ。
着物の柄に鈴や小判やタコをあしらっていて、
細部まで遊び心がつまってる。

東海道五十三次にかけた「猫飼好五十三疋」は、
東海道の宿駅をもじって猫の仕草にあてている。
例えば、戸塚は「はつか」、藤沢は「ぶちさば」、
保土ヶ谷は「のどかい」大磯は「おもいぞ」といった感じ。

まぁ、少々無理なもじりもあるけど、描かれた猫はどれも愛嬌ある。
歌川国芳の猫好きが伝わる楽しい作品。

それにしても江戸時代って、
面白い作品が次々生まれた時代なんだなぁ、と改めて実感。

「歌川国芳―奇と笑いの木版画」展は、
府中市美術館で5月9日まで開催中。
料金は、大人600円・学生300円とすこぶるお得。


『水滸伝』の衝撃

稲田篤信編『アジア遊学131 『水滸伝』の衝撃―東アジアにおける言語接触と文化受容』(勉誠出版、2010年3月)

『アジア遊学』の最新号は水滸伝特集。
「中国における成立と展開」・「東アジア言語文化圏の中で」・
「水滸伝と日本人」の三部構成。
目次は以下の通り。

○中国における成立と展開
佐竹靖彦「水滸伝の時代―江湖無頼の英雄から中華の英雄へ」 
佐藤晴彦「『水滸傳』は何時ごろできたのか?―異体字の観点からの試論」 
小松謙「水滸雑劇の世界―『水滸伝』成立以前の梁山泊物語」 
笠井直美「誰が小衙内を殺したか―『水滸伝』における「宣言としての暴力」の馴致」 
周以量「明清の水滸伝」 
劉岸偉「李卓吾は何故『水滸伝』を批評したのか」 
岩崎菜子「現代中国の伝統文化復興と蘇る『水滸伝』もの」 

○東アジア言語文化圏の中で
竹越孝「『語録解』と『水滸伝』」 
岡田袈裟男「異言語接触と『水滸伝』注解書群」 
小田切文洋「水滸語彙への関心と水滸辞書の成立」 
奥村佳代子「岡島冠山の唐話資料と『忠義水滸伝』―「水滸伝」読解に与えた見えない影響」 
稲田篤信「平賀中南―「水滸抄訳序」注解」 
中村綾「『水滸伝』和刻本と通俗本―『忠義水滸伝解』凡例と金聖歎本をめぐって」

○水滸伝と日本人
渡邉さやか「『本朝水滸伝』と弘前の祭礼」 
田中則雄「水滸伝と白話小説家たち」 
小澤笑理子「上田秋成と『水滸伝』一考察―魯智深で読む「樊噲」」 
井上啓治「京伝『忠臣水滸伝』と『水滸伝』三種」 
藤沢毅「栗杖亭鬼卵作『浪華侠夫伝』―枠組みと反体制としての「水滸伝」」
鈴木圭一「建久酔故傳」 
神田正行「『水滸伝』の続書と馬琴」 
黄智暉「曲亭馬琴における「翻案」と「続編」の問題―『水滸伝』と『水滸後伝』の受容をめぐって」 
石川秀巳「〈江戸の水滸伝〉としての『南総里見八犬伝』」 
佐藤悟「『傾城水滸伝』の衝撃」 
安田孝「露伴の翻案・翻訳」

どちらかといえば日本における『水滸伝』受容がメイン。
竹越孝「『語録解』と『水滸伝』」は、
朝鮮で作られた水滸伝語彙辞典を取り上げている。

2010年4月22日木曜日

日中歴史認識

服部龍二『日中歴史認識―「田中上奏文」をめぐる相剋一九二七―二〇一〇』(東京大学出版会、2010年2月)

中国侵略の青写真を描いたとされる「田中上奏文」について、
従来の研究が偽造と断定するのみであったのに対し、
いつ・どこで作られたのか、どのような国際的影響を与えたのか、
米・ソ・中・台において、どのように認識されてきたのか、
そして今現在、どのように認識されているのかに迫ったもの。

「田中上奏文」の真偽問題を超えて、
その影響力について本格的に研究した研究書。
「田中上奏文」の形成過程から、近年の外務省の対応、
さらには日中歴史共同研究における議論まで論じられていて、
大変面白く、一気に読んでしまった。

中国古代貨幣経済史研究の諸潮流とその展開過程

柿沼陽平「中国古代貨幣経済史研究の諸潮流とその展開過程」(『中国史学』19、2009年10月)

近年、中国古代貨幣経済史の研究成果を続々発表している柿沼氏による学説史整理。
主に中国古代経済史の大まかな流れをつかもうとする
「マクロ歴史学的研究」について研究整理をしている。
戦前に登場した「中国古代貨幣経済史盛衰論」から、
経済人類学の成果を踏まえた最新の研究(特に佐原康夫氏)まで丁寧に跡付け、
柿沼氏の一連の論稿の「学説史的土壌の史的変遷とその現状と」を確認している。

2010年4月17日土曜日

日本政治思想史[十七~十九世紀]

渡辺浩『日本政治思想史[十七~十九世紀]』(東京大学出版会、2010年2月)

「本書は、この主題に関心はあるがその専門の研究者ではない、
その意味で「一般」の読者のために、十七・十八・十九世紀の
簡略な通史を提供することをめざして書いた」(474頁)
と述べている通り、『東アジアの王権と思想』の著者が
「一般」向けに書いた17~19世紀の広くて深い思想史概説。

儒学の説明(第1章)からはじまり、
福沢諭吉・中江兆民(第21・22章)で終わる序章+22章構成。
順をおって読むだけで、江戸~明治初の思想史の流れがスムーズに入ってくる。
江戸思想史に欠かせない儒学・朱子学の解説もとってもわかりやすくて親切。
徳川政治体制(御威光)、儒学の摂取、
伊藤仁斎・新井白石・荻生徂徠・安藤昌益・本居宣長・海保清陵などの思想家、
江戸時代の「御百姓」・「日本」・「西洋」・「性」、とテーマも幅広くて面白い。
幕末の「開国」問題・「文明開化」など、漠然と持っていた明治維新イメージを
さらりと変えてくれるのも楽しい。

2010年4月16日金曜日

サントリー学芸賞選評集

『サントリー学芸賞選評集』(サントリー文化財団、2009年11月)

非売品なのだけど、古本屋の店頭ワゴンにあったので思わず購入。
サントリー文化財団三十周年記念で作成。
これまでのサントリー学芸賞受賞全作品の選評がのっている。
こんな本も受賞してたんだ~、という驚きもあるけど、
それよりも、こんな人が選評してるんだ!という驚きの方がすごい。
過去の受賞者から選んでいるようだけど、その基準がばらばらでよくわからない。

思想・歴史部門には、
谷沢永一・西部邁がいるかと思えば、木村尚三郎や山内昌之もやってるし。
他の部門では、小松左京とか辻静雄あたりが、ちょっと異色。
大岡信・開高健・養老孟司・桐島洋子も意外だった。
今の思想歴史部門は、鷲田清一・鹿島茂・御厨貴・田中明彦・岩井克人。

中国関係の受賞作で驚いたのは、
1989年思想・歴史部門の堀池信夫『漢魏思想史研究』(明治書院)。
選評は木村尚三郎がやっている。

以下に中国関係受賞作品の名前を列挙します。
○政治・経済部門
『北京烈烈』 『中華帝国の構造と世界経済』 『アジア間貿易の形成と構造』
『蒋経国と李登輝』 『中国台頭』 『中国近代外交の形成』 
『現代中国の政治と官僚制』 『属国と自主のあいだ』
○芸術・文学部門
『近代中国と「恋愛」の発見』 『楽人の都・上海』 『京劇』
『花鳥・山水画を読み解く』 『漢文脈の近代』
○社会・風俗部門
『東洋人の悲哀』 『蒼頡たちの宴』 『東アジアの思想風景』
『中国料理の迷宮』 『闘蟋』
○思想・歴史部門
『チベットのモーツァルト』 『漢魏思想史研究』 『クビライの挑戦』
『東トルキスタン共和国研究』 『清帝国とチベット問題』

2010年4月13日火曜日

遼金における正統観をめぐって

川本芳昭「遼金における正統観をめぐって―北魏の場合との比較―」(『史淵』147、2010年3月)

遼・金において、中華意識・正統思想が出現していたことを指摘し、
従来の「征服王朝論」と齟齬する面があるとする。
特に、遼・金の徳運採択の実態を分析し、
金における徳運変更の議論が、北魏の徳運変更の過程と
類似していることを明らかにしている。
遼と宋が相互に北朝・南朝という自己意識を持っていたことは、
毛利英介「十一世紀後半における北宋の国際的地位について―宋麗通交再開と契丹の存在を手掛かりに―」(『『宋代中国』の相対化』汲古書院、2009年7月)で指摘されていたが、さらに正統思想・徳運から、遼金の自己意識に迫っていて、
興味深かった。

遣唐使船再現プロジェクト「春日大社シンポジウム」

遣唐使船再現プロジェクト「春日大社シンポジウム」開催概要
日程:2010年4月24日(土)・25日(日)
会場:春日大社(感謝・共生の館)
定員 24・25日(各日):300名(応募多数の場合は抽選)
申込み方法:遣唐使船再現プロジェクトの「応募フォーム」より申込み

4月24日(土)
10:30~10:40 開会式 祝辞/花山院弘匡(春日大社宮司)
10:40~11:00 角川歴彦「遣唐使船再現計画について」
11:00~12:00 鈴木靖民「遣唐使と古代の東アジア」
13:15~13:55 上野 誠「遣唐使と歌」
14:00~14:50 森 公章「遣唐留学者の役割」
15:40~16:30 榎本淳一「来日した唐人たち」

4月25日(日)
9:30~10:10 上田正昭「遣唐使と天平文化」
10:15~10:55 武内孝善「最澄・空海と霊仙」
11:05~11:55 王 巍「阿倍仲麻呂と玄宗・楊貴妃の長安」
13:00~13:25 西山明彦「鑑真和上と唐招提寺」
13:30~14:20 田中史生「最後の遣唐使と円仁の入唐求法」
15:10~16:00 河添房江「遣唐使と唐物への憧憬」


角川文化振興財団が企画する遣唐使船再現プロジェクト。
遣唐使船を再現し、大阪・呉・五島列島を経て、万博で沸き立つ上海へ。
実際に遣唐使船で中国にわたるわけではないようですが、
各港で行われるイベントの漕ぎ手ボランティアも募集しているようです。

2010年4月11日日曜日

漢文スタイル

齋藤稀史『漢文スタイル』(羽鳥書店、2010年4月)

東京大学出版会の『UP』に連載している「漢文ノート」を芯に、
一般向けの文章を集めたエッセイ集。
前作の『漢文脈と近代日本―もう一つのことばの世界』(NHKブックス、2007年2月)が、「漢詩文を軸に、近代文学と現代日本語の成立を書き直す」と帯にあるように、近代日本が舞台だったのに対し、
今回のエッセイ集は、古典詩文が多く取り上げられている。
中島敦『山月記』の「嘯」の解釈、
ホトトギスの表記と徳富蘆花『不如帰』や正岡子規の筆名についてなどなど、
近代日本の漢文脈と古典詩文解釈が有機的に結びついていて、
読んでて飽きない。

2010年4月10日土曜日

いくさの歴史と文字文化

遠山一郎・丸山裕美子編『いくさの歴史と文字文化』(三弥井書店、2010年3月)

愛知県立大学日本文化学部国語国文学科と歴史文化学科の教員が中心となっている科学研究費補助金「戦に関わる文字文化と文物の総合的研究」による企画。
2008年に行われた二回の研究集会がもとになっている。

収録論文は以下の通り
笹山晴生「基調講演 七世紀東アジアの戦と日本の成立」
孟彦弘「唐前期における戦争と兵制」
李相勲「白村江戦場の位置と地形について」
倉本一宏「白村江の戦をめぐって」
丸山裕美子「七世紀の戦と律令国家の形成」
犬飼隆「白村江敗戦前後の日本の文字文化」
鈴木喬「七世紀における文字文化の受容と展開」
方国花「古代朝鮮半島と日本の異体字研究―「部」の字を中心に」
遠山一郎「いくさが投げかけた影―額田王と天智天皇との万葉歌」
身崎壽「防人のたび」

個人的に興味深かったのは、李相勲論文。
現在でも議論がある白村江の所在地について、
古環境学の成果を用い、朝鮮半島西部の7世紀の海水面が現在より高く、
海岸線・河口の地形が異なっていたことを指摘し、新見解を提示している。

東北中国学会

第59回東北中国学会大会
日程:2010年5月29日(土)・30日(日)
場所
5月29日:弘前大学創立五十周年記念会館
5月30日:アソベの森いわき荘

5月29日
研究発表
石川禎浩「小説『劉志丹』事件の歴史的背景とその展開」
田中和夫「『詩経』古注(毛伝・鄭箋・毛詩正義)における順序意識の意味するもの」
公開講演
森正夫「明末清初、松江府の士人、陳子龍における王朝国家と地域社会」

5月30日
第一分科会
高戸聰「「民則」に狎れる神々―「民」と「神」の関係に着目して―」
三津間弘彦「『後漢書』南蛮伝に見える槃瓠伝説の系譜について―『捜神記』との比較から―」
矢田尚子「笑う教示者―楚辞「漁父」の解釈をめぐって―」
高橋睦美「「有」「無」の諸相―生成論における「道」の記述―」
清水浩子「安世高と後漢の思想」

第二分科会
三田辰彦「東晋劉宋期の皇太妃と皇太后」
松下憲一「北魏前期の部族統治制度」
伊藤侑希「南朝禅譲革命における揚州刺史・揚州牧の意義」
江川式部「唐代の遷葬」
角谷祐一「康熙帝の親近集団とその構造」

2010年4月8日木曜日

名古屋中国古代史研究会報告集1

柴田昇編著『名古屋中国古代史研究会報告集1 血縁関係・老人・女性―中国古代「家族」の周辺』(名古屋中国古代史研究会、2010年3月)

収録論文は次の通り。
飯田祥子「同産小考―漢代の兄弟姉妹に関する整理」
仲山茂「甘粛省武威出土の王杖簡をめぐって―研究史の視点から」
柴田昇「劉向『列女伝』の世界像―前漢後期における秩序意識と性観念の一形態」
酒井恵子「唐宋変革期と「家族」―大澤正昭著『唐宋時代の家族・婚姻・女性―婦は強く』を読む」
張昀「春秋戦国時期的秦国土地制度探討―従軍事制度入手」

個人的に興味深かったのは、飯田論文。
漢代の「同産」の語義を探り、「同母兄弟」ではなく、
「同父兄弟」を意味する公的性質(刑罰・爵賞など)の強い語であり、
従兄弟などの親族や異父同母兄弟と区別するために用いられたとする。
しかし、後漢ごろより「同産」の語義がゆらぎはじめ、
南北朝時代には「同母兄弟」の意味で用いられるようになったとし、
その背景に親族認識や国家の戸口認識の変化が考えられるとする。

巧術


表参道のスパイラルガーデンで開催されていた
「巧術」展にいってきました。

ポスターに、
「ねえ、池内さん、人間の手技には限界がないんですよ」
とある通り、職人的な作品が展示してある。

全部で24点しかないため、30~40分程度で見終わるが、
驚嘆する作品がずらり。


受付わきの壁にそっと置かれている
須田悦弘の木彫りの「椿」。

グラスやガラス皿などを写真に撮って、
マンダラのように組み合わせた桑島秀樹「Horizontal」。

満田晴穂の金属製の昆虫。
女郎蜘蛛(「自在女郎蜘蛛」)と
累々と重ねられたスズメバチの死骸(「累累」)。
関節・針・蜘蛛の糸、全てが本物そっくり。
そして、本物よりもかっこいい。


そして、何といっても圧巻が、
高田安規子・政子「Mt.Fuji」。
富士山周辺の4枚の地図を線部分と文字のみ残して切り抜いた作品(約167×127㎝)。
簡単にいえば、等高線・道路・境界線のみで形成された地図。
作業工程を考えると気が遠くなる。

平面作品なのに、富士山の高さが浮かんでくるようだ。
それでいて、富士山とは全然別物のように感じてしまう。
真上から見ると、ガラスに銃弾を撃ち込んだようにも見えてくる。

会場にあった作品写真をおさめたファイルも面白い。
切り抜いた地図(ロンドン・ニューヨーク)のほかに、
角砂糖の椅子、木製の洗濯バサミのはしご、
足ふきマットに作ったミステリーサークルなどなど。
日ごろ目にするものが、見立ての効果で、
意外なものに変容する面白さ。


作品数は少なくても、十分楽しめました。
何といっても、これだけの技を集めて、
無料なのがすごい。

2010年4月7日水曜日

中国王朝の起源を探る

竹内康浩『中国王朝の起源を探る』(山川出版社、2010年3月)

山川出版社の世界史リブレット95。
新石器から殷周時代までの概説書。
コンパクトにまとめられていて読みやすい。

2010年4月6日火曜日

『中国学のパースペクティブ』読了

以前、紹介した『中国学のパースペクティブ』を読み終えました。

正直、ジェンダー関係の論文は、ぱっとしなかったように感じました。
面白かったのは、いずれも出版・史書関係の論文。
クリスチャン・ラムルー「宋代宮廷の風景―歴史著作と政治空間の創出(1022-1040)」
ヒルデ・デ・ヴィールドト「南宋科挙の学術史」
ヒルデ・デ・ヴィールドト「帝政中国の情報秩序における未開拓の側面―政府文書の普及と商業出版」
ピータ・ボル「地域史の勃興―南宋・元代の婺州における歴史、地理学と文化」
ルシア・チル「中国の出版と書物文化における大変貌―初期スペイン領フィリピンにおける中国の書物と出版」

ヒルデ・デ・ヴィールドト論文の「情報秩序」という
耳慣れない概念に違和感があったけれど、
論文の中身自体は、宮廷編纂の公文書集や歴史書がどのように
流通したかを論じていて、面白かった。
なんだか「情報秩序」という概念が、上滑りしているような気がしたけど、
それは僕の理解力の問題なのだろう。

2010年4月5日月曜日

カフカの〈中国〉と同時代言説

川島隆『カフカの〈中国〉と同時代言説―黄禍・ユダヤ人・男性同盟』(彩流社、2010年3月)


カフカの小説や創作ノート・手紙などに登場する
「中国」・「中国人」表象は、一体何を意味しているのか。
20世紀初頭の黄禍論・シオニズム・ロシア革命といった時代背景や
カフカの婚約問題、彼が読んでいた中国関係の書籍などを
合わせて読み解くことで、彼の作品に「中国人」が登場する意味を明らかにする。

カフカの作品に中国や中国人がちょくちょく登場することは
気付いていたが、同時代の問題がこれだけ反映されていると
解釈できるとは思わなかった。
カフカがハンス・ヘルマン編訳『中国抒情詩集』なる本を
好んで読んでいたという事実自体も興味深い。

カフカ研究の多様さ、面白さ、やりにくさは、
カフカが「読む側が―たとえば「神」「人間の実存」「現代社会の不条理」
といった―自分自身の問題意識をそのまま作品内に読みこんでしまえる
文学世界を創り出した」(234頁)ことに起因しているのだろう。
ここから抜け出るのは、容易なことではないように思える。

2010年4月2日金曜日

第二回中日学者中国古代史論壇

今年の東方学者会議は、
「第二回中日学者中国古代史論壇」も
併設されるそうです。

「第二回中日学者中国古代史論壇」
日程:2010年5月21日(金)10時半~
会場:日本教育会館
テーマ:魏晋期南北朝期における貴族制の形成と三教・文学

全体会 (701・702会議室)
10:30-10:40 池田知久・卜憲群「趣旨説明」
10:40-11:00 中村圭爾「魏晋南北朝の貴族と郷里社会」
11:00-11:20 李憑「論北魏宣武帝朝的儒学伝播」
11:20-11:40 凍国棟「試述葛洪的文論及其対二陸的評価諸問題」
11:40-12:00 陳長琦「六朝貴族与九品官人法」
12:00-12:20 コメント 楼勁

分科会1:思想・文学(702会議室)
13:10-13:30 小林正美「東晋・南朝における「佛教」・「道教」の称呼の成立と貴族社会」
13:30-13:50 楼勁「魏晋子学与思想界」
13:50-14:10 厳耀中「関于北魏的堯帝崇拜」
14:20-14:40 王啓発「葛洪的道論与魏晋士人的精神生活」
14:40-15:00 劉安志「六朝買地券研究二題」
15:00-15:20 魏斌「《東陽金華山棲志》与南朝名山的生活空间」
15:30-15:50 コメント 辛賢

分科会2:史学(701会議室)
13:10-13:30 川本芳昭 「北朝の国家支配と華夷思想」
13:30-13:50 卜憲群「三十年以来中国古代史研究的新趨向」
13:50-14:10 梁満倉「論曹操墓出土的部分文物与歴史文献的関係」
14:20-14:40 胡阿祥「地志勃興与山水方滋―東晋南朝人口南遷与学術文化変遷転型」
14:40-15:00 羅新「北魏皇室制名漢化考」
15:00-15:20 張軍「華夷之間:十六国北朝時期北方少数民族―家・族譜系変更現象考論」
15:30-15:50 コメント 李憑

全体会 (701・702会議室)
16:00-16:20 総括コメント 興膳宏
16:20-17:00 総合討論

参加ご希望の方は、住所・氏名・所属・専門・参加希望部会を明記の上、
電話・ファックスまたはEメールで東方学会まで連絡のこと。


う~ん、すごいの一言。
これだけ豪華なメンバーが日本で見られる機会は
そうそうないような気がします。
はたして、一人当たり20分という制限時間は守られるのだろうか。

第55回国際東方学者会議 東京会議

第55回国際東方学者会議 東京会議
日程:2010年5月21日(金)10時~
場所:日本教育会館7・8階

部会Ⅰ:地方化を通じた国際化―交趾・林邑・扶南の新出考古資料の考察
10:45‑11:45 NGUYEN Quoc Manh (ベトナム)「オケオ文化―1990年から2010年までの二十年間におけるベトナムの調査成果からの考証および考察」
13:00-13:40 平野裕子「メコン河下流域における国際化と地方化―港市オケオを中心とする文化交流の考察から」
13:40‑14:20 山形真理子「林邑の国際化と地方化―都城遺跡出土遺物の検討
14:20‑15:00 俵寛司「北部ベトナムの墳墓―埋葬資料に見る漢文化の受容と在地化」
15:15‑16:15 コメント 新田栄治・肥塚隆

部会Ⅱ:インド仏教における意識の形成と認識の転換
報告内容省略

部会Ⅲ:日中文化交流史の諸問題―古代中世を中心に
10:45‑11:45 黄正建「唐代衣食住行研究与日本資料」(翻訳:河上麻由子)
13:00‑13:35 東野治之「日唐交流と鑑真」
13:35‑14:10 藤原克己「日中文化交流史のなかの『源氏物語』」
14:10‑14:40 コメント 榎本淳一
15:00‑15:35 榎本渉「平安王朝と宋代医学」
15:35‑16:10 OLAH Csaba (ハンガリー)「 「入明記」からみる日明外交文化」
16:10‑16:50 コメント 橋本雄

部会Ⅳ:蒋介石の西南建設と対外政策
10:50‑11:25 家近亮子「蒋介石による西南建設の戦略的意義」
11:25‑12:00 家永真幸「国民政府の西南建設とパンダ外交」
13:00‑13:35 鹿錫俊「蒋介石のドイツ政策――重慶時代を中心に」
13:35‑14:10 呂芳上「1942年における蒋介石のインド外交の旅―柔軟な国際主義者の外交経験」
14:30‑15:30 コメント戸部良一・田嶋信雄

美術史部会
10:40‑11:10 友田真理「漢代画像石に見る風雨表現の諸相」
11:20‑11:50 許棟「曹氏帰義軍時期敦煌の「五台山図」について」
13:30‑14:00 佐藤有希子「雲南省・地蔵寺経幢に関する一考察」
14:10‑14:40 徐男英(韓国)「河北出土白玉像に関する再解釈」
14:50‑15:20 井上一稔「清凉寺釈迦如来像と奝然」


個人的には部会Ⅲに興味がある。
あと、部会Ⅳの「パンダ外交」も、かなり気になる。
民国時代からパンダ外交ってあったんだ。

中国の出版・書物文化における大変貌

ルシア・チア「中国の出版・書物文化における大変貌―初期スペイン領フィリピンにおける中国の書物と出版」(高津孝編訳『中国学のパースペクティブ―科挙・出版史・ジェンダー』勉誠出版、2010年4月)

16世紀末~17世紀初頭の短期間のみ行われた、
フィリピンにおける宣教師による中国書の出版や漢籍の翻訳、
木版・活版の区別、フィリピンへの漢籍の流入状況などについて論じた後、
東南アジアにおける中国の文芸の伝播の差異について考察。
フィリピンのみが、他の東南アジア地域と異なり、
非受容的であったことを指摘している。

この時期の日本への漢籍の流入については、
大庭脩氏の本などを読んでいて、多少知っていたが、
フィリピンや東南アジアは、これまで全く気にしたことがなかった。
東南アジアだけでなく、日本・朝鮮なども視野に入れて、
漢籍・文芸文化の伝播を研究しているのが、ほんとにすごい。

宋代における垂簾聴政(皇后摂政)

ジョン・チェイフィー「宋代における垂簾聴政(皇后摂政)―権力・権威と女らしさ」(『中国学のパースペクティブ―科挙・出版史・ジェンダー』勉誠出版、2010年4月)

宋代において垂簾聴政(皇后摂政)が
他の時代より多く行われたことに注目。
九人の皇后による垂簾聴政の概要を述べ、
垂簾聴政が行われた背景について説明。
士大夫の力量の高さと外戚の排除によって、
垂簾聴政を行っても宋朝の秩序が乱されなかったこと、
最初の垂簾聴政を行った劉皇后が優れた摂政であり、
垂簾聴政に対して肯定的評価が生まれたことなどをあげている。

宋代にこれだけ多くの垂簾聴政が行われていたとは知らなかった。
確かに宋代の垂簾聴政はおもしろい問題のように思える。
しかし、垂簾聴政が多く行われた背景について、
チェイフィー氏が提示する見解は物足りなすぎる。

まぁ、確かに本人も「最近始めたばかりの研究について、
予備的な結論を提示するつもりである」といってるけど、
もう少し、なんとかなったんじゃないだろうか。