2009年12月13日日曜日

医学と芸術

現在、森美術館で開催中の「医学と芸術:生命と愛の未来を探る~ダ・ヴィンチ、応挙、デミアン・ハースト」に行ってきました。

今回の展覧会は、「医学と芸術」をテーマに、
イギリス最大の医療助成団体のウェルカム財団所蔵品を中心に、
第1部:身体の発見、第2部:病と死との戦い、第3部:永遠の生と愛に向かって
という三部構成で、医療用品・解剖図・日本画・現代アートなどなど、
約180点を展示している。

多分、目玉はダ・ヴィンチの解剖図なのですが、
そこにはあまり興味が湧きませんでした。
むしろ、実用的に作られた医療用品なのに
アートに見えてしまう展示品の数々に感動。
ポール・オムニスコープ社製レントゲン機や、特注の「鉄の肺」、
様々な義手・義足・義眼、鉄製関節模型などなど。

また、一つの展示品から、連想がひろがる面白さも味わいました。
たとえば、円山応挙の「波上白骨座禅図」(1780完成)を見た時には、
南宋・李嵩の「■[骨+古]髏幻戯図」を連想。 この絵は、傀儡の骸骨をあやつる芸人(これまた骸骨)とその妻と乳飲み子、
さらに芸人に近づく幼児と、それを止めようとする母親を描いている。
正直、李嵩のほうが、円山応挙よりも、ずっとずっと怖い。

現代アートでは、
死を目前にした人とその死亡直後の顔写真を並べた
ヴァルター・シェルス「ライフ・ビフォア・デス」や、
人の頭蓋骨を紙やすりで2週間削って作った
アルヴィン・ザフラ「どこからでもない議論」、
エドワルド・カッツが遺伝子工学によって生み出した光るウサギ「GFPバニー」に、
深く考えさせられました。
年老いたアメコミヒーローを並べたジル・バルビエの「老人ホーム」は、
単純に見ているだけでも面白かった。
解説は老人医学の面にしか触れてないけど、
“正義”のアメリカ自体を皮肉っているようにも見える。


と、ここまでものすごく満足したように書いてきましたが、
実のところ、面白かったけど物足りない、というのが正直な感想。
意外な組み合わせというのが少ない上に、西洋偏重なのも気にかかる。
申し訳程度にチベット・ペルシャ・インド・中国の展示品もあったけど、
物足りなすぎる。
鍼灸や本草学、江戸時代の医学用品ですら展示されていないし。
東洋医学の世界は、もっともっと奥深く、面白いものがたくさんあるのだけどなぁ。
それに呪詛とか祈祷といったものも広義の精神医学として、
取り上げる価値はあったのではなかろうか。例えばコレラ除けのお札とか。

どうも、グロテスクでインパクトのある解剖図や肉体図に
重点を置きすぎているように感じてしまった。
ま、アートっぽいものっていうと、どうしても西洋偏重になるのは仕方ないのだけど。
でも、そこをもう一歩踏み出してほしかったなぁ。

個人的には5月29日から8月30日まで
21_21DESIGN SIGHTで開催されていた「骨」展の方が
意外な組み合わせがあって面白かった。

なお、「医学と芸術展」は、2010年2月28日(日)まで開催中です。