2010年2月28日日曜日

サイバーアーツジャパン


現在、東京都現代美術館で開催されている
「サイバーアーツジャパン―アルスエレクトロニカの30年」に行ってきました。

「メディアアートの世界的祭典「アルスエレクトロニカ」(オーストリア・リンツ市)の30
周年を記念して、日本のアート&テクノロジー、メディア芸術領域の特集展を開催」だそうです。
なんとなく、メディア・テクノロジーをつかったアート展だと思ってたんですが、
そういう趣旨だったんですね。いま、パンフレット見て知りました。
でも、趣旨も分からずいったわりには、かなり楽しめました。

機械にありがちなトラブル(修理中)やら、
展示配置がよくなくて、せっかくの作品が楽しめなかったり、
説明不足で意図がいまいちわからなかったり、
それを解消するため、図録を買おうと思ったら、
開催してほぼ一カ月もたつのに、完成するのかすらわからない状態だったり、
ちょっとバタバタした感がぬぐえなかったけれど、
それでも、十分楽しめました。


写真はここだけOKでした。
ちょっと前にちょっと流行った八谷和彦作「PostPet」の最新版。
ぐったり感がいい感じ。

展示場内のCO2排出量が可視化された地図(「呼吸する美術館」)とか、
トイレ(便器前)の滞在時間が表示される電光掲示板とか、
それぞれの画面でゲーム内容が違う対戦ゲームとか、
紙の上の虫を食べるタイプライター(クリスタ・ソムラー&ロラン・ミニョノー「Life Writer」)とか、
観覧者が積極的に関わる作品が多くて面白い。

世界各地の道端で不可解なダンスするぬいぐるみのクマを見せて、
道行く人々の反応を見る野口靖+安藤英由樹「Watch Me!」もよかった。
欧米人の無関心っぷりと、巣鴨のおばちゃん・ケニア人の笑顔の対比がすごい。

紙の目玉を柱に入れると、空中に飛び出して舞い上がり、
またたきしてるように見える作品では、
童心にかえって、紙きれを追ってしまいました。

ナンセンス楽器でおなじみの明和電機の作品は、
ガラスケースの中に陳列してあって、ちょっと物足りない感じ。

でも、なんといっても一番気に入ったのが、
クワクボリョウタ氏の作品「シ'|フ'|ン」。

人の動きに反応して動く機械の尻尾。
進化の過程でいらなくなった尻尾をあえて機械で作る。
こういうナンセンスさ、結構すきです。

たまたまタイミング良く、先着5名に間に合い、実際につけることができました。
ギャラリーが多くて、相当はずかしかったのですが、
尻尾の感触を味わうことができました。いやぁ、尻尾も悪くないですね。
はずした時の喪失感がけっこう大きかったです。
ぜひ、お試しください。


アートというより、アミューズメントパークに近いかも。
深いこと考えずに、ただただ純粋に楽しめました。


期間:2010年2月2日(火)~3月22日(月)
休館日:月曜
開館時間:10時~18時
会場:東京都現代美術館企画展示室
観覧料:一般1000円、学生800円

中央アジア学フォーラム(第38回)

中央アジア学フォーラム(第38回)
日時:2010年3月27日(土)13:30~18:00頃
場所:大阪大学・豊中キャンパス・文学部本館2階・大会議室

報告
石川澄恵「「阿史那懐道夫人安氏墓誌」より見る唐代安氏一族の系譜及び交河公主の降嫁について」
佐藤貴保「13世紀初頭カラホトにおける西夏軍―軍籍文書の分析から―」
石川禎仁「新刊紹介:孟憲実『敦煌民間結社研究』(北京大学出版社,2009年刊)」
旗手瞳「学界展望:チベットをはじめとする中央ユーラシア東部出土の金銀器に関する最近の研究紹介」

2010年2月25日木曜日

中国中・近世の社会と文化国際学術研討会

中国中・近世の社会と文化国際学術研討会
日時:2010年3月27日(土)9:00~18:00
会場:上智大学図書館9階921会議室

趣旨説明:大澤正昭
曽継華「東漢“鴻都門学”設置原由探析」
姚瀟鶇「六朝以後的蒋子文信仰」
厳耀中「論唐代儒学重心的転移」
陳大為「唐後期五代宋初敦煌僧寺的影響与地位」
虞雲国「唐宋押字考」
  昼食
今泉牧子「宋代県令抽差の地域的実態について―宋元の地方志をてがかりに―」
鍾翀「宋代浙東的郷里与村落―以東陽県北江地方為個案―」
戸田裕司「南宋地方行政と士人―婺州饑饉に見える官民関係―」
石川重雄「僧尼治罰と宋代法―仏律と俗法のはざまで―」
  休憩
戴建国「煕豊詔獄与北宋後期政治」
徳永洋介「警跡と景跡―近世中国の治安措置―」
佐々木愛「族譜を編纂する時―明代中期広東 羅虞巨と裁判―」

費用:資料代500円
後援:中国史学会・上智大学史学会・上智大学

歴史学研究会日本古代史部会2・3月例会

歴史学研究会日本古代史部会2・3月例会
日時:2010年2月27日(土) 14:00~
会場:明治大学駿河台キャンパス リバティタワー 1064教室

報告
毛利英介「東アジア史上の複数帝国併存期について-契丹(遼)と五代・北宋の関係を中心に-」(仮)
廣瀬憲雄「倭国・日本史と東アジア-6~13世紀における政治的連関再考-」

2010年2月22日月曜日

今日は猫の日

2月22日は、ニャーニャーニャーということで、猫の日だそうです。
しかも、今年は平成22年ということで、
世間では大いに盛り上がってる……、はずもないですね。



そうなの?という表情の猫たち。




ま、関係ないやって感じの猫たち。
猫にとっては、毎日が猫の日ですからね。

2010年2月21日日曜日

読書雑記

上原淳道『読書雑記』(上原勝子、2001年11月)


数ヶ月前、古本屋にて偶然購入。
『読書雑記』は、東大教授・関東学院大教授を歴任した
上原淳道(1921~1999)氏が、1963年から1999年まで
36年間発行し続けた個人誌。
本書は上原氏の没後、夫人がまとめて出版したもの。
とはいえ、主に関係者(『読書雑記』の読者?)に配布され、
殆ど流通しなかったらしい。
ちなみに、NACSISで調べたら、大学図書館では13か所しか所蔵していない。

『読書雑記』は個人誌といっても、出版物ではない。
『読書雑記』自体の説明は、著者自身の言葉を引用した方が、
わかりやすいと思うので、以下に『読書雑記』あとがきより抜粋します。

――――――――――――――――――――――――――――――――――

「不定期刊」のつもりだが、最初の1年間は平均して月に3回、
最近はほぼ月に1回である。体裁は、わら半紙1枚、謄写版(ガリ版)ずり、
横書き。左半分に標題1行と本文20行、右半分に本文21行。
本文1行は30字だから、1号分の本文は1230字(400字づめ3枚強)となる。
毎号、数項目から成るが、どの項も原則としてピタリと行の終りで終るように
(つまり、30字の倍数になるように)字数を工夫している。

 発行部数は、誰にも言わない。個々の配布さきも、その人が死亡しな
いかぎり(つまり、生きている間は)、原則として明らかにしない。
配布の方法は原則として郵送。私が送ろうと思う人に一方的に送るだけである。
たまに「購読」を申し込む人があるが、売りものではないのだから、
購読はできない。

 原稿書き、原紙切りから、あて名書き、切手貼りまで、すべて独力で
やる個人通信を12年以上も続けているのは、大げさに言えば、私なりの
闘争であるが、闘争というよりは宗教的な「苦行」に似ている。
世の中にはいろいろな団体があり、出版物があるけれども、
どの団体もどの出版物も取上げようとしない問題で、
しかも私にとってはきわめて重要であるような問題も存在するのである。
私の『読書雑記』をミニコミと言う人もあるが、
私としては、ミニコミではなく、さりとてむろんマスコミではなく、
「ナグリコミ」と思っている。
(雑誌「文藝春秋」昭和51年7月号・巻頭随想「個人通信十四年」より抜粋)

――――――――――――――――――――――――――――――――――

最終的に『読書雑記』は441号まで発行され、
上原氏の死去によって幕を閉じた。

はやすぎたブログといった感じだろうか。
でも、郵送先は上原氏自身が決めているし、
見たいといっても、送ってもらえるものでもないらしいから、
やっぱりブログとはかなり違う。


一気に読みたかったけど、あえて数か月かけて、
441号(882頁)をゆっくり読んできた。
内容は、読書の感想、時事問題への意見・感想・批判、
追悼文、思い出、『読書雑記』読者からの手紙の紹介などなど。
学生運動、公害問題、文革、天安門事件、ソ連崩壊……
1960年代から90年代の時代の雰囲気が垣間見える。

特に「東洋史」学界に対して厳しい姿勢を貫いていて、
東大・京大の「東洋史」主流派は、のきなみ批判されている。
しかも、その姿勢が36年間ぶれていない。
現代史の生の資料をのぞき見した面白さに近い感じ。
「面白い」とかいったら、当事者やその弟子筋に
叱られそうな気もするけど、事実だから仕方がない。
ただし、ぼかしてる部分や当事者以外わからないことも多い。
注釈書があればいいのになぁ。だれか作ってくれないだろうか。

東大出身にも関わらず、東大「東洋史」の体制に批判的だった上原氏が、
『読書雑記』を出したきっかけは、
1962年に発生した東洋文庫のアジア・フォード財団資金受け入れ問題らしい。
A・F財団の資金受け入れは、文化面での日米安保体制の強化政策であり、
反中国・反共政策に、東洋文庫ひいては日本の東洋史学が組み込まれる危険が
ある、と認識されて、当時かなり大きな反対運動がおこったようだ。
結局、上原氏は「学界主流」からはずれていき、
今ではあまり触れられることもなくなっている。


それにしても上原氏の文章は熱い。
研究・教育をしっかりこなしつつ、平和運動・労働運動・国際問題など、
1960年代から1990年代までの社会運動に、
これだけ関心を寄せ続けた中国史の研究者は、おそらくほかにいないだろう。
しかも、単なる活動家には堕してないし。
これだけの熱気を持った研究者は、
もはや存在しないし、今後生まれることもないと思う。
僕自身も、こういう研究者になりたいわけではない。

ま、上原氏の姿勢が「正しかった」のかどうかは、よくわかりませんが。
批判された東大・京大の主流派やその弟子筋から見れば、
迷惑なドン・キホーテという認識だろうし、
上原氏を応援していた人なら、称賛するだろうし。
こういう研究者がいた、ってことが重要なのだと思います。

ところで、当時、『読書雑記』や上原氏の熱心なファンだった人々は、
いま、一体、どうしているのだろうか。
ちょっと気になります。

歴史学者と国土意識

吉開将人「歴史学者と国土意識」(『シリーズ20世紀中国史2 近代性の構造』東京大学出版会、2009年8月)

ブックオフで偶然見かけて購入。
「中国の歴史学者たちがどのように歴史地図の編纂を志し,
いかなる国土意識を形作ったのかという点について」論じたもの。
1930年代の歴史地図編纂の試みから、
1982年に『中国歴史地図集』が完成するに至る過程を、
国内的要因(学術史的背景)と国際環境(日本の侵略)から分析。
「おわりに」では、現在の「高句麗史」帰属問題にも言及している。

普段何気なく使っている『中国歴史地図集』に
半世紀に及ぶ政治的背景が存在したとは。
歴史地図と政治が密接に関係していることを改めて実感しました。

2010年2月18日木曜日

戦国秦漢時代における塩鉄政策と国家的専制支配

柿沼陽平「戦国秦漢時代における塩鉄政策と国家的専制支配」(『史学雑誌』119-1、2010年1月)

これまで戦国秦漢時代の貨幣(銭・黄金・布帛)経済の展開について
研究を進めてきた柿沼氏が、民衆の必需品である塩・鉄に注目し、
戦国秦漢から武帝の専売制確立までの塩鉄政策の流れを分析。
研究蓄積の分厚い当該分野で、新知見を提出している。
すごい。

2010年2月16日火曜日

内陸アジア古文献研究会例会

内陸アジア出土古文献研究会2月例会
日時:2010年2月20日(土)14時30分~16時30分
会場:明治大学文学部共同演習室
宇都宮美生「隋唐洛陽城の大型穀倉と漕運―洛口倉・回洛倉・子羅倉および含嘉倉―」

2010年2月15日月曜日

『中国古代の専制国家と民間社会』

鷲尾祐子『中国古代の専制国家と民間社会―家族・風俗・公私』(立命館東洋史学会、2009年10月)

立命館東洋史学会叢書九。372頁もあって、わずか1500円。
まだ、序「専制国家と民間社会―諸説をふりかえって」を読んだだけだが、
ものすごく読み応えがありそう。
専制国家と民間社会、その接点にあたる家・戸を中心に分析している模様。
大きな問題に正面から取り組んでいる感じがします。

高村武幸氏の『漢代の地方官吏と地域社会』(汲古書院、2008年1月)の
総序のように、漢代のごく普通の人々の日常を明らかにすることを優先し、
あえて「理論的・総体的言及を意図的に避ける」と明言する姿勢もいいし、
鷲尾氏のように積極的に挑戦するのもいいと思う。

自分はというと、大して考えてもないのに、形だけまねてしまって、
どっちつかずの中途半端な代物になってしまいそうな気がします……。

後頭部


猫の後頭部。
なんかちょっとあほっぽいのがいい感じ。

2010年2月11日木曜日

泉太郎個展


ちょっと前のことになりますが、
泉太郎の個展「くじらのはらわた袋に隠れろ、ネズミ」に行ってきました。
横浜の「日常/場違い」展で、泉太郎の作品が気になったので、
調べてみたら、ちょうど個展が開催されていることが判明。
ついつい見に行ってしまいました。


場所は浅草。アサヒアートスクエア4階・5階。
会場に入った途端、おもちゃ箱をひっくりかえしたような風景が広がっている。


何だろうと思ってみてみると……、すごろく?


大画面の映像を見てみると、
どうやら、マス目に書かれたことを実際にやるというすごろくらしい。
フトルに止まれば、腹に布を詰め込んで太る。


双六の中身をくまなくチェックしたり、大画面の映像を見たり、
その他のちょっとした映像作品(巻尺を褒める・けなす作品など)を
見たりしているうちに、ちょっと不気味なうさぎが登場し、
実際にすごろくがはじまった。


イロに止まれば、イロを塗り、
ヌルヌルに止まれば、スライムを塗り、
ドロに止まれば、ドロを塗る。


テープを巻いたり、泣いたり、耳を切ってパスしたり、
檻に入ってライオンのまねしたり。
最終的には、こんな感じ。もう、何が何だか。



面白いといえば、相当面白かったのだけど、
なんだかざわざわする感じ。
画面でみると、かなりユーモラスなのに、
実際見ると、生々しくて、ちょっとグロテスクな感じがしてしまった。
たまたま、止まったマスがわるかったのかも。
でも、その生々しさ・不気味さも含めて、アートなんだろうなぁ。
今度、どこかの展示で、スゴロクやってる映像をみてみたいです。

楊福東「将軍的微笑」


原美術館で開催されているヤン・フードン(楊福東)の
個展「将軍的微笑」に行ってきました。

ヤン・フードンは、中国の映像アートの中で高評価を受けている人物。
2005年の「フォロー・ミー!新しい世紀の中国現代美術」(森美術館)や、
2008年の「アヴァンギャルド・チャイナ」(国立新美術館)にも出展していた。
でも、個人的には、これまであまりピンとこなかった。
今回、個展が開かれるということで、再チャレンジしてみることに。


展示作品は全部で6点。全て映像作品で、最短は7分ほど、最長は53分。
「将軍的微笑」は、長机がそのまま画面になっていて、
パーティーの食事風景が映し出されている。
その周りには、たくさんの若い女性の姿や、老人(将軍)の独白、
ピアノをひく老人などが、ところせましと映し出されている。
部屋に入った瞬間のインパクトがかっこいい。老人の奏でるピアノとも合ってるし。

「青麒麟」は、真っ白の部屋の中に、10画面程の石の採掘場の風景と、
5画面のまるで英雄の肖像画のように微動だにしない直立不動の労働者が、
映しだされている。これまた部屋に入った瞬間のインパクトがすごい。

魏晋時代の竹林の七賢にインスピレーションを得て作られた
「竹林の七賢人 パート3」(53分)は、1930年代風の服装の若者7人が、
山村の棚田で寝起きし、農作を行ったり、牛の世話をしたり、
恋愛っぽいことしたりするアンニュイでシュールな雰囲気の映像。
ストーリはあるようなないような(多分、大まかにはあるのだろうけど)。


映像を大体全部みたので、かなり見応えあった。合計2時間以上滞在してたし。
確かにかっこいいし、映像も綺麗だし、評価が高いのもうなづける。
でも、やっぱり、面白いとは思えなかった。う~ん、残念。
多分、楊福東の問題でも、原美術館の展示の問題でもなく、
僕個人の好みの問題なのだと思う。

暗喩や象徴が込められていると思うのだけど、
それを読み解くコードがよくわからないもどかしさ。
無声・白黒といった音色の情報量の少なさと、
時間軸の入れ替えや似た映像の繰り返し。
手法としては有りだと思うけど、ちょっとついていけなかった。
単純に映像美を楽しめばいいのだろうけど、
それにしては思わせぶりすぎる。

映像作品は、もっとシンプルでユーモラスなのがいいなぁ。

ただ、これはあくまで個人的感想であって、
多分、ものすごくいいと感じる人も多いはず。
実際、かっこいいとは思ったし。


2010年3月28日(日)まで原美術館で開催中。
開館時間:11時~17時(水曜のみ20時まで)
休館日:月曜日・3月23日

2010年2月8日月曜日

遼に関する講演会

山形大学で遼に関する講演会が開かれます。
日時:2010年2月15日(月)14:40~16:10
会場:山形大学人文学部101教室(1号館)

董新林「遼代の祖陵(耶律阿保機陵)および上京城址の発見と研究」
通訳:佐川正敏

2010年2月6日土曜日

知識は東アジアの海を渡った

学習院大学東洋文化研究所編『知識は東アジアの海を渡った―学習院大学コレクションの世界―』(丸善プラネット株式会社、2010年1月)

丸善丸の内本店ギャラリーで開催されていた
展覧会「知識は東アジアの海を渡った」に行こうと思っていたのに、
ふと気づいたらもう終わってました。残念。
図録が新刊書店に出てたので、せっかくだから買いました。
全編フルカラーで、85点の漢籍・資料の解題とコラム、
学習院大学内の文庫や在籍していた東洋学関係者の紹介などが載っている。
さすが学習院。華族からの寄贈がすごい。

2010年2月5日金曜日

史林の書評

丸橋充拓「David A.Graff Medieval Chinese Warfare,300-900」(『史林』93-1、2010年1月)

2002年出版のデイビット・A・グラフ著『中世中国の戦争300~900』の書評。
この本は日本・中国で研究があまり多くない南北朝隋唐期の軍事史の研究書。
政治過程や制度的背景については、新知見はあまりないようだが、
戦争の経緯や軍事的諸要素の分析に興味深い点が多いようだ。
書評を読む限り、かなり面白そう。ぜひ日本語訳がでてほしいなぁ。

『金瓶梅』第三十九回の構成

田中智行「『金瓶梅』第三十九回の構成」(『東方学』119、2010年1月)

『金瓶梅』は読んだことないので、さっと見るだけにしようかと思ったら、
面白くてしっかり読んでしまいました。
『金瓶梅』では九のつく回に重要事件が起きる、という先行研究の指摘を踏まえ、
一見、大した事件が起きたようには見えない第三十九回の内容を検討し、
どのような意味が隠されているのか明らかにしている。
『西遊記』にしろ、『紅楼夢』にしろ、明清の長編小説には、
緻密な計算が施されているものが多くて、その謎解きも面白い。
この論文の影響で、日下翠『金瓶梅―天下第一の奇書―』(中公新書、1996年7月)をついつい古本屋で買ってしまいました。

2010年2月3日水曜日

歴代名画記

宇佐美文理『歴代名画記―〈気〉の芸術論―』(岩波書店、2010年1月)

岩波書店の「書物誕生 あたらしい古典入門」シリーズの一つ。
このシリーズに『歴代名画記』が入っていること自体が面白い。
唐代までの絵画史(実態は画家史)の集大成であり、
北宋以降の画論と異なっている(一部先取りしているが)ことを指摘。

気分

一月下旬は、私生活でも研究でもないことのせいで、こんな気分でしたが、

今はちょっとのんびりしてます。

倭寇とはだれか

村井章介「倭寇とはだれか―十四~十五世紀の朝鮮半島を中心に―」(『東方学』119、2010年1月)

「倭寇は日本人か朝鮮人か」という議論の不毛さを指摘し、
「倭寇」は「境界人」であるという自説を再確認。
村井氏の説は、ずいぶん前から展開されている。
ただ、今回の論文では、韓国・中国における日本の倭寇研究(特に村井説)に
対する批判が引用されていて、とても興味深い。
今、話題になっている「日中歴史共同研究」での中国側コメントも
一部載っている。
韓国側・中国側の「公式見解」(個人見解があるのかどうかはわからないけど)も、
ある程度理解できるし、それに対する村井氏のコメントもわかる。
現在と「国家」概念の異なる前近代史研究の難しさを実感した。

2010年2月1日月曜日

澶淵の盟と曹操祭祀

田中靖彦「澶淵の盟と曹操祭祀―真宗朝における「正統」の萌芽―」(『東方学』119、2010年1月)

真宗朝において、曹魏が「正統」視された背景を検討。
北宋が澶淵の盟の衝撃を受けて、複数の皇帝が並び立った三国時代に対する
評価を重視した結果、曹魏正統論を採用したとする。
また、こうした曹魏正統論が、「禅譲と封禅の終焉という大きな変革とともに、真宗朝を最後に歴史の表舞台から消えてゆく」ことを指摘。