2012年2月29日水曜日

地図集

董啓章著、藤井省三・中島京子訳『地図集』(河出書房新社、2012年2月)

帯に「〈香港のボルヘス〉による想像の都市の物語」、「カルヴィーノの『見えない都市』みたい。中国語で書くカルヴィーノ、あるいはボルヘス?……中島京子(小説家)」と書いてあったので、いやいやそれは言い過ぎでしょ、って思いながらもついつい購入。

一読して、結構はまってしまった。確かに表題作はボルヘスやカルヴィーノを連想させる。少なくとも意識しているのは間違いない。ほかにもミロラド・パヴィッチ『ハザール事典』と手法は似ているような気がする。

香港の歴史と地理を踏まえ、
未来の地図研究者が紡ぎだす
虚実ないまぜの学術的(地図学?)叙述によって、
いつのまにか、幻想的な「もう一つの香港」に導かれている。

収録作品は、以下の通り。
「少年神農」
「永盛街興亡史」
「地図集」:理論篇・都市篇・街路篇・記号篇
「与作」

曹魏洛陽の宮城をめぐる近年の議論

向井佑介「曹魏洛陽の宮城をめぐる近年の議論」(『史林』95-1、2012年1月)

曹魏洛陽宮城の構造を扱った主要研究を整理し、
文献史料と考古学の調査成果をもとに、
それぞれの復元案の妥当性と問題点を検証したもの。

近年、曹魏洛陽城については、
①曹魏の南北宮≒後漢の南北宮
②曹魏の南北宮≒後漢の北宮
の二説あるが、向井氏は②説が妥当であるとする。

2012年2月22日水曜日

国際シンポジウム

国際シンポジウム:新発見百済人「祢氏墓誌」と7世紀東アジアと「日本」
日時:2月25日(土) 10時~17時
会場:明治大学駿河台キャンパス リバティタワー1階1011教室

プログラム
氣賀澤保規「百済人祢氏墓誌の全容とその意義・課題」
張全民(通訳:江川式部)「唐祢氏家族墓の考古発見と祢氏一族の初歩的考察」
12:15-13:00 休憩
王連龍(通訳:梶山智史)「 「祢軍墓誌」と百済そして「日本」」
田中俊明「百済・朝鮮史における祢氏の位置」
金子修一「唐朝治下の百済人の動向と新発見墓誌」
15:15-15:30 休憩
小林敏男「白村江以後の「日本」国号問題―「祢軍墓誌」の発見に寄せて」
集約と質疑応答  コメンテーター:榎本淳一、吉村武彦

中国出土資料学会平成23年度大会

中国出土資料学会平成23年度大会(第3回例会)
日時:2012年3月10日(土)13時~17時
場所:東京大学文学部法文1号館113番教室
参加費(資料代):500円

報告
柿沼陽平「孫呉貨幣経済の構造と特質」
下田誠「武霊王から恵文王へ―青銅兵器銘文からみた戦国趙の機構的改革の実践―」
谷中信一「『老子』経典化プロセス素描―郭店『老子』から北大簡『老子』まで―」

2012年2月14日火曜日

漢字の魔力

佐々木睦『漢字の魔力―漢字の国のアリス』(講談社選書メチエ、2012年2月)

アリス、いや愛麗絲を狂言回しとして、
摩訶不思議な漢字の世界を探検。
福をさかさまにした倒福・招財進宝の合体文字からはじまり、
名前の秘密、漢字占い、外国企業や地名の漢字表記、
惜字運動、漢字遊戯(図形遊戯詩)などなど、
漢字の妖しい魅力にどっぷり浸れる。

192頁の図61には、漢字に擬態する英字を取り上げているが、
これは明らかに現代アーティストの徐冰の作品(新英文書法)。
徐冰も取り上げてくれるかと思いきや、出てこなかった。残念。
新英文書法のほかにも、天書とかいろんな文字作品があるのだけどなぁ。

でも、215~216頁で、香港の「九龍皇帝」曾灶財を
取り上げていてビックリ。九龍皇帝はある日突然、
香港は先祖に賦与された土地なので、
すべて私のものだ!と考え、あらゆる場所に
「皇帝家」の系譜と支配地名を筆書してまわり、
そしていつしか現代アートとして認知された人物。
上の写真は、家にあったオークションカタログの一部。
『漢字の魔力』は、彼について、香港を「漢字帝国として捉えた際に、まぎれもない象徴であり、皇帝にふさわしかったと言えよう」と評価している。納得。

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追記:2012年2月14日21時10分
2011年4月20日~5月31日に、
香港で「九龍皇帝的文字楽園」という展覧会が
開かれていたそうです。知らなかった……。
300点を超える作品とともに皇帝の生涯をたどったようです。
http://www.designerhk.com/date/5574

2012年2月12日日曜日

茶会への招待

先日、三井記念美術館で開催中の
「茶会への招待―三井家の茶道具」
に行ってきました。

一月に引き続き、茶器関連の展覧会に
いってきたわけですが、別に茶器にはまったわけではありません。
今回のお目当ては、併設されている
「初公開―新町三井家の新寄贈品から」。
なんと金沢文庫本『白氏文集』巻23・巻38が
展示されているのです。

この両巻は、戦前に存在が確認されていたが、
戦後、所在不明になっていたもの。
今回、三井家より寄贈されたことによって、
世にでてきたというわけです。

ということで、『白氏文集』目当てでいってきました。
とはいえ、行ってみたら、やっぱり茶器も面白い。
展示室一の「茶の湯の名品」、展示室四の「茶事の取合せ」、
展示室五の「名碗抄」と、見応えたっぷり。
さすが三井家所蔵品。見た目も由来も楽しめるものばかり。

で、最後の展示室七にお目当ての『白氏文集』が。
展示ケースいっぱいつかって、なが~く展示している。
巻23は親族宛の手紙や祭文、巻38は官僚の任命書など。
博士家のヲコト点や校訂、反切・注釈などなど、
歴史を超えてきた知の重みを感じる。

白氏文集は旧抄本研究の蓄積が分厚いし、今後の研究が楽しみ。
白居易の長恨歌などの文学作品には、
旧抄本と刊本とで、文字の異同(意図的な改変もある)が、
結構あることが知られているが、
手紙や祭文、公的文書ではどうなのだろうか。

そして、もう一つ気になるのが、
今回三井記念美術館に何が寄贈されたのかということ。
展示パネルには、古典籍類とある。
もしかしたら、白氏文集以外にも旧抄本が
寄贈されているかも……。
今後の展開が気になります。


会期:2012年2月8日(水)~4月8日(日)
休館日:月曜日・2月26日(日)
開館時間:10時~17時
入館料:一般1000円、学生500円

2012年2月8日水曜日

日本における唐代官僚制研究

小島浩之「日本における唐代官僚制研究―官制構造と昇進システム(System)を中心として」(『中国史研究』20、2010年10月)

日本における唐代官僚制研究を
官制構造と官僚の昇進システムを中心にまとめたもの。
六典官制・貴族制との関わり(人的構成)・
職事官と散官・昇進システムについて
研究状況と課題を述べていて、とても参考になる。
また、引用文献リストを見ると、21世紀以降、
唐代官僚制研究が減少している様子がうかがえる。

『中国史研究』は、編集後記が毎号徐々に長くなっていて、
20号では16頁にも及んでいる。こちらも読みごたえある。

2012年2月4日土曜日

東方学123

『東方学』123(東方学会、2012年1月)

目次は以下の通り。
[論文]
三浦國雄「 『朱子語類』の読まれ方―新発田藩の一儒者の書き入れをめぐって」
新見まどか「唐代後半期における「華北東部藩鎮連合体」 」
山崎藍「死者を悼んで旋回する―元禛「夢井」における「遶井」の意味」
伊藤一馬「南宋成立期の中央政府と陝西地域―「宋西北辺境軍政文書」所見の赦書をめぐって」
伴俊典「江戸期における『水滸伝』全訳の成立」
蕭涵珍「笠亭仙果の『七つ組入子枕』にみる李漁の『十二楼』―「合影楼」を中心として」
福嶋亮太「進化の形成物としての白話―胡適の言語観およびコミュニケーション観の再検討」
青野道彦「僧残罪を犯した比丘尼の謹慎処分―パーリ律註釈文献を中心に」

[内外学会消息]
高田時雄「ロシア科学アカデミー東洋写本研究所と『東洋の文献遺産』誌など」
金子修一「中国留学と二つの学会」

[座談会]
「学問の思い出―池田温先生を囲んで」
〔出席〕 池田温、任大煕、大津透、金子修一、窪添慶文、小口彦太、坂上康俊、土肥義和

[追悼文]
小野山 節「有光教一先生の御功績と学恩を顧みて」
土田健次郎「楠山春樹先生を偲ぶ」


三浦論文では、「辺縁に生きた一儒者」のなまの思考の断片に触れられる。三浦氏が提唱する「書き入れ学」も大変面白そう。
山崎論文では、死者を悼んで墓・棺の周囲を廻る習俗に言及している。盆などのお墓参りの際に墓をぐるぐるまわるという友人の故郷の習俗を思い出した。
座談会も読みごたえあり。

2012年2月2日木曜日

遼金西夏史研究会第12回大会

遼金西夏史研究会第12回大会
日程:2012年3月24日(土)・25日(日)
場所:学習院大学中央研究棟 402教室

プログラム
2012年3月24日(土曜)
13時20分~14時30分 中田美絵「8世紀後半におけるユーラシア情勢と長安仏教界」
14時40分~17時10分
【ミニシンポジウム】「遼・金・西夏研究の現状と展望」
報告者:飯山知保・佐藤貴保・高井康典行

3月25日(日曜)
9時30分~10時40分 毛利英介「宋は兄で遼は弟なのか ―遼・宋擬制親族関係について―」
10時50分~12時00分 吉野正史「「耶律・蕭」と「移剌・石抹」の間 ―『金史・本紀』における契丹・奚人の姓の記述に関する考察―」
13時30分~14時40分 大西啓司「西夏に於けるシャーマンの活動 ―『天盛旧改新定禁令』を中心に―」
14時50分~15時25分 荒川慎太郎「ロシア東洋文献研究所所蔵西夏語文献 Tang. 46, inv. No. 156 再考(仮題)」