2010年5月31日月曜日

史学概論

遅塚忠躬『史学概論』(東京大学出版会、2010年5月)

歴史学者が書くこんな史学概論を待っていた。
史学概論といっても、史学史や研究法などではなく、
歴史学とは何か、という問題を正面から扱っている。

目次は以下の通り。
はしがき
序論:史学概論の目的
第1章:歴史学の目的
第2章:歴史学の対象とその認識
第3章:歴史学の境界
第4章:歴史認識の基本的性格

問題は多岐にわたっていますが、カギとなるのは、事実と真実。
歴史学は、事実には迫りうるが、真実は扱えないとする。

もちろん、言語論的転回論を踏まえ、素朴実在論は否定している。
しかし、その一方で歴史「物語り」論も否定している。

著者は、基本的に事実実在論の立場を取るが、
部分的または全面的に「揺らぐ」事実(主に事件史・文化史など)が
存在することを指摘し、「柔らかな実在論」を提唱している。

不勉強なだけかもしれませんが、
歴史学者が言語論的転回論や「物語り」論に
ここまで正面からまとめて応答したことは、
これまであまり無かったような気がします。
僕個人としては、納得の内容(影響されやすいだけかも)。
ま、先鋭的な研究者なら、頑固な見解とみなすでしょうし、
逆に「柔らかな実在論」に納得いかない人もいるでしょうね。
今後の議論が楽しみです。

2010年5月27日木曜日

東アジア世界史研究センター公開講座

平成22年度東アジア世界史研究センター公開講座
全体テーマ:遣唐使外交の終焉と東アジア・日本
日時:2010年7月10日(土)13:00~17:00
会場:専修大学生田校舎10号館10203教室   

講演
13:00~13:20 荒木敏夫「趣旨説明」
13:20~14:20 皆川雅樹「モノから見た遣唐使以後の東アジアの交流」(仮題)
14:30~15:30 佐藤宗諄「大陸文化の「日本化」と国際交流~白詩と道真~」
15:50~17:00 討論 

募集人員:250名(聴講無料・申込者多数の場合は抽選)
参加希望者の方は、東アジア世界史研究センターのHPで、
申込方法などをご覧になってください。
  

2010年5月23日日曜日

周恩来秘録

高文謙著、上村幸治訳『周恩来秘録―党機密文書は語る―』上・下(文春文庫、2010年5月)

2007年3月に刊行された同著の文庫化。
著者自身はもともと中国共産党中央文献研究室に勤務して、
周恩来生涯研究小組組長をつとめたが、天安門事件後に渡米した人物。
ただ、この本はあくまでノンフィクション。

「「大宰相」周恩来のイメージを覆す衝撃の書」というけど、
まぁ、どちらかといえば、予想通りの内容。
生き残るために、心ならずも文革に加担し、
戦友たちを切り捨てる側に回ってしまった悲劇と責任。
文革と行政のすりあわせに神経をつかう日々などなど。

ただ、予想以上だったのが、周恩来に対する毛沢東の嫉妬・猜疑心。
ここまでやるかぁ、といった感じ。しかし、もっとすごいのが、
様々な罠や闘争をギリギリでなんとか回避して、生き残った周恩来。
この才能を行政・外交の場で思いっきり活用できたらよかったのに。
到底まねできないけど、ある種の教科書として読むことも不可能ではない。

日本中世史の新書・選書

ここ数日、日本中世史に関する新書・選書を立て続けに読みました。

伊藤正敏『無縁所の中世』(ちくま新書、2010年5月)
本郷和人『選書日本中世史1 武力による政治の誕生』(講談社選書メチエ、2010年5月)

かたや寺社勢力、かたや武家勢力。
中世のはじまりも、かたや1070年(比叡山が諸役不入権を獲得)、
かたや12世紀末の鎌倉幕府の成立。
おそらく両者とも、いわゆる「主流」からは、ちょっと(?)はずれてるのだろうけど、
これだけ中世観が違うと、困惑するより面白くなってくる。
これから日本中世史は、ますます熱くなってくるのかもしれないなぁ、
そんなことを感じました。

2010年5月20日木曜日

ハングルの誕生

野間秀樹『ハングルの誕生―音から文字を創る』(平凡社新書、2010年5月)

全9章(序章・1~8章・終章)構成で、
前4章がハングル前史・ハングルの構造、
後4章がハングル(正音)の誕生から現在までの歴史を扱っている。
「はじめに」で、言語・文字自体について考えることを避けたい人は、
序章・第1章から第4章に飛んでも構わない、
と述べているが、その読み方はものすごくもったいない。

第2章で、漢字の構造、訓読の構造などを語った後、
第3章で、20世紀言語学を先取りしているハングル(正音)の仕組みについて、
詳細に論じ、「〈正音〉は音韻論、音節構造論、形態音韻論の三層構造である」
と述べている。この第3章こそが本書の核で、一番熱入っていて面白い。
言語学の知識がないため、ついていけないかな、と最初は思ったのですが、
全くそんなことはなく、十分楽しめました。

第4章のハングル(正音)の誕生は、ちょっとあっさりしているけど、
第5章では、ハングル(正音)は近代以前あまり使われていなかった、
というイメージを見事に打ち破ってくれます。

新書としては、368頁(本文319頁・索引・年表などが48頁)と
ちょっと大部ですが、読みごたえあります。

第14回六朝学術学会大会

第14回六朝学術学会大会
日時:2010年6月13日(日)12時40分~17時40分
会場:斯文会館講堂(湯島聖堂内)
大会参加費:1,000円、写真代:1,000円(希望者のみ)
懇親会費:6,000円(希望者のみ)

研究発表 12:50~15:45(各発表20分、質疑10分)
三田辰彦「東晋の「皇太妃」号議論とその展開」
北島大悟「沈約の隠逸観と文学」
佐野誠子「初唐期九月九日詩における陶淵明の影響」 
小林聡「唐朝六大服飾体系の成立過程─六朝隋唐における礼制の変容と他文化受容─」
福山泰男「徐淑小考―文学テクスト上の性差をめぐって─」

記念講演 16:00~17:00
堀池信夫「<可道>と<常道>-『老子』第一章の読みをめぐって」

第26回学習院大学史学会大会

第26回学習院大学史学会大会
日程:2010年6月12日(土) 
会場:学習院大学百周年記念会館

研究発表  *中国史関係のみあげます
第一会場:3階第1会議室           
14:10~15:10 矢沢忠之「前漢における保塞蛮夷と辺境防衛」
第二会場:3階第3会議室
13:00~14:00 村松弘一「碑林から博物館へ―近代西安における文物保護事業の展開」

講演:小講堂 
15:30~16:30 鐘江宏之「 「日本の7世紀史」再考―遣隋使から大宝律令まで―」
16:45~17:45 石見清裕 「唐の貢献制と国信物―遣唐使への回賜品―」

2010年5月16日日曜日

龍谷大学大宮図書館2010年春季特別展観

龍谷大学大宮図書館2010年春季特別展観
「大谷探検隊展-将来品と個人コレクション-」 
展示期間:2010年5月20日(木)~27日(木)
場所:龍谷大学大宮キャンパス(本館1階展観室)
開館時間:10時00分~17時00分(入館は16時30分まで)
休館日:無休
主催:龍谷大学大宮図書館

大谷探検隊将来品63点を展示。
吉川小一郎氏がトルファンのカラコージャ古墳群で発掘した
「伏羲・女媧図」が展示の目玉のようです。
他にも「ダライ・ラマ関連書類(青木文教コレクション)」や、
「光瑞上人御原稿」、「吉川小一郎氏筆西域壁画(鉛筆素描模写)」などを
初公開するそうです。

2010年5月14日金曜日

なぜだか猫に逃げられます

称猫庵を名乗っている割に、
最近バタバタしていて、猫写真が撮れません。

しかも、なぜだかすぐに逃げられます。
どうも動きが猫を不安にさせてしまうようです。
もっとのんびり動かないとなぁ。

というわけで、ちょっと前の写真です。
完全に不審者扱いされてます。

書道博物館「墓誌銘にみる楷書の美」

書道博物館企画展 中村不折コレクション 「 墓誌銘にみる楷書の美 」
期間:2010年5月18日(火)~7月11日
場所:台東区書道博物館

展示内容
南北朝隋唐時代の墓誌拓本&日本最古の墓誌「船氏王後墓誌」の計34点展示。
常設展では原石11基も展示している。
中村不折コレクションなので新出墓誌はないものの、
いずれも旧拓なので、見応えはあるはず。

2010年5月12日水曜日

訓点語学会研究発表会

第102回 訓点語学会研究発表会
日時:5月23日(日)
場所:京都大学文学部第3講義室

報告 午後1時30分~
石山裕慈「日本漢音における「韻書上声非全濁字の去声加点例」について」     
蔦清行「両足院所蔵の黄山谷の抄物二種」
青木毅「『水鏡』における漢文訓読語と和文語との混在について―〈漢文翻訳文〉における用語選択の問題として―」

午後3時30分~
廣坂直子「国際仏教学大学院大学蔵『摩訶止観 巻第一』の朱白の訓点について」  
小助川貞次「漢文訓読資料における句読点について」                
石塚晴通"Descriptive Catalogue of the Chinese Manuscripts with Reading Marks & Notes from Dunhuang" (『敦煌点本書目』)の英文術語                  

阪大史学の挑戦2

大阪大学歴史教育研究会大会「阪大史学の挑戦2」プログラム
日時:2010年8月9日(月)~11日(水)
会場:大阪大学中之島センター10F 佐治敬三メモリアルホール

8月9日(月)
第1部 近世世界におけるヨーロッパとアジア―ウォーラーステインを超えて
14:00 秋田 茂「グローバル・ヒストリー研究におけるヨーロッパ中心史観・パラダイム克服の試み―アジア・大阪からの視点」
15:30 休憩
15:45 玉木俊明「近代ヨーロッパの誕生—オランダからイギリスへ」
16:45 島田竜登「近世アジアとオランダ東インド会社」
17:45 中村武司(大阪大学文学研究科助教)ほか「高校世界史授業で使えるグローバル・ヒストリー関連用語」

8月10日(火)
第2部 中央ユーラシア史の枠組みの理解に向けて—スキタイ・匈奴からムガル・清帝国までの国家の基本構造とシルクロードの展開
9:00 森安孝夫「シルクロード成立後の北の遊牧国家、南の拓跋王朝、まとめた中央ユーラシア型国家」
10:40 堤一昭「モンゴル帝国の基本構造—チンギス・カンからクビライ・カアンへ」
11:20 杉山清彦(駒澤大学文学部准教授)「中央ユーラシアの「近世」—ポスト=モンゴル時代から“帝国 の時代”へ」
13:15 松井太「内陸アジア出土資料からみたモンゴル時代のユーラシア交流」
13:55 高橋文治「漢語文献が語るモンゴル支配」
14:50 入野恵理子「北魏のバイリンガル性—史料に見える「鮮卑語」」
15:10 齊藤茂雄・旗手瞳「突厥碑文と唐蕃会盟碑の歴史的重要性」
15:40 赤木崇敏「壁画と古文書から見た敦煌オアシス社会の実態」
16:45 森安孝夫「ソグドからウイグルへ——シルクロード東部の手紙文書」
17:20 堀 直「トルキスタンのイスラム化の過程」
17:50 向 正樹・矢部正明・後藤誠司・伊藤一馬「中央ユーラシア史関係用語リストの提示

8月11日(水) 
第3部 地域史からみる世界史、世界史からみる地域史
9:10 中村和之「アイヌ史と北東アジア史」
9:30 吉嶺茂樹「宗谷場所から世界史を考える」
9:55 吉満庄司「世界史の中の明治維新——幕末薩摩藩の対外政策を中心に」
10:20 笹川裕史「綿業にみる日本とイギリスの工業化 ——大阪になれなかったマン チェスター」
10:45 福本淳「機械文明とキリスト教の世界席巻の終点としての神奈川県」
11:30 討論 コーディネーター 後藤敦史
13:30 総合討論

歴史教育者(特に高校教師)を対象に行うシンポジウム。
個人的には第二部が気になる。
申し込みは、大阪大学歴史教育研究会のウェブサイトにて。
締め切りは6月15日とちょっと早め。

「訓点資料の構造化記述」研究発表会

国立国語研究所共同研究プロジェクト(萌芽・発掘型)「訓点資料の構造化記述」研究発表会
日時:5月24日(月)9:00~12:00
場所:京都テルサ 第五会議室

報告
高田智和「国立国語研究所蔵『金剛頂一切如来真実攝大乗現證大教王経』について」
岡本隆明「訓点の整理と資料の共有を目的とするデジタル画像データの利用について」

2010年5月7日金曜日

立教大学日本学研究所・第39回研究会

立教大学日本学研究所 第39回研究会
日時:2010年5月21日(金)18:30~
会場:立教大学池袋キャンパス太刀川記念館第1・2会議室
報告内容
水口幹記「日本呪符の系譜―天地瑞祥志・まじない書・道蔵―」

2010年5月3日月曜日

星新一展


世田谷文学館で開催中の「星新一展」に行ってきました。

まぁ、実のところ、そんなに星新一作品を読んでいるわけではないし、
特に好きというわけでもないのですが、
最相葉月『星新一―一〇〇一話をつくった人』(新潮社、2007年3月)を
読んで以来、なんとなく気になる作家なわけです。

偶然、星新一の父親の星一(星製薬の創業者)が書いた
「親切第一」という揮毫を手に入れたこともあり、
作品よりも、星家の歴史みたいなものに興味がある感じ。
母方の祖父が人類学の草分けの小金井良精で、
祖母が森鷗外の妹というのも面白い。

というわけで、せっかくのゴールデンウィーク、
どこにも行かないのもなんなので、見に行ってきました。

星新一の子ども時代の日記や絵、お気に入りのぬいぐるみに帽子、
祖父の小金井良精が集めた根付や、
酒場で著名人に書いてもらったコースター裏のサインなどなど、
星新一の素顔が垣間見える遺品・愛用品から展示はスタート。

星製薬の看板や製品、星一の制服やパスポート・揮毫など、
星家にまつわるものも展示してある。
残念ながら小金井良精の遺品はなかった。
空襲で燃えてしまったものもあるだろうけど、
日記とか論文とか展示してほしかったなぁ。


星家の展示が終わると、いよいよSF作家星新一の登場。
星製薬の社長時代の日記や小説の構想、
息抜きで参加した「日本空飛ぶ円盤研究会」の資料、
『宝石』に作品を転載してくれた江戸川乱歩の推薦文などなど。

圧巻はショートショートの下書き。
便箋の裏に、細かくて汚い字がびっしりと書いてある。
解読を試みたものの、早々に断念。到底、なんだかわかりゃしない。
原稿に清書した字は特徴あるけど結構読みやすいのだけど。

アイディアをメモ書きした紙片もおもしろい。
「オレハ宇宙人ダと思いこみ 地球セイフクをおっぱじめる」
「ゼイムショニモチサラレタ フクノカミ」などなど。
本当に断片的だし、実際に作品になったかどうかはわからないけど、
なんだか面白くなりそうな設定。

一方で、創作の苦悩を書いたエッセイや講演(CDで試聴できる)もある。
研究とは違うのだけど、通じる部分もある感じ。
アイデアは「得られるものではなく、育てるものである。
雑多な平凡な思いつきを整理し、選択し手を加えることに
精神を集中してつづければ、なにか出てくるのは確実である」(図録50頁)
という部分なんかは、特に参考になった。


と、そんなこんなで、予想以上に楽しい展覧会でした。
昨年までNHKで放映された「星新一ショートショート」も
ついつい見てしまったので、結局二時間近く滞在。
充実の一日でした。

星新一展は世田谷文学館で6月27日まで開催中。
開館時間:午前10時~午後6時。
観覧料:一般700円 学生500円

2010年5月2日日曜日

ソグド人の東方活動と東ユーラシア世界の歴史的展開

森部豊 『ソグド人の東方活動と東ユーラシア世界の歴史的展開』(関西大学出版部、2010年3月)

東ユーラシアにおけるソグド人の動向が、
安史の乱以後の中国華北の政治状況に深く関係していたことを論じ、
当該時期を「中国史」の枠組みではなく、東ユーラシア世界の枠組みで
とらえなおそうとする試み。
近年、ソグド人研究が流行しているが、研究書としてまとまった形で出るのは、
ほぼはじめて。値段も3800円と手に取りやすい。

目次は以下の通り
序論
第1章「北中国東部におけるソグド人の活動と聚落の形成」
第2章「安史の乱前の河北における北アジア・東北アジア系諸族の分布と安史軍の淵源」
第3章「7~8世紀の北アジア世界と安史の乱」
第4章「ソグド系突厥の東遷と河朔三鎮の動静」
第5章「河東における沙陀の興起とソグド系突厥」
第6章「北中国における吐谷渾とソグド系突厥-河北省定州市博物館所蔵の宋代石函の紹介と考察-」
結論
補論1「安史の乱の終息と昭義の成立」
補論2「昭義を通して見た唐朝と河朔三鎮との関係」