2010年4月5日月曜日

カフカの〈中国〉と同時代言説

川島隆『カフカの〈中国〉と同時代言説―黄禍・ユダヤ人・男性同盟』(彩流社、2010年3月)


カフカの小説や創作ノート・手紙などに登場する
「中国」・「中国人」表象は、一体何を意味しているのか。
20世紀初頭の黄禍論・シオニズム・ロシア革命といった時代背景や
カフカの婚約問題、彼が読んでいた中国関係の書籍などを
合わせて読み解くことで、彼の作品に「中国人」が登場する意味を明らかにする。

カフカの作品に中国や中国人がちょくちょく登場することは
気付いていたが、同時代の問題がこれだけ反映されていると
解釈できるとは思わなかった。
カフカがハンス・ヘルマン編訳『中国抒情詩集』なる本を
好んで読んでいたという事実自体も興味深い。

カフカ研究の多様さ、面白さ、やりにくさは、
カフカが「読む側が―たとえば「神」「人間の実存」「現代社会の不条理」
といった―自分自身の問題意識をそのまま作品内に読みこんでしまえる
文学世界を創り出した」(234頁)ことに起因しているのだろう。
ここから抜け出るのは、容易なことではないように思える。