2010年11月30日火曜日

古語の謎

白石良夫『古語の謎―書き替えられる読みと意味―』(中公新書、2010年11月)

古語の歴史ではなく、「古語認識の歴史」を通して、
江戸時代の「古学」、さらには「古語とは何か」を語っている。
柿本人麻呂の歌(『万葉集』巻一・48番目)「東野炎立所見而反見為者月西渡」の読み方、『徒然草』にみえる「おこめく」は「おごめく(蠢く)」なのか、
といった具体的な問題を扱う一方で、
江戸時代の古学の歴史もバランス良くまとめていて読みやすい。
学問の発展によって、かえって古語が創り出されることもあるという指摘は、
他人事ではないような気がする。

2010年11月27日土曜日

藤原道長の摺本文選

池田昌広「藤原道長の摺本文選」(『鷹陵史学』36、2010年9月)

藤原道長の日記『御堂関白記』に登場する摺本注文選(五臣注本)の版本を推定し、当時の宋刊本受容の意義に言及している。

2010年11月25日木曜日

冼星海伝小考

平居高志「冼星海伝小考―パリ遊学時代を中心として―」(『集刊東洋学』104、2010年10月)

中国において、国家作曲者の聶耳と並ぶ有名作曲家である
冼星海の遊学時代の事績を再検討している。
この論文で初めて冼星海を知りましたが、
中国では神格化が進んでしまい、自身の回想などに頼ってしまっていて、
正面から事績が再検討されていないようです。

パリ遊学時代の所属学校や師弟関係などを詳細に検討し、
「音楽歴をより華やかで権威あるものとする」回想の特徴を浮き彫りにしている。
その背景に共産党への入党が関係していた可能性を指摘している。

『続「訓読」論』

中村春作・市來津由彦・田尻祐一郎・前田勉編『続「訓読」論―東アジア漢文世界の形成―』(勉誠出版、2010年11月)

2008年に出た『「訓読」論―東アジア漢文世界と日本語』の続編で、
これまたにんぷろの成果。
第Ⅰ部:東アジアにおける「知」の体内化と「訓読」
第Ⅱ部:近世の「知」の形成と「訓読」―経典・聖諭・土着―
第Ⅲ部:「訓読」と近代の「知」の回廊―文学・翻訳・教育―
合計16本の論文が並ぶ。前回と違って、日本だけでなく、
朝鮮半島や満洲語も取り上げられている。

特に印象深かったものは、
中村春作「琉球における「漢文」読み―思想史的読解の試み―」と
川島優子「白話小説はどう読まれたか―江戸時代の音読、和訳、訓読をめぐって―」。
中村論文は、琉球における多層的な言語状況と変遷についてまとめている。
川島論文は、江戸後期の金瓶梅読書会が残した史料を用いて、
当時、どのように白話小説を読んでいたかを明らかにしている。

2010年11月22日月曜日

秋の空き地で

近所の猫屋敷で今年も子猫誕生。
空き地で毎日元気にじゃれあってます。
ねこじゃらしがなかったので、草の茎で代用。
十分、遊んでくれます。

2010年11月21日日曜日

シンポジウム東洋史学100年からの展望

シンポジウム東洋史学100年からの展望
日時:20101211日(土)13:3017:00
場所:東京大学文学部一番大教室(法文二号館二階) 
主催:東京大学東洋史学研究室

報告者:佐藤次高・弘末雅士・小嶋茂稔・太田信宏
ディスカサント:羽田正・桃木至朗
特別演奏:古箏奏者 姜小青

報告タイトルが発表されていないのが残念。
どんなシンポジウムになるのか気になります。

水島司編『アジア遊学136 環境と歴史学』

水島司編『アジア遊学136 環境と歴史学 歴史研究の新地平』(勉誠出版、2010年9月)

近年、急速に研究が進められている環境史の特集号。
第一部「環境と歴史学へのアプローチ」、
第二部「環境と地域史」のもと、23の論文が並んでいる。
一口に環境史といっても、多様な切り口があることを実感。
問題意識もきわめて明確。なんだかちょっと気後れしてしまう。

2010年11月18日木曜日

洛陽学国際シンポジウム

洛陽学国際シンポジウム―東アジアにおける洛陽の位置―
(唐代史研究会2010年度秋期シンポジウム)
会場:明治大学駿河台校舎リバティタワー10階1103教室
日時:2010年11月27日(土)13:00~17:30、28日(日)9:30~17:00

11月27日(土)報告13:00~17:30
氣賀澤保規「開会挨拶、洛陽学シンポジウム趣旨説明」
塩沢裕仁「洛陽・河南の歴史地理と文物状況」
岡村秀典「中国のはじまり―夏殷周三代の洛陽」
石黒ひさ子「後漢刑徒墓磚について」  
   休憩(15時15分~15時30分)
落合悠紀「曹魏洛陽の復興と「正始石経」建立」
佐川英治「漢魏洛陽城研究の現状と課題」        
討論・質疑  コメンテーター:王維坤

11月28日(日)報告9:30~17:00
小笠原好彦「日本の古代都城と隋唐洛陽城」   
車崎正彦「三角縁神獣鏡と洛陽」
酒寄雅志「嵩山法王寺舎利蔵誌と円仁」 
  昼食(12時~13時)
毛陽光「洛陽近年出土唐代石刻の概要と新成果」
肥田路美「龍門石窟と奉先寺洞大仏」
氣賀澤保規「洛陽と唐宋変革と東アジア」   
  休憩(15時15分~15時30分)
コメント・討論:「洛陽学」の可能性について
 コメンテータ一:妹尾達彦・高明士

2010年11月12日金曜日

マニ教

青木健『マニ教』(講談社、2010年11月)

講談社選書メチエよりマニ教の概説書がでました。
なお、書名は「マニ教」となってますが、
本文中では一貫して原音に近い「マーニー教」としています。

第一章はマーニー教研究資料の発見史、
第二章はマーニーの生涯、第三章はマーニー教の教義、
第四章~第八章はマーニー殉死後のマーニー教史。
第八章では中国におけるマーニー教について紹介。
マーニー教の教義と歴史がよくわかる一冊。

各地の様々な時代・言語の文献から、
今は亡き宗教を研究する難しさとおもしろさが伝わってくる。
マーニー教と先行宗教との関係性もまとめられていて、
なかでもゾロアスター教との関係がとても興味深い。
従来、マーニー教の善悪二元論は、
ゾロアスター教の影響で成立したものとされていたが、
近年の研究では、むしろ、一神教的だったゾロアスター教が、
マーニー教の影響で二元論的教義に変化していったと理解されているらしい。

2010年11月11日木曜日

シンポジウム「源氏物語と唐代伝奇」

シンポジウム「源氏物語と唐代伝奇」
日時:2010年12月11日(土)13:00~18:00
場所:明治大学駿河台キャンパス リバティータワー13階 1136教室
主催:明治大学古代学研究所

報告
河野貴美子「古註釈からみる源氏物語と唐代伝奇」
芝崎有里子「落窪物語と遊仙窟」
新間一美「源氏物語と遊仙窟ー夕顔巻・若紫巻を中心にー」
日向一雅「明石巻の光源氏と明石君の出会いと別れー『鶯鶯伝』との比較ー」
陳明姿「唐代伝奇と『源氏物語』における夢物語ー「夢遊」類型の夢物語を中心にしてー」
仁平道明「『源氏物語』と唐代伝奇の〈型〉」

2010年11月8日月曜日

現代アート調査と考察

牧陽一「現代アート調査と考察 2008・2009 広州・上海・北京―消費されないこと Face up to Reality」(『埼玉大学紀要(教養学部)』45-2、2010年3月)

珍しく大学紀要に中国現代アート関連の論文が載っていたので紹介します。
著者は、『中国現代アート』(講談社、2007年2月)や
『アヴァン・チャイナ』(木魂社、1998年9月)などを上梓している
中国現代アートの研究者。

2008年・2009年に広州・上海・北京で見た展覧会・作品の解説。
鮮明な問題意識を持った作品を中心に取り上げている。
「政治体制」に属さず、現実を批判する力を持ち、
なおかつ「商品化」をも拒否する作品は、確かにかっこいい。

でも、ちょっと、「商品化」した作品や、問題意識の希薄な作品に対して、
否定的過ぎるような気がしないでもない。

東アジア海域叢書刊行開始

以前の日記でちょっとふれた「にんぷろ」科研の成果をまとめた
東アジア海域叢書全20巻の刊行が、先月はじまりました。
第一弾は山本英史編『近世の海域世界と地方統治』(汲古書院、2010年10月)。

以下にラインナップをまとめます。
井上徹編『海域交流と政治権力の対応』(12月発売予定)
勝山稔編『小説・芸能から見た海域交流』(2011年1月発売予定)
吉尾寛編『海域世界の環境と文化』(2011年3月発売予定)
市来津由彦他編『江戸儒学の中庸注釈と海域世界』(2011年4月発売予定)
須江隆編『碑と地方志のアーカイブズを探る』
平田茂樹・遠藤隆俊編『外交史料から十~十四世紀を探る』
高橋忠彦編『浙江の茶文化を学際的に探る』
松田吉郎編『寧波の水利と人びとの生活』
山川均編『寧波と宋風石造文化』
伊藤幸司・中島楽章編『寧波と博多を往来する人と物』
藤田明良編『蒼海に響きあう祈りの諸相』
堀川貴司・浅見洋二編『蒼海に交わされる詩文』
森平雅彦編『中近世の朝鮮半島と海域交流』
小島毅編『中世日本の王権と禅・儒学』
藪敏裕編『平泉文化の国際性と地域性』
横手裕編『儒仏道三教の交響と日本文化』
加藤徹編『明清楽の伝来と受容』
井出誠之輔編『聖地寧波の仏教美術』
藤井恵介編『大宋諸山図・五山十刹図 注解』

A5判上製箱入、平均350頁、予価各7350円。
近年、これだけの成果をあげた東洋史関連の科研費って、他にあるのだろうか。
量より質という意見もあるだろうけど、各論文もかなりおもしろそう。

第40回中央アジア学フォーラム

中央アジア学フォーラムのお知らせ(第40回)
日程: 2010年12月4日(土)13:30~18:00
場所:大阪大学豊中キャンパス・文法経本館・2階大会議室

[研究発表]
松田和信「アフガニスタンの仏教写本その後」
[論文紹介]
福島恵「張乃翥「洛陽景教経幢与唐東都”感徳郷”的胡人聚落」『中原文物』2009-2, pp. 98-106」(洛陽のソグド人に関する墓誌情報をからめて報告)」
[新刊紹介]
中田美絵「葛承雍(主編)『景教遺珍──洛陽新出唐代景教経幢研究』(北京:文物出版社,2009年刊)」

2010年11月5日金曜日

旧石器遺跡捏造事件

岡村道雄『旧石器遺跡捏造事件』(山川出版社、2010年11月)

旧石器遺跡捏造事件の「第一次関係者」に
位置付けられてしまった著者が語る旧石器遺跡捏造事件。
各遺跡における捏造の状況などを紹介し、
25年間にわたって、捏造を見抜けなかった背景を説明している。

疑問ある石器でも、自説に近ければ問題視せず、
合理化を図っていた様子が描かれている。

一般向けということで、詳細な分析などは無いし、
先日読んだ『旧石器捏造事件の研究』の疑問が
解消されるわけではないけれど、これはこれで、一気に読んでしまった。
212頁~216頁には、2009年末に藤村新一氏に会った時のある意味衝撃的な様子が記されている。結局、捏造事件については何も語らなかったらしい。

当事者が語らない(語れない)以上、
これ以上、事件の真相を追うのは難しいだろうなぁ。

ただ、『旧石器捏造事件の研究』や本書でも指摘されているように、
考古学界の一部で、捏造事件の教訓が生かされてない状況にあるのが怖い。

2010年11月4日木曜日

平成22年度白東史学会大会

平成22年度白東史学会大会
日時:12月4日(土)14:00~17:20
場所:中央大学駿河台記念会館330号室
報告
14:00~15:00 山元貴尚「前漢前半期における領域について」 
15:10~16:10 西川和孝「雲南省普洱における漢人移民と茶山開発について―清朝後期から民国期を中心にして―」
 16:20~17:20 妹尾達彦「ケンブリッジ東洋学の今日」   

2010年11月3日水曜日

旧石器捏造事件の研究

角張淳一『旧石器捏造事件の研究』(鳥影社、2010年5月)

不覚なことに、かなり前に出ていたのに気付きませんでした。
別の本を探していて、偶然発見。目次をみて即座に購入しました。

章立は次の通り。
第一章「旧石器捏造事件とはどんな事件か」
第二章「捏造事件の本質と構造」
第三章「石器研究法から見た捏造事件」
第四章「学史からみた捏造事件」
第五章「あとがきにかえて―捏造事件から未来の考古学へ」

衝撃の旧石器捏造事件の発覚から、10年が経とうとしています。
その後の「検証」で、1975年頃から約25年にわたる捏造が明らかとなり、
旧石器考古学が根底から覆されてしまいました。

さて、この事件については、毎日新聞の一連の記事と
毎日新聞の取材班がまとめた『発掘捏造』(新潮文庫、2003年6月、初版2001年)と『古代史捏造』(新潮文庫、2003年10月、初版2002年)を読んだだけです。2003年にぶあつい報告書が出たのは知ってましたが、考古学専攻ではないし、そもそも古書価格が高いこともあって読んでません。その後、いつしか興味も薄れ、関連書籍を追いかけることはしていませんでした。

本書の著者は、捏造発覚前に疑問を明示していた数少ない研究者の一人です。
今回、『旧石器捏造事件の研究』を読んで、別の意味で大きなショックを受けました。本書では、第一章で捏造事件と考古学協会特別委員会の「検証」のあらましを述べた後、第二章で詳細に捏造事件の構造について分析しています。

捏造事件はおおまかにみると、
前半期(70年代後半~90年代初頭)の公的機関による発掘下で行われた、
「理論」に合致した緻密な捏造と、
後半期(90年初頭~2000年)の東北旧石器文化研究所設立後の
縄文石器に酷似する石器を用いた雑な捏造の二期にわかれるとし、
様々な角度から前半期の捏造が根拠としたと思われる「理論」について詳細な検討を加えています。果たして前半期の捏造は、専門的訓練を受けていないアマチュアに可能なのだろうか。

そこで示唆されている旧石器捏造事件の構造は、まことに恐るべきものです。
そして第四章によれば、その構造は、遡って岩宿遺跡の発見にもうかがえるとしています。(ただし、岩宿遺跡の「第一発見者」である相沢忠洋氏は、その構造に含まれていないとしています)

果たして、本書で指摘されている構造が、事実であるか否かは
考古学の素人である僕には、よくわかりません。
ただ、少なくとも「理論」の危うさに関する指摘は、説得力あったように思います。
しっかりとした書評がなされることを願うばかりです。
ひとまず来年の回顧と展望の要チェック項目が一つ増えました。


さてさて、とりあえず次は、昨日出たばかりの、
岡村道雄『旧石器遺跡捏造事件』(山川出版社、2010年11月)を
早急に購入して読んでみたいと思います。