2012年8月14日火曜日

カラマーゾフの妹

高野史緒『カラマーゾフの妹』(講談社、2012年8月)

帯の「あの世界文学の金字塔には真犯人がいる。」にひかれて購入。高野史緒のSF作品はいくつか読んでいたけれど、最近、新作でないなぁ、と思っていたら、まさかあのドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』の続編を書いていたとは。

舞台は、『カラマーゾフの兄弟』の13年後の1887年。次男のイワンが郷里に未解決事件特別捜査官として、帰ってくるところからはじまる。『カラマーゾフの兄弟』の作中人物のその後とともに、再捜査がはじまるや、新たな事件が……。

一見、普通の続編&推理小説と思いきや、徐々に虚実ないまぜのロシアに。ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』第二部の構想を大胆にアレンジした上で、あの名探偵やロシア文学の登場人物、実在の学者・作品も取り込み、いつの間にか舞台はスチームパンク風の世界に。まさしくSFと推理小説とロシア文学の融合。

実のところ、『カラマーゾフの兄弟』は未読だったのだけど、本書を読みおえて、すぐさま新潮文庫版を購入。一気読みしてしまった。高野氏は光文社文庫版に依拠しているのだが、新潮文庫版の翻訳でも特に矛盾箇所は生じていなかった。巧みに原作の隙をついて、意外な真犯人を導き出している。

『ディファレンス・エンジン』や、キム・ニューマンの『ドラキュラ紀元』三部作、矢作俊彦『あ・じゃ・ぱん!』などを思い起こした。今月出る予定の伊藤計劃&円城塔『屍者の帝国』も同種の作品のはず。もちろん、江戸川乱歩賞応募作ということもあって、スチームパンク的要素は少な目。SF好きなら、なんなく入り込めるし、そうでない方も楽しめるはず(多分)。まぁ、苦手な方も多いかも。

水戸黄門「漫遊」考

金文京『水戸黄門「漫遊」考』(講談社学術文庫、2012年8月)

「この紋所が目に入らぬか!」でおなじみの水戸黄門。
彼には、日本・中国・朝鮮に仲間がいた。
中国の包拯に劉知遠、朝鮮の暗行御史、北条時頼……。
黄門さまの「漫遊」の起源をめぐって、
古代から現代、ギリシャ・インド・中国・朝鮮・日本、
王の巡幸・芸能者・スパイ、
神話学・民俗学・歴史学・文学、
講談・小説・映画・テレビと「漫遊」し、
その行き着いた果てに明かされる意外な印籠の起源。

お隣の中国では、今でも黄門の仲間たち(特に清の皇帝)は元気だが、
日本では、ついに2011年にテレビドラマ『水戸黄門』が終焉を迎えた。
善意の権力者が民衆を救うという物語が、
フィクションであっても成立しない時代が来たのかもしれない。

もうすぐ出版されるはずの冲方丁の『水戸光圀』は、
一体、どんな水戸黄門を描くのだろうか。

なお、先日まで、ファン・ヒューリックの狄(ディー)判事シリーズを読んでいたのだけど、本書には取り上げられていなかったが、彼も水戸黄門の仲間であることは間違いない。

原書は、金海南名義で1999年に新人物往来社から刊行。
う~ん、知らなかった。