2012年9月4日火曜日

近代中国研究入門

岡本隆司・吉澤誠一郎編『近代中国研究入門』(東京大学出版会、2012年8月)

現在の中国近代史研究に対する強い危機意識のもと執筆された研究入門。「近代」の範囲は、おおまかにいって「一九世紀がはじまる前後から、中華人民共和国の成立あたり」までとする。研究論文・著書を網羅的に紹介する形はとっていない。また、論文の書き方マニュアルでもない。基礎史料や文献を紹介しつつ、歴史研究の姿勢・作法を説く形をとっている。

目次は以下の通り。
序章:研究の前提と現実(岡本隆司)
第一章:社会史(吉澤誠一郎)
第二章:法制史(西英昭)
第三章:経済史(村上衛)
第四章:外交史(岡本隆司)
第五章:政治史(石川禎浩)
第六章:文学史(齋藤希史)
第七章:思想史(村田雄二郎)
座談会:近代中国研究の現状と課題

耳に痛い、いや、胸をえぐるような指摘が随所になされていて、反省させられることしきり。資料状況に違いはあるものの、殆どが中国史全体にあてはまる指摘で、前近代史研究志望者にとっても必読文献ではなかろうか。

ちなみに第五章では、問題意識が希薄で、細かな事象精査にとどまっている研究を「隣家に子猫が生まれた」式の研究としている。この比喩は、スペンサーのエッセイに見え、明治日本経由で清末・民国初の中国で愛用された言い回しらしい。否定的な意味なのだけど、なんだか気に入ってしまった。ついつい自虐で使ってしまいそう。

座談会は、執筆者の本音と苦悩が垣間見えて、耳に痛い内容であるけれど、楽しみながら読めた。高所からの若手批判ではなく、現在の研究者をとりまく環境・圧力を踏まえつつ、普段いいにくいアドバイスをしている感じ。あと、現代中国研究者の近代史に対する姿勢に違和感を述べているのも印象的。