2011年6月5日日曜日

逸周書研究序説

高野義弘「逸周書研究序説―「声の文化」の観点から―」(『東洋文化』復刊106、2011年4月)

西周時代の事績を記した書籍であるにも関わらず、
これまで関心が低かった『逸周書』について分析。
中国で用いられている二重証拠法の危うさを指摘した上で、文章構造から『逸周書』の一部は、殷・西周の記憶をとどめており、最終的にまとめられた時期は春秋期以降であるとする。
そして、殷周史を「声の文化」の視点から考察した松井嘉徳氏の見解を紹介し、『逸周書』の内容も王朝内の口頭伝承で伝えられた可能性を指摘している。
また、中国人研究者に顕著にみられる殷周時代に既に史官が存在し、史書を編纂していたという認識の危うさを指摘している。

はじめての漢籍

東京大学東洋文化研究所図書室編『はじめての漢籍』(汲古書院、2011年5月)

東洋文化研究所図書室が2009年・2010年に行なった
「はじめての漢籍」講演会を書籍化したもの。
目次は以下のとおり。
大木康「漢籍とは?」
齋藤希史「漢籍を読む」
橋本秀美「初心者向け四部分類解説」
平勢隆郎「工具書について」
大木康「東京大学総合図書館の漢籍について」
石川洋「東京大学文学部漢籍コーナーの漢籍について」
小寺敦「東京大学東洋文化研究所の漢籍について」

個人的には石川洋氏の文学部漢籍コーナーの紹介がおもしろかった。文学部の組織の中での位置づけがよくわからないまま、現在までちゃんと機能している漢籍コーナーの実状が述べられている。

歴史の争奪

諸般の事情で五月は更新が滞ってしまいました……。
これからは、ぼちぼち更新していきたいと思います。

古畑徹「歴史の争奪―中韓高句麗歴史論争を例に―」(『メトロポリタン史学』6、2010年12月)

中国と韓国の学者・マスコミの間で論争になっている
高句麗の「帰属」問題の経緯をまとめている。
「中韓高句麗歴史論争のゆくえ」(弁納才一・鶴園裕編『東アジア共生の歴史的基礎』御茶の水書房、2008年)の続編。

中国で2002年にはじまった「東北工程」の経緯や、
韓国側の学者・マスコミ・研究組織の反応・状況を述べ、
韓国側には「中国側の領土分割・民族分裂への警戒感に対する理解と配慮がないこと」、中国側には「高句麗が民族アイデンティティの根幹にかかわるという認識が欠如していること」を指摘。「民族感情に火がついた韓国側の方が明らかにヒートアップしている」とする。
そして、中国では両属論が台頭し、高句麗「争奪」から後退しているのにたいし、韓国では高句麗の「独占」をめざす方向に進んでいるとする。

現在の国民国家の枠組みに属さない存在の歴史を
どのように描くかということを考えさせる。