2010年10月3日日曜日

第103回訓点語学会研究発表会

第103回 訓点語学会研究発表会
日時:2010年10月17日(日)
場所:東京大学山上会館

報告 午前11時~
ジスク マシュー「古代日本語の書記表現における漢字の意味的影響―「のす」と「載」の関係を中心に―」
ゼイ 真慧「漢字とその訓読みとの対応関係についての一考察―「常用漢字表」所載漢字と平安時代の漢字との比較から―」

午後1時半~
平井吾門「倭訓栞の成立過程について ―語釈の発展を中心に―」
藤本灯「三巻本『色葉字類抄』に収録された人名について―「名字部」を中心に―」
千葉軒士「キリシタン・ローマ字文献の撥音表記について」
松尾譲兒「『今昔物語集』と訓読資料」
柳原恵津子「『後二条師通記』における使用語彙の一側面―各年毎の新出語彙という観点から―」

屠本『十六国春秋』考

梶山智史「屠本『十六国春秋』考―明代における五胡十六国史研究の一斑―」(『史学雑誌』119-7、2010年7月)

清代以降、偽書扱いされてきた[明]屠喬孫本『十六国春秋』の成立過程を解明。
清版では削除されている序文を確認するため、
中国・日本に所蔵されている明版『十六国春秋』の調査を行った結果、
序文の収録状況に違いがあることを発見。
その序文の内容から、『十六国春秋』に関わる学術ネットワークの存在を指摘。
また、屠喬孫らが、崔鴻撰『十六国春秋』が散逸していたことを認識しており、
「当時存在した十六国史に関するあらゆる史料を駆使して、『十六国春秋』の
原貌を復元」することを意図していたとする。
さらに、編纂者以外の序文に、屠喬孫らが崔鴻撰『十六国春秋』を発見・補訂した、
と勘違いしているものが複数あることを指摘し、
編纂者の序文が脱落していった結果、清代に偽書説が流布したとする。

版本調査・目録学・地方志を駆使した論文で、とても刺激的。
明代の出版史・学術史については、文学・思想を中心に研究が進められているが、
史書に着目した研究は、まだまだ未開拓といっていいはず。
また、十六国時代をめぐる学術史ということでも興味深い。

2010年10月2日土曜日

漢字・七つの物語

松岡榮志『漢字・七つの物語―中国の文字改革一〇〇年―』(三省堂、2010年9月)

民国期から現在までの漢字改革運動(漢字廃止論・簡体字化)の流れを詳細に解説。第六章「漢字とコンピュータ」では、漢字のコード化について紹介。

簡体字化したことの一般的な意義はさておき、
学術論文や校注などでは、なるべく繁体字(旧字)を使ってほしいなぁ、
と思います。せめて、論文中の引用史料は繁体字にしてもらえないだろうか……。
まぁ、僕自身、引用史料には「原文になるべく近い繁体字を用いる」という
あいまいなルールでやっているので、人のこと言えませんが。

でも、簡体字しか使っちゃいけないとなると、
例えば、乾隆帝の避諱のため「暦」を「歴」に改めた、
という文章の意味が通じなくなってしまうんですよね(簡体字だと両方「历」)。
やっぱり、これはちょっとまずいような気がします。

日本の新字体・旧字体問題も含めて、
なかなか解答の見えない問題です。

第61回日本道教学会大会

第61回日本道教学会大会
日時:2010年11月13日(土)
会場:関西大学千里山キャンパス第一校舎5号館6階E601~603

報告
[午前の部] 10:00~11:50
二ノ宮聡「旧北京の碧霞元君信仰―妙峰山娘娘廟会を中心に―」
王晧月「道教の斎法儀礼における命魔の観念」
鈴木健郎「白玉蟾と道教聖地」
[午後の部] 13:00~14:10
田村俊郎「両晋南北朝時代における観音の偽経とその展開―『高王観世音経』を中心に―」
坂出祥伸「江戸時代中期の山口貫道著『養神延命録』について」

国際シンポジウム「道教研究の新側面―周縁からのアプローチ―」14:30~17:00
増尾伸一郎「日本からの視点」
鄭在書「韓国からの視点」
大西和彦「ベトナムからの視点」

2010年10月1日金曜日

猫率の低下

称猫庵を名乗っているにも関わらず、
猫率の低下が甚だしい……。
秋になったことだし、これから猫との遭遇率もあがるはず。
ということで、特に意味は無いけど猫写真。

2010年9月30日木曜日

泥縄

まことにもって泥縄ですが、高橋智『書誌学のすすめ』を読んだ後になって、
漢籍版本の基礎知識を確認したいと思い、積読状態だった
陳国慶著・沢谷昭次訳『漢籍版本入門』(研文出版、1984年1月)を読みました。

原著は陳国慶『古籍版本浅説』(遼寧人民出版社、1957年)なので、
情報が古いところも多いのだけど、
沢谷氏の訳注と参考文献案内がそれを補ってくれます。

次は魏隠儒・王金雨著、波多野太郎・矢嶋美都子訳『漢籍版本のてびき』(東方書店、1987年5月)を読むつもり。とはいえ、これも20年以上前の訳書なのだけど。
ついでに米山寅太郎『図説中国印刷史』(汲古書院、2005年)も
見直してみようと思って、蔵書を探したのですが、
奥の下の方にあるようなので、今回はパス。

そういえば結構前に、長澤規矩也『古書のはなし―書誌学入門―』(冨山房、再訂1977年5月)も読んだのだけど、版本の基礎知識というのは、なかなか頭に残らない……。やはり読んだだけじゃ、知識が定着しないということなのだろうか(より根本的な記憶力の問題は置いときます)。

マニ教「宇宙図」

9月27日(月)の毎日新聞に、
「マニ教「宇宙図」国内に現存」
という記事とカラー図版が掲載されていました。

以下は、記事を一部引用。
「マニ教の宇宙観を描いたとみられる絵画が国内に存在することが
26日までに、京都大の吉田豊教授(文献言語学)らの調査で分かった。
「10層の天と8層の大地からなる」というマニ教の宇宙観の全体像が、
ほぼ完全な形で確認されたのは世界で初めて」

大きさは、縦137.1㎝、横56.6㎝。絹布に彩色。個人蔵。
元代頃に、江南地方の絵師が制作したらしいです。

森安孝夫「日本に現存するマニ教絵画の発見とその歴史的背景」(『内陸アジア史研究』25、2010年3月)には、日本国内で最近確認されたマニ教関係絵画が紹介されていますが、個人蔵や寺院蔵のものなど、まだまだ面白いものがたくさん眠っているんでしょうね。

書誌学のすすめ

高橋智『書誌学のすすめ―中国の愛書文化に学ぶ―』(東方書店、2010年9月)

第Ⅰ部「書誌学のすすめ」、第Ⅱ部「書物の生涯」、第Ⅲ部「書誌学の未来」。
第Ⅰ部・第Ⅱ部は、『東方』の連載記事(2003年1月~2004年12月、2006年6月~2008年1月)をまとめたもの。第Ⅲ部は書き下ろし。

体系的な書誌学の概説書というわけではなく、
書誌学に関する具体的な逸話を集積するなかで、
書誌学の魅力に迫っている。図版も多くて、よみやすい。
書誌学というと、型式論・年代比定のイメージが特に強かったけれど、
「書物」自体の流転の歴史を明らかにする学問でもあると実感。

なお、副題に「中国の愛書文化」とあるように、あくまで宋元以降の版本・写本がメインで、唐写本の流れをくむ日本の古写本(旧抄本)については、あまり触れていない。

2010年9月29日水曜日

東方学会第60回全国会員総会

東方学会第60回全国会員総会
日時:2010年11月6日(土)12:30~19:30
会場:芝蘭会館別館2階研修室1

講演会
12:40~13:40 根立研介「運慶と中国美術の受容」
13:50~14:50 池田雄一「中国古代における律令の形成と習俗」
研究発表
15:10~15:40 岩尾一史「古代チベット帝国の兵士とキャ制」
15:45~16:45 白井順「『小学』注再考―その思想研究の可能性を求めて―」
16:20~16:50 守川知子「シャー・イスマーイールとサファヴィー朝初期のシーア派信仰」
16:55~17:25 吉田ゆか子「バリ島仮面舞踊劇を担う者たちの現在―知識の習得過程を中心に―」

参加費:1000円、懇親会費:3000円

2010年9月27日月曜日

戦後日本人の中国像

馬場公彦『戦後日本人の中国像―日本敗戦から文化大革命・日中復交まで―』(新曜社、2010年9月)

日本敗戦から1972年の日中復交までに刊行された総合雑誌・論壇誌における
中国関係の記事をすべて抽出し(約2500本)、
戦後日本の知識人における中国像・叙述の変遷を丹念に分析している。

出てきた結果は、あまり新鮮味があるとはいえないが、
いままで漠然と認識していた戦後日本の中国叙述の変化について、
しっかりと肉付けしてくれて参考になる。

また、証言編として、総合雑誌などで積極的に
発言してきた人物のインタビューも載せている。
竹内実・野村浩一・岡部達味・本多勝一・小島麗逸・
中嶋嶺雄・加々美光行・津村喬などなど、立場は様々。
自伝的要素あり、自己批判あり、当時の日中関係の裏側ありで面白かった
個人的には、収録されなかった安藤彦太郎氏のインタビューが気になった。