伊藤計劃×円城塔『屍者の帝国』(河出書房新社、2012年8月)
「早熟の天才・伊藤計劃の未完の絶筆が、
盟友・円城塔に引き継がれ遂に完成」(帯より引用)。
フランケンシュタインの技術と
バベッジの解析機関が実用化された19世紀末、
世界は「屍者」で満たされていた。
英国諜報員ジョン・ワトソンは
英露のグレートゲーム真っ只中のアフガニスタン奥地に赴く。
あるロシア人率いる「屍者の王国」をめざして……。
これが長い冒険の始まりにすぎないことをワトソンは知らない。
生者と屍者と世界文学の登場人物が混ざり合い、
史実とifと作品世界の溶け込みあった幻想の19世紀。
『ディファレンス・エンジン』を彷彿させる
SF&歴史改変小説であるのは当然のこと、
世界をまたにかける冒険小説でもあり、
なおかつ魂・意識・生死を問う思索小説でもある。
本筋とはずれるが、様々な仕掛けを探るのも楽しい。
伊藤計劃は、プロローグにあたる部分を書き残し、
続きもプロットも殆ど残さないまま、34歳の若さで亡くなってしまった。
そのため、ほとんどが円城塔の単独執筆なのだが、
驚くほど伊藤計劃の『虐殺器官』・『ハーモニー』との
つながりを感じさせる。
痺れながら、一気に読んでしまった。
19世紀末の歴史改変小説は英米で盛んだけども、
大体の作品の舞台は、欧米にとどまっている。
それに対して『屍者の帝国』は、がっつり「アジア」が舞台。
さっそく、世界に向けて翻訳すべきじゃないだろうか。
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