2010年12月11日土曜日

唐代郷里制下における里正の治安維持活動

石野智大「唐代郷里制下における里正の治安維持活動」(『駿台史学』140、2010年8月)

唐代郷里制下の村落行政で、中心的役割を果たした里正に焦点をあて、
まず里正の別称(里長・里尹・里胥)を確認したうえで、
その治安維持活動の具体像に迫っている。

近年、中国では唐代の末端地方行政の研究が盛んに進められているのに対し、
日本では90年代以降、めっきり研究が減ってしまっている。
21世紀にはいって、史料や研究状況が変わってきているので、
研究が増えてもいいと思うのだけど。

池田学展「焦点」

現在、ミヅマアートギャラリーにて開催中の池田学展「焦点」に行ってきました。
ミヅマアートギャラリーは、飯田橋と市ヶ谷の間にあるギャラリー。
倉庫みたいなシンプルな外観。

今回、個展が開かれている池田学は、
壮大で緻密なペン画を生み出しているアーティスト。
「興亡史」(2006年 200cm×200cm)や「予兆」(2008年 190cm×340cm)
といったど迫力の大作で知られています。

今回の個展では、一転して22cm×27cmと小さな作品にチャレンジ。
壮大で緻密な世界はそのままに、ギュッと凝縮した感じ。

個展のタイトル「焦点」は、これまでの大作とは逆に、
「小さな部分にも焦点を当て、そこから外に広がっている世界を想像する」
ことからきているそうです。

個展の顔ともいえるポストカードに選ばれた作品は「Gate」。
荒れすさぶ海の中に、ぽつんと存在する堤防と、ぽっかりあいた穴。
そのなかには、高速道路を行きかう車、ビルの夜景。
この不思議な世界、一見しただけで引き込まれてしまう。
まさにコンセプトを体現した作品です。

作品は全部で20点。
いずれも日常的感覚からすこしずれた、
奇妙でちょっと不穏な世界が描かれている。
しかも、細部まで作りこまれていて、
たった22×27cmなのに、様々な発見・物語がある。

お気に入りは、Gate、擬態、Bait、海の階段、famer's tank。
他の作品に比べると地味だけど、Fall lineと波もいい感じ。
本筋とは関係ないが、絵のどこかに潜んでいる
著者の名前(学)を探すのも楽しい。

かなりおすすめです。

なお、今月、羽鳥書店より、初画集『池田学画集1』が出版されました。
1年以上かけて制作されたという「興亡史」・「予兆」などの大作や
最新作を含め45点収録されてます。
池田学展ではサイン本を購入できます。こちらもみていて飽きません。

池田学展「焦点」
MIZUMA ART GALLERY(神楽ビル2階) 
飯田橋徒歩8分・市ヶ谷徒歩5分
2010年12月8日(水)~2011年1月15日(土) 11時-19時
休廊日:日・月・祝日 冬季休廊12月26日~1月6日
無料

2010年12月9日木曜日

学習院大学東洋文化研究所主催講演会

学習院大学東洋文化研究所主催講演会
日時:2010年12月10日(金)18:00~20:00
会場:学習院大学・中央教育研究棟国際会議場(12F)
講演:王維坤「西安で発掘されたソクド人墓の最新研究」

2010年12月3日金曜日

新アジア仏教史05中央アジア

奈良康明・石井公成編集委員『新アジア仏教史05 中央アジア 文明・文化の交差点』(佼成出版社、2010年10月)

最初は買うか迷っていたのですが、目次をみてやはり購入。
西域南道・北道やトルファン・敦煌の仏教の状況、
仏教美術がまとめられていて、とても勉強になります。

目次は以下の通り。
第一章「インダス越えて―仏教の中央アジア」:山田明爾
第二章「東トルキスタンにおける仏教の受容とその展開」:橘堂晃一
第三章「中央アジアの仏教写本」:松田和信
第四章「出土資料が語る宗教文化―イラン語圏の仏教を中心に―」:吉田豊
第五章「中央アジアの仏教美術」:宮治昭
第六章「仏教信仰と社会」:蓮池利隆・山部能宜
第七章「敦煌―文献・文化・美術―」:沖本克己・川崎ミチコ・濱田瑞美

特に第三章「中央アジアの仏教写本」がおもしろかった。
20世紀における中央アジアの仏教写本の発見史を述べた後、
1996年の新発見仏教写本(1世紀頃・アフガンで発見)公表後、
様々な言語・文字・内容の写本が続々と出現している状況が記されています。
その原因はアフガン内戦からアメリカのアフガニスタン侵攻、
そして現在に至る混乱で、盗掘が横行したことにあるようです。
そのため、正確な出土地がわからないようですが、2003年と2006年には正式調査によって、バーミヤーンの石窟から仏教写本が発見されたそうです。
現在進行形で次々に新たな研究テーマが生れていく様子がうかがえます。

2010年12月2日木曜日

東アジアの兵器革命

久松崇『東アジアの兵器革命―十六世紀中国に渡った日本の鉄砲―』(吉川弘文館、2010年12月)

朝鮮の役を契機に日本から明朝に伝播した鉄砲を切り口として、
16~17世紀の東アジアにおける兵器革命を描いている。
16世紀明朝に普及していた火器から日本の火縄銃や新式火器への変容、
明朝における制度的限界と後金の積極的受容の様子が示されている。
日本人捕虜(日本降夷)が家丁などに編入されて、
楊応龍の乱やモンゴル・女真との戦いに参加し、
火器の普及に一役買っていたとは驚きました。
東アジアにおける人的移動・交流の研究としても見ることができると思います。

2010年12月1日水曜日

検証「前期旧石器遺跡発掘捏造事件」

松藤和人『検証「前期旧石器遺跡発掘捏造事件」』(雄山閣、2010年10月)

奥付を見ると、岡村道雄『旧石器遺跡捏造事件』(山川出版社、2010年11月)よりも前に出ている。う~ん、気付かなかった。
著者の松藤和人氏は、西日本に基盤を置く旧石器研究者。
藤村新一氏と関係が希薄だったことから、
発掘捏造事件を比較的冷静に叙述している。
その分、インパクトは弱い。
ただ、「前、中期旧石器問題調査研究特別委員会」における
東北大閥と明大閥の対立などの内幕を書いていて興味深い。
また、最後に前期旧石器遺跡と目されている
岩手県金取遺跡・島根県砂原遺跡を紹介しているが、
疑義が呈されている点にはさして触れていない。

2010年11月30日火曜日

古語の謎

白石良夫『古語の謎―書き替えられる読みと意味―』(中公新書、2010年11月)

古語の歴史ではなく、「古語認識の歴史」を通して、
江戸時代の「古学」、さらには「古語とは何か」を語っている。
柿本人麻呂の歌(『万葉集』巻一・48番目)「東野炎立所見而反見為者月西渡」の読み方、『徒然草』にみえる「おこめく」は「おごめく(蠢く)」なのか、
といった具体的な問題を扱う一方で、
江戸時代の古学の歴史もバランス良くまとめていて読みやすい。
学問の発展によって、かえって古語が創り出されることもあるという指摘は、
他人事ではないような気がする。

2010年11月27日土曜日

藤原道長の摺本文選

池田昌広「藤原道長の摺本文選」(『鷹陵史学』36、2010年9月)

藤原道長の日記『御堂関白記』に登場する摺本注文選(五臣注本)の版本を推定し、当時の宋刊本受容の意義に言及している。

2010年11月25日木曜日

冼星海伝小考

平居高志「冼星海伝小考―パリ遊学時代を中心として―」(『集刊東洋学』104、2010年10月)

中国において、国家作曲者の聶耳と並ぶ有名作曲家である
冼星海の遊学時代の事績を再検討している。
この論文で初めて冼星海を知りましたが、
中国では神格化が進んでしまい、自身の回想などに頼ってしまっていて、
正面から事績が再検討されていないようです。

パリ遊学時代の所属学校や師弟関係などを詳細に検討し、
「音楽歴をより華やかで権威あるものとする」回想の特徴を浮き彫りにしている。
その背景に共産党への入党が関係していた可能性を指摘している。

『続「訓読」論』

中村春作・市來津由彦・田尻祐一郎・前田勉編『続「訓読」論―東アジア漢文世界の形成―』(勉誠出版、2010年11月)

2008年に出た『「訓読」論―東アジア漢文世界と日本語』の続編で、
これまたにんぷろの成果。
第Ⅰ部:東アジアにおける「知」の体内化と「訓読」
第Ⅱ部:近世の「知」の形成と「訓読」―経典・聖諭・土着―
第Ⅲ部:「訓読」と近代の「知」の回廊―文学・翻訳・教育―
合計16本の論文が並ぶ。前回と違って、日本だけでなく、
朝鮮半島や満洲語も取り上げられている。

特に印象深かったものは、
中村春作「琉球における「漢文」読み―思想史的読解の試み―」と
川島優子「白話小説はどう読まれたか―江戸時代の音読、和訳、訓読をめぐって―」。
中村論文は、琉球における多層的な言語状況と変遷についてまとめている。
川島論文は、江戸後期の金瓶梅読書会が残した史料を用いて、
当時、どのように白話小説を読んでいたかを明らかにしている。