2012年6月18日月曜日

震災・核災害の時代と歴史学

歴史学研究会編『震災・核災害の時代と歴史学』(青木書店、2012年5月)

『歴史学研究』2011年10月号の「緊急特集 東日本大震災・原発事故と歴史学」をもとに、書き下ろし原稿を加えた論文集。その後の研究の進展や事態の展開を反映して改稿されているので購入。

目次は以下の通り。*は新稿。
Ⅰ 東日本大震災と歴史学-災害と環境
平川新「東日本大震災と歴史の見方」
保立道久「地震・原発と歴史環境学―九世紀史研究の立場から」 
矢田俊文「東日本大震災と前近代史研究」
北原糸子「災害にみる救援の歴史―災害社会史の可能性」
小松裕「足尾銅山鉱毒事件の歴史的意義―足尾・水俣・福島をつないで考える」*

Ⅱ 原発と歴史学-「原子力」開発の近現代史
平田光司「マンハッタン計画の現在」
有馬哲夫「日本最初の原子力発電所の導入過程―イギリスエネルギー省文書「日本への原子力発電所の輸出」を中心に」*
加藤哲郎「占領下日本の「原子力」イメージ―原爆と原発にあこがれた両義的心性」*
中嶋久人「原発と地域社会―福島第一原発事故の歴史的前提」
石山徳子「原子力発電と差別の再生産―ミネソタ州プレイリー・アイランド原子力発電所と先住民」

Ⅲ 地域社会とメディア-震災「復興」における歴史学の役割
奥村弘「東日本大震災と歴史学―歴史研究者として何ができるのか」
岡田知弘「東日本大震災からの復興をめぐる二つの道―「惨事便乗型復興」か、「人間の復興か」」*
三宅明正「記録を創り、残すということ」
安村直己「言論の自由がメルトダウンするとき―原発事故をめぐる言説の政治経済学」
藤野裕子「関東大震災の朝鮮人虐殺と向きあう―災害時の公権力と共同性をめぐって」*

Ⅳ 史資料ネットワークによる取り組み
佐藤大介「被災地の歴史資料を守る―東日本大震災・宮城資料ネットの活動」
阿部浩一「福島県における歴史資料保存活動の現況と課題」
白井哲哉「茨城文化財・歴史資料救済・保全ネットワーク準備会(茨城史料ネット)の資料救出活動」
白水智「長野県栄村における文化財保全活動と保全の理念」*

Ⅴ 資料編
石井正敏「貞観十一年の震災と外寇」*
棚井仁「自治体史のなかの原発」*

Ⅵ 災害と歴史学 ブックガイド

災害・原発・復興・資料保存・資料編・ブックガイドと充実のラインナップ。不足している点としては、避難・移住の問題だろうか。原発事故による大規模避難・移住の先例としては、チェルノブイリ原発事故ぐらいなので、歴史学としては取り上げにくいのかもしれないけど、火山災害などで避難・移住をよぎなくされ、しかも帰還困難になった事例はけっこうあるはず。災害のみならず、侵略による避難・移住も視野にいれれば範囲はより広がるのでないだろうか。中国史でいえば、4~6世紀の東晋南朝における僑州郡県や、12~13世紀の南宋の事例が該当する。福島県いわき市に大熊町(仮の町)を置く構想もあるし、避難先・移住先における集団維持または解体を歴史学として取り上げることも可能なように思える。

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