田中靖彦「陳寿の処世と『三国志』」(『駒沢史学』76、2011年3月)
遅ればせながら最近読んだので紹介。
「正統」論に対する疑問をもとに、
陳寿撰『三国志』の三国観を検討している。
従来、正史『三国志』は、「曹魏正統論」を説きつつ、
ひそかに蜀漢を称揚しようとする含意が込められている
歴史書と理解されてきた。
確かにそうした傾向は存在しているが、その一方で、
『三国志』は、魏の「漢→魏」、蜀漢の「漢=蜀漢」、
呉の「漢→魏→呉」という主張をすべて記録しており、
三国いずれに対しても一定の合法性を認めている。
また、魏から晋への禅譲のみならず、
蜀漢・呉の投降に関する文書を採録することで、
「蜀→晋」、「呉→晋」という継承関係も示している。
すなわち、『三国志』は、三国すべてが晋に帰着したことを示した歴史書である。
『三国志』のみならず、分裂時代を扱った史書の性質を考える際には、正統性の問題を意識せざるをえないが、本論文によって、正統性にとらわれすぎるのも危険であることを実感した。
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