2012年1月15日日曜日

贈与の歴史学

桜井英治『贈与の歴史学―儀礼と経済のあいだ』(中公新書、2011年11月)

目次は以下の通り。
第1章:贈与から税へ
第2章:贈与の強制力
第3章:贈与と経済
第4章:儀礼のコスモロジー

換金前提の贈物・目録交換による贈与の相殺・贈答品の流用など「世界的にも類を見ない極端に功利的な性質を帯びる」中世日本の贈与慣行。贈与とは何か、コミュニケーションとは何かを考えさせられる。理論的でありつつ、実例が豊富で読みやすく、かつ読み応えがある。

2012年1月10日火曜日

「清明上河図」と徽宗の時代

伊原弘編『「清明上河図」と徽宗の時代―そして輝きの残照』(勉誠出版、2012年1月)

いま話題の「清明上河図」を主題とした論集。
第一部では、「清明上河図」の分析とともに
徽宗の再検討も試みている。
第二部では、北宋の「清明上河図」以降に誕生した
様々な「清明上河図」を取り上げ、
風俗画の伝承と拡散について論じている。
第三部では、様々な時代の画巻から、
時代を読み解いている。

目次は以下の通り。
序文 
伊原弘「徽宗とその時代―本書導入の前論」

第1部 徽宗―都市と芸術の開拓者
清木場東「清明上河図の背景」
クリスチアン・デ・ペー「清明上河図と、北宋(960-1127)東都(開封)のテキスト地理学」
久保田和男「メディアとしての都城空間と張擇端『清明上河図』」
マギー・ビックフォード「芸術と政治」
パトリシア・イブリー「徽宗朝の開封の建築計画」
高津孝「清明上河図と蘇軾の芸術論」
小島毅「天を観て民に示す」
須江隆「『清明上河図』の時代の信心の世界」

第2部 清明上河図―風俗画の伝承と拡散
加藤繁「仇英筆清明上河図と云われる図巻に就いて」
板倉聖哲「張擇端「清明上河図巻」(北京故宮博物院)の絵画史的位置」
久保田和男「開封復元図(徽宗時代)と『清明上河図』」
鈴木陽一「張擇端「清明上河図」とその影響力」
王正華「晩明《清明上河図》考」
植松瑞希「乾隆帝と「清明上河図」」
内田欽三「東アジアにおける都市図と風俗画」
加藤玄「中世ウェストミンスター宮殿の壁画群」

第3部 描かれぬものと描かれたもの―継承される画巻に時代をみる
齋藤忠和「兵士と農民」
福田アジオ「画巻に民俗をよむ」  
伊原弘「画巻に時代をよむ」


「清明上河図」に描かれたものを詳細に分析した伊原弘編『「清明上河図」をよむ』(勉誠出版、2003年10月)とは違って、「清明上河図」が描かれた時代背景や「清明上河図」の意義について論じている。「清明上河図」を見に行く前に『「清明上河図」をよむ』を読み、見終わった後に本書を読むといいのかもしれない。

2012年1月6日金曜日

新年初展覧会

新年がやってまいりました。
昨年は色々あって、更新も滞りがちでしたし、
展覧会にもあまり行けませんでした。

と思って、改めて展覧会参観を数えてみたら37回。
多くはないけど、少なくもないですね。
どうやら、1月~3月に結構かせいでいたみたいです。
まぁ、無理せず、今年もマイペースで過ごしていきたいです。


というわけで、先日、新年初展覧会に行ってきました。
歌川国芳展や北京故宮博物院200選など候補があるなか、
いろいろ迷った末に、松屋銀座で開催中の

「上田宗箇 武将茶人の世界展」

に行ってきました。

選んだ理由は、昨年、マンガ『へうげもの』にはまったから。
上田宗箇は、上田左太郎として『へうげもの』に登場。
猛将であるとともに古田織部のよき弟子でもある人物。

もともと茶器には全く興味なかったのだけど、
『へうげもの』を読んで、最近少し興味が湧いてきたところ。
正直、あまり期待せずに見に行ったのだけど、
予想以上に面白かったです。

茶人としての上田宗箇のみならず、
武将としての側面も取り上げている。
展示会場前半には、上田宗箇の甲冑や陣羽織、
地図や文書なんかもおいてあって、
戦国ファンなら楽しめる内容。

後半になって、いよいよ茶器がメインになってくるのだけど、
安土桃山~江戸初の茶器の斬新なこと。
織部焼きに代表されるへしゃげた器に抽象的デザイン。
宗箇自作の武骨な茶器もかっこいい。
30分くらいのつもりが、1時間半も見てしまいました。

会期は1月16日(月)まで。会場時間は10:00~20:00。
入場料は1000円(学生700円)。


というわけで、今年もぼちぼち更新していきますので、
どうぞよろしくお願いいたします。

2011年12月28日水曜日

ソグドからウイグルへ

森安孝夫編『ソグドからウイグルへ―シルクロード東部の民族と文化の交流―』(汲古書院、2011年12月)

森安孝夫氏の平成17~20年度科学研究費補助金基盤研究Aによって得られた成果のうち、ソグド・ウイグル関連の研究論文とシルクロード東部地域の現地調査記録をまとめたもの。

目次は以下の通り。
第1部:ソグド篇
森安孝夫「日本におけるシルクロード上のソグド人研究の回顧と近年の動向(増補版)」
荒川正晴「唐代天山東部州府の典とソグド人」
石見清裕「西安出土北周「史君墓誌」漢文部分訳注・考察」 
吉田豊「附論:西安出土北周「史君墓誌」ソグド語部分訳注」
山下将司「北朝時代後期における長安政権とソグド人―西安出土「北周・康業墓誌」の考察―」
福島恵「「安元寿墓誌」(唐・光宅元年)訳注」
森部豊「増補:7~8世紀の北アジア世界と安史の乱」
石見清裕「唐の内陸アジア系移住民対象規定とその変遷」

第2部:ウイグル篇
石附玲「唐前半期の農牧接壌地帯におけるウイグル民族―東ウイグル可汗国前史―」
田中峰人「甘州ウイグル政権の左右翼体制」
笠井幸代「古ウイグル語仏典奥書―その起源と発展―」
森安孝夫「シルクロード東部出土古ウイグル手紙文書の書式(後編)」

第3部:行動記録篇
はしがき
2005年度 山西北部・オルドス・寧夏・西安調査 行動記録
2006年度 内モンゴル・寧夏・陝西・甘粛調査 行動記録
2007年度 東部天山~敦煌調査 行動記録
2007年度 山西調査 行動記録
2007年度 オルドス・内モンゴル調査 行動記録
2008年度 山西・内モンゴル調査 行動記録


第1部・第2部そろって力作ぞろい。とても勉強になる。第1部では、石刻史料(ソグド人墓誌)の増加によって、研究状況が変わる様を改めて感じさせられる。第2部では、石附・田中論文が興味深かった。

しかし、なんといっても圧巻は第3部。約200頁(429頁~630頁)に及ぶ膨大な行動記録(元の原稿は、この4倍近くあったらしい)。調査範囲も広い広い。この調査についていくのは大変だ。遺跡や遺物の記録のみならず、移動ルート・景観・植生・気温など細かい情報も記している。

また、行動記録の合間に多数の小コラムが付いていて、見過ごせない情報がつまっている。例えば2007年度東部天山~敦煌調査の8月22日の項目には、【ベゼクリク出土漢文碑文に刻まれたソグド語銘とルーン文字銘】というコラムがあり、唐代後期の漢文碑文2通(既に報告済)にソグド文字ソグド語とルーン文字古代トルコ語の追刻があることが指摘されている。

なお、この行動記録では、各地の博物館・研究機関に所蔵される出土文物については、ソグド・ウイグルなどに関わるもの以外は省略してしまっている。う~ん、残念。

2011年12月26日月曜日

唐宋の変革と官僚制

礪波護『唐宋の変革と官僚制』(中公文庫、2011年12月)

礪波護『唐代政治社会史研究』(同朋舎出版、1986年)の第一部「唐宋の変革と使職」に、一般向けに書いた三篇を足したもの。『唐代の行政機構と官僚』(中公文庫、1998年)に先行する論攷。

目次は以下の通り。

「「安史の乱」前後の唐」
「黄巣と馮道」
「五代・北宋の中国―国都・開封の頃」

「三司使の成立について―唐宋の変革と使職」
「中世貴族制の崩壊と辟召制―牛李の党争を手がかりに」
「唐代使院の僚佐と辟召制」

「唐末五代の変革と官僚制」

Ⅱ・Ⅲの諸論文の初出は、1960年代であって、既に50年近くがたっているのだけども、未だに古びていない。「三司使の成立について」が、卒業論文をもとにしているとは驚き以外のなにものでもない。

2011年12月20日火曜日

汲古60

古典研究会編『汲古』60(汲古書院、2011年12月)

今号の『汲古』は、築島裕先生追悼号。訓点研究の第一人者であることは知っていたが、まさか切符マニアだったとは。複数の追悼文でそのことに触れられている。よっぽどすごかったんだなぁ。

その他にいくつか論考が載っているが、中村裕一「唐初の「祠令」と大業「祠令」」が興味深い。『汲古』としては異例なほど長文(17頁)。中村氏の『中国古代の年中行事 第四冊 冬』(汲古書院、2011年8月)のあとがき末尾で、「再校をしている途中で唐「祠令」は大業「祠令」を継受していることに気がついた」と述べていたが、それを論文化したもの。

2011年12月14日水曜日

あがり

約1年ぶりにSF小説を紹介します。SF小説に興味ない方は飛ばしてください。

松崎有理『あがり』(東京創元社、2011年9月)

創元日本SF叢書01。第一回創元SF短編賞受賞作品。でも、手に取った理由は、受賞作だからではなく、「大学の研究室は、今日もSFの舞台に。」という帯を見たから。仙台とおぼしき北の街の総合大学が舞台。理系研究室の日常とちょっとしたSFが面白い。石黒達昌をソフトにした感じ。

なかでも「三年以内に一本も論文を書かない研究者は即、退職せよ」という「研究活動推進振興法第二条」、通称「出すか出されるか法」が制定されているという設定が秀逸。論文執筆の苦悩がより深刻なものとなっていて、物語が生まれてくる。

ぜひ、同じ世界観の小説を書き続けてほしい。作者が理系であることから、生命科学研究所・数学科・理学部などが主な舞台となっているけど、今後は文系バージョンも読んでみたい。

2011年12月13日火曜日

梁職貢図と倭

国際シンポジウム (國學院大學文学部共同研究)
「梁職貢図と倭―5~6世紀の東ユーラシア世界―」
日時:2012年1月21日(土)10:00~17:30
会場:國學院大學渋谷キャンパス百周年記念2号館2階2202教室

講演
王素「梁職貢図と西域」
李成市「梁職貢図の朝鮮諸国」
金子修一「中国南朝と東南諸国」
新川登亀男「梁職貢図と仏教」
廣瀬憲雄「中国王朝と倭と東部ユーラシア」
コメント:石見清裕・片山章雄・河上麻由子・赤羽目匡由
司会:佐藤長門・鈴木靖民

記憶の歴史学

金子拓『記憶の歴史学―史料に見る戦国』(講談社選書メチエ、2011年12月)

戦国時代を舞台に、「記憶」をキーワードとして、過去の出来事と史料の関係、史料から生み出される歴史について考察。日記・覚書・文書などを使って、些細な事件(信長の賀茂競馬見物や細川ガラシャの死など)を取り上げ、人間または人間集団に記憶されたできごとが、どのように歴史となっていくかに迫っている。特に第五章「覚書と記憶」で扱われている上杉家・佐竹家の「集合的記憶」の問題は、大いに参考になった。

中国化する日本

與那覇潤『中国化する日本―日中「文明の衝突」一千年史』(文藝春秋、2011年11月)

タイトルと装丁と出版社を見て、手に取ることすらしてなかったのだけど、先日、本屋でなんとなく気になって少し立ち読みしたところ、なかなか面白そうなので購入。

歴史(人類の進歩)は宋代に終わっていた、という衝撃の第一章を皮切りに、中世から現代までの日本史を「中国化」・「再江戸化」で再構築している。最新の学説・定説・学界の常識(筆者が言うほど学界の常識になってないものも結構あるけど)を踏まえて、ここまで斬新な日本史・世界史解釈を展開できるとは。あちこちに見える左右両方に対する皮肉や揶揄も面白い。

違う文脈で書かれた研究を自分の都合のいいように切り貼りしただけという批判も成り立ちうるだろうけど、そもそも通史というのは、そういうものだし、これだけ面白いものに仕上がっていればいいような気がする。