ランドール・ササキ『沈没船が教える世界史』(メディアファクトリー新書、2010年12月)
水中考古学の概説書。欧米で盛んな学問であるため、アジアについてはちょっと薄め。ただ、第1章「大航海時代とカリブの海賊」、第2章「ヨーロッパを作った船たち」もおもしろい。キャプテン・キッドや「黒ひげ」の海賊船、アルマダ艦隊なども発見されているとは。
第3章は「沈没船が塗り替えるアジアの歴史」。泉州沈没船・新安沈没船にはあっさりふれるのみだが、日本の鷹島の元寇船についてはやや詳しく紹介している。ただ、元に関する記述が、やや古めかしいのが残念。
最も興味深かったのは、陳朝(大越・ヴェトナム)の陳興道が、元軍を撃退した白藤江の戦い跡から、戦いに用いた木杭が発見されたという記事。さらに現在、沈没船を探査中らしい。
水中考古学の魅力については第1章~第3章で思う存分伝わってきたのだが、現実をみせつけられるのが、第4章「沈没船発見マニュアル」と第5章「新しい真実を探して」。調査が難しいだけでなく、多額の費用もかかるし、保存処理も大変。しかも、民間業者による盗掘も多いし、開発で破壊されることもあるらしい。日本は行政的にも立ち遅れているようだ。