角張淳一『旧石器捏造事件の研究』(鳥影社、2010年5月)
不覚なことに、かなり前に出ていたのに気付きませんでした。
別の本を探していて、偶然発見。目次をみて即座に購入しました。
章立は次の通り。
第一章「旧石器捏造事件とはどんな事件か」
第二章「捏造事件の本質と構造」
第三章「石器研究法から見た捏造事件」
第四章「学史からみた捏造事件」
第五章「あとがきにかえて―捏造事件から未来の考古学へ」
衝撃の旧石器捏造事件の発覚から、10年が経とうとしています。
その後の「検証」で、1975年頃から約25年にわたる捏造が明らかとなり、
旧石器考古学が根底から覆されてしまいました。
さて、この事件については、毎日新聞の一連の記事と
毎日新聞の取材班がまとめた『発掘捏造』(新潮文庫、2003年6月、初版2001年)と『古代史捏造』(新潮文庫、2003年10月、初版2002年)を読んだだけです。2003年にぶあつい報告書が出たのは知ってましたが、考古学専攻ではないし、そもそも古書価格が高いこともあって読んでません。その後、いつしか興味も薄れ、関連書籍を追いかけることはしていませんでした。
本書の著者は、捏造発覚前に疑問を明示していた数少ない研究者の一人です。
今回、『旧石器捏造事件の研究』を読んで、別の意味で大きなショックを受けました。本書では、第一章で捏造事件と考古学協会特別委員会の「検証」のあらましを述べた後、第二章で詳細に捏造事件の構造について分析しています。
捏造事件はおおまかにみると、
前半期(70年代後半~90年代初頭)の公的機関による発掘下で行われた、
「理論」に合致した緻密な捏造と、
後半期(90年初頭~2000年)の東北旧石器文化研究所設立後の
縄文石器に酷似する石器を用いた雑な捏造の二期にわかれるとし、
様々な角度から前半期の捏造が根拠としたと思われる「理論」について詳細な検討を加えています。果たして前半期の捏造は、専門的訓練を受けていないアマチュアに可能なのだろうか。
そこで示唆されている旧石器捏造事件の構造は、まことに恐るべきものです。
そして第四章によれば、その構造は、遡って岩宿遺跡の発見にもうかがえるとしています。(ただし、岩宿遺跡の「第一発見者」である相沢忠洋氏は、その構造に含まれていないとしています)
果たして、本書で指摘されている構造が、事実であるか否かは
考古学の素人である僕には、よくわかりません。
ただ、少なくとも「理論」の危うさに関する指摘は、説得力あったように思います。
しっかりとした書評がなされることを願うばかりです。
ひとまず来年の回顧と展望の要チェック項目が一つ増えました。
さてさて、とりあえず次は、昨日出たばかりの、
岡村道雄『旧石器遺跡捏造事件』(山川出版社、2010年11月)を
早急に購入して読んでみたいと思います。