渡辺守邦『表紙裏の書誌学』(笠間書院、2012年12月)
この題名を見たとき、すぐに連想したのが、戦後になって再発見された北村透谷の「楚囚の詩」(明治時代の書物の材料として使われていた)。確か紀田順一郎の小説で、その話を知った気がする。
本書は、近世初期の板本(1640~50年代頃まで)の表紙の補強材として使われた反故紙に、古活字本などが使用されていることに着目し、ワークショップや調査を通じて、表紙裏反故紙の活用を提唱している。
次々に貴重な反故紙が登場し、宝探しのような気分になる。綿密な調査で反故紙の書誌情報を特定していて、参考図版も鮮明。ただし、近世初期の板本自体が、すでに貴重書であることから、文物破壊との指摘があることも忘れてはいない。原状復帰を原則としているが、第三章で論じているように、原状復帰とも反故紙の別置とも異なる新しい保存法も模索している。
目次は以下の通り。
第一章 表紙裏反古の諸問題 *材料は『闕疑抄』
第二章 ワークショップ報告「表紙裏から反古が出た」
*材料は『黒谷上人語燈録』・観世流の卯月本・『全九集』・『清水物語』
第三章 表紙裏反古の保存法について―国立公文書館蔵の嵯峨本『史記』を中心に
第四章 表紙裏反古の諸問題・続考 東京大学附属図書館蔵『鴉鷺物語』の場合
追録 小山正文「寛永二十年版『黒谷上人語燈録』の表紙裏より抽出された宗存版」
古活字本の漢籍・和書・仏教書が次々に出てきて飽きない。第一章で取り上げられた表紙屋の大福帳は、当時、出回っていた書籍の一端を示してくれて面白い。
読んでてついつい笑ってしまったのが、第二章の『全九集』。幸運にも本を解体することなく、反故紙の由来を明らかにでき、多大な成果が得られたにもかかわらず、実際の解体作業をせずに、解決してしまったので、会場の雰囲気がいま一つ盛り上がらなかったこと。
そして、その場の雰囲気を予想して準備した『清水物語』を、初参加の二人の女性に解体してもらったところ、「作業テーブルを囲んで輪ができ、周囲からアドバイスが飛び交ってその場の陽気なこと」。このワークショップの参加者は、研究者が多かったようなのだが、やはり宝探し的なわくわく感が、どこかにあったに違いない。