上田早夕里『華竜の宮』(早川書房、2010年10月)
ハヤカワSFシリーズ Jコレクションの一冊。このブログでは、これまで小説の類は紹介してこなかったので、書くか迷ったのですが、他に媒体もないので書いてみます。SF小説に興味ない方は飛ばしてください。
先日見に行ったトランスフォーメーション展の影響で、なんだか無性にSF小説が読みたくなってしまい、いくつか立ち読みした中で、おもしろそうだと思って購入。
海底隆起で、多くの陸地が水没した25世紀が舞台。未曾有の混乱を乗り越えるため、積極的に生命操作技術を活用し、人体に応用していった結果、海に適応した海上民が誕生。陸上民と海上民の確執、各国家連合の思惑、そして再び大変動の兆しが……。
まさしく、「変身―変容」の世界。久しぶりにSF小説を読んだけど、引き込まれて、586頁を一気に読んでしまった。
で、今回の小説の舞台はアジア海域。日本政府の末端外交官が主人公なのだけど、中国系の人々も多数登場する。こちらもなかなか魅力的。ただ、SF小説の中の中国系政府は、たいてい非人道的に描かれているが、『華竜の宮』でもひどいことばかりやっている。プロローグで描かれる混乱期には、殺到した避難民を殺戮する人工知性体(殺戮知性体)を世界で初めて発明している。なんだかコードウェイナー・スミスのマンショニャッガー(=人間狩猟機)みたいな設定(なお、1950年代に書かれたためか、こちらはドイツ人が発明)。本編でも、中国が中心となっている〈汎アジア連合〉は、海上民の虐殺に乗り出している。
ここがどうも気にかかる。
SF小説は、未来を扱うことが多いのだけど、当然のことながら、小説が書かれた時期の国家イメージが反映されてしまう。多分、昔は中国が出てくることすらあまりなかったのではなかろうか。その昔、ドイツやソ連が荷っていた(であろう)SF小説中の役割を、今は中国が荷っているのかもしれない。欧米や日本で傾向が違うかもしれないし、そんなにSF小説読んでないから、実際のとこはわかりませんが。調べてみたら面白いかも。
ちなみに、日本政府は相変わらず、官僚主義な上に、汎アジア連合ではなく、欧米・太平洋連合の〈ネジェス〉に加入している。まぁ、これは現在の状況そのままですね。