2010年1月27日水曜日

近代史学史再考

『歴史学研究』863号(2010年2月号)の小特集は、
「近代史学史再考―アジアの事例から―」。
中国・イラン・タイ・マレーの事例を取り上げている。

吉澤誠一郎「中国における近代史学の形成―梁啓超「新史学」再読―」
守川知子「「イラン史」の誕生」
小泉順子「『ラタナコーシン王朝年代記』の改訂と史料編纂」
左右田直規「植民地教育と近代歴史学―英領マラヤのマレー語歴史教科書に関する一考察―」
コメント:宮地正人

どれも面白かったのですが、個人的には守川論文と小泉論文が印象的でした。
守川論文は、「イラン」地域において、「イラン史」という枠組み自体が、
19世紀後半にヨーロッパから受け入れたことを指摘。
英国のマルコム著『ペルシアの歴史』が、1870年~72年にペルシア語訳されたが、その際、使用された書名が「イランの歴史」であり、
この本がペルシア語で発表された最初の「イラン史」であるとする。
『ペルシアの歴史』の翻訳者(ヘイラト)については、特に言及されていませんでしたが、どんな人なのかちょっと気になります。

小泉論文は、19世紀半ば頃に作られた年代記と20世紀に作られた改訂版年代記で、タイと清朝の関係についての記述が大幅に変更されており、 朝貢関係の記事が、加筆・修正・削除されていることを指摘。 年代記の改訂に、20世紀初頭のタイ内外の政治状況が反映されているとする。
ずいぶん前に、20世紀のタイでどのように「歴史」・「伝統」が創出されたかを論じた小泉順子『歴史叙述とナショナリズム―タイ近代史批判序説―』(東京大学出版会、2006年)を読んで、史学史の重要性を感じたことを思い出しました。

東アジア海文明の歴史と環境

国際シンポジウム「東アジア海文明の歴史と環境―中韓日研究者の語る東アジア海文明の未来像―」
日時:2010年2月27日(土)・28日(日)
会場:学習院大学西2号館

2月27日(土) 学習院大学西2号館201教室
13:00~13:10 趣旨説明
13:10~14:20 張東翼「高麗時代対外関係の諸相」
14:30~15:40 安介生「中国魏晋南北朝時期の海洋認識について」
16:00~17:10 佐藤洋一郎「稲作からみた東アジア海文明の環境史」

2月28日(日) 9:20~12:30部会報告
第Ⅰ部会 東アジア海文明における交流―列島・半島・大陸― 西2号館306教室
 鐘江宏之「藤原京造営期の日本における外来知識の摂取と内政方針」
 李文基「墓誌から見た在唐高句麗遺民の先祖意識」
 森部豊「7~8世紀の北アジア世界と安史の乱」
 呉吉煥「百済初期王系の成立について」
 畑中彩子「長登銅山にみる日本古代の銅山経営と流通」

第Ⅱ部会 越境するモノ・情報・認識 西2号館305教室
 禹仁秀「明清交替期の台湾鄭氏海上勢力に対する朝鮮の情報蒐集と対応」
 洪性鳩「韓国と満洲―満洲理解の歴史―」
 金知恩「朝鮮後期の星湖李瀷の東アジア観」
 荒川正明「福建と日本の陶磁」
 家永遵嗣「15世紀室町幕府の「辺境」認識の成立条件―将軍近臣と北辺・西辺の在地勢力―」

第Ⅲ部会 中国古代の地域と古環境の復元 西2号館304教室
 濱川栄「漢代徙民考」
 中村威也「里耶秦簡から見た民族と支配」
 長谷川順二「前漢期黄河故河道の復元―山東省聊城市~平原県~徳州市―」
 惠多谷雅弘「衛星リモートセンシングデータの古環境・遺跡調査への応用とその有効性について」
 黄暁芬「秦直道の調査と認識」

第Ⅳ部会 東方大平原における水運と流通 西2号館204教室
 樊如森「民国時期の黄河水運」
 市来弘志「五胡十六国北朝期の黄河下流における牧畜民の活動」
 水野卓「春秋邗溝考」
 青木俊介「邗溝と漢代東方水上交通」
 菅野恵美「山東地域における交通と図像の流通について」

第Ⅴ部会 東アジアの環境史―水利・技術・災害― 西2号館205教室
 村松弘一「東アジア史における陂と塢」
 小山田宏一「東アジア海沿岸低地の開発類型―鑑湖・碧骨堤・東大寺領名荘」
 大川裕子「銭塘江逆流と鑑湖―古代江南開発の再検討―」
 段偉「水利と災害からみた東アジア史―自然災害と中国古代の行政区の変遷」
 鄒怡「1391~2006年の龍感湖―太白湖流域の人口推移と湖の堆積物との呼応性―」

13:30~15:30 総括・討論
15:45~16:45 
 鶴間和幸「東アジア海文明の歴史と環境―5年間を振り返って―」


学習院大学主催の大型国際シンポジウム。
「東アジア海文明」は、まだいまいちピンとこないけど、
これだけのメンバーを集めたのは本当にすごい。