2010年4月28日水曜日
正倉院文書の世界
1万点以上ある正倉院文書の中から、
漢籍・僧侶名簿・戸籍・行政文書・写経事業などを取り上げ、
奈良時代の社会を描き出している。
第一章「聖武天皇と光明皇后」では、
『雑集』と聖武天皇の仏教政策との関係を指摘し、
聖武天皇にとって座右の書であった可能性を述べている。
個人的に一番面白かったのは、第六章「国家プロジェクトを支えた人々」。
写経事業を荷った写経生たちの日常が浮かび上がってくる。
そういえば、ちょうど去年の正倉院展では、
写経生の減給規定(誤字・脱字があったり、見逃したら減給)の文書を
展示していたなぁ。
2010年4月25日日曜日
歌川国芳―奇と笑いの木版画
行ってきました。
これまで特に浮世絵には興味なかったのですが、
歌川国芳の「奇と笑い」に焦点を当てていて、
さらに裏テーマとして「猫」があると知り、
だんだん、行ってみたくなったわけです。
ポスターもいい感じ。
巨大な魚の上に、別の浮世絵から踊る猫を持ってきている。
「猫もがんばっています」とあるけど、踊ってるだけだしなぁ。
展示会場は、おおまかにわけて三部構成。
第一部「国芳画業の変遷」は、国芳の生涯をたどりつつ作品を展示。
彼の出世作「通俗水滸伝豪傑百八人一個」も見ることができる。
第二部「国芳の筆を楽しむ」は、肉筆や風景画から国芳の特色を見せる。
そして第三部「もう一つの真骨頂」では、
「奇と笑いと猫の画家」として、彼の戯画や猫作品を展示している。
第一部・第二部ともに面白かったのですが、
なんといっても第三部が一番でした。
三枚つながりの作品、例えば「鬼若丸と大緋鯉」や「宮本武蔵と巨鯨」などの
迫力もものすごかったけど、
動物を擬人化した「道外獣の雨やどり」や、
ひな人形が喧嘩していて、犬の張り子が止めに入る
「道外十二月 三月ひいなのいさかい」といった作品がとても楽しい。
人形だから顔色変えないままで喧嘩している。止めに入った張り子も笑顔のまま。
けっこう凄惨な場面のはずだけど、緊迫感がない。
そしてたくさんの猫たち。
美人画の猫たちもあくまで浮世絵なんだけど、なんだかリアル。

他にも猫を擬人化した「くつろぐ夏の猫美人たち」や、
「おぼろ月猫の盛り」(吉原の猫版)、「流行猫の曲手まり」もいい感じ。
着物の柄に鈴や小判やタコをあしらっていて、
細部まで遊び心がつまってる。
東海道五十三次にかけた「猫飼好五十三疋」は、
東海道の宿駅をもじって猫の仕草にあてている。
例えば、戸塚は「はつか」、藤沢は「ぶちさば」、
保土ヶ谷は「のどかい」大磯は「おもいぞ」といった感じ。
まぁ、少々無理なもじりもあるけど、描かれた猫はどれも愛嬌ある。
歌川国芳の猫好きが伝わる楽しい作品。
それにしても江戸時代って、
面白い作品が次々生まれた時代なんだなぁ、と改めて実感。
「歌川国芳―奇と笑いの木版画」展は、
府中市美術館で5月9日まで開催中。
料金は、大人600円・学生300円とすこぶるお得。
『水滸伝』の衝撃
『アジア遊学』の最新号は水滸伝特集。
「中国における成立と展開」・「東アジア言語文化圏の中で」・
「水滸伝と日本人」の三部構成。
目次は以下の通り。
○中国における成立と展開
佐竹靖彦「水滸伝の時代―江湖無頼の英雄から中華の英雄へ」
佐藤晴彦「『水滸傳』は何時ごろできたのか?―異体字の観点からの試論」
小松謙「水滸雑劇の世界―『水滸伝』成立以前の梁山泊物語」
笠井直美「誰が小衙内を殺したか―『水滸伝』における「宣言としての暴力」の馴致」
周以量「明清の水滸伝」
劉岸偉「李卓吾は何故『水滸伝』を批評したのか」
岩崎菜子「現代中国の伝統文化復興と蘇る『水滸伝』もの」
○東アジア言語文化圏の中で
竹越孝「『語録解』と『水滸伝』」
岡田袈裟男「異言語接触と『水滸伝』注解書群」
小田切文洋「水滸語彙への関心と水滸辞書の成立」
奥村佳代子「岡島冠山の唐話資料と『忠義水滸伝』―「水滸伝」読解に与えた見えない影響」
稲田篤信「平賀中南―「水滸抄訳序」注解」
中村綾「『水滸伝』和刻本と通俗本―『忠義水滸伝解』凡例と金聖歎本をめぐって」
○水滸伝と日本人
渡邉さやか「『本朝水滸伝』と弘前の祭礼」
田中則雄「水滸伝と白話小説家たち」
小澤笑理子「上田秋成と『水滸伝』一考察―魯智深で読む「樊噲」」
井上啓治「京伝『忠臣水滸伝』と『水滸伝』三種」
藤沢毅「栗杖亭鬼卵作『浪華侠夫伝』―枠組みと反体制としての「水滸伝」」
鈴木圭一「建久酔故傳」
神田正行「『水滸伝』の続書と馬琴」
黄智暉「曲亭馬琴における「翻案」と「続編」の問題―『水滸伝』と『水滸後伝』の受容をめぐって」
石川秀巳「〈江戸の水滸伝〉としての『南総里見八犬伝』」
佐藤悟「『傾城水滸伝』の衝撃」
安田孝「露伴の翻案・翻訳」
どちらかといえば日本における『水滸伝』受容がメイン。
竹越孝「『語録解』と『水滸伝』」は、
朝鮮で作られた水滸伝語彙辞典を取り上げている。
2010年4月22日木曜日
日中歴史認識
中国侵略の青写真を描いたとされる「田中上奏文」について、
従来の研究が偽造と断定するのみであったのに対し、
いつ・どこで作られたのか、どのような国際的影響を与えたのか、
米・ソ・中・台において、どのように認識されてきたのか、
そして今現在、どのように認識されているのかに迫ったもの。
「田中上奏文」の真偽問題を超えて、
その影響力について本格的に研究した研究書。
「田中上奏文」の形成過程から、近年の外務省の対応、
さらには日中歴史共同研究における議論まで論じられていて、
大変面白く、一気に読んでしまった。
中国古代貨幣経済史研究の諸潮流とその展開過程
近年、中国古代貨幣経済史の研究成果を続々発表している柿沼氏による学説史整理。
主に中国古代経済史の大まかな流れをつかもうとする
「マクロ歴史学的研究」について研究整理をしている。
戦前に登場した「中国古代貨幣経済史盛衰論」から、
経済人類学の成果を踏まえた最新の研究(特に佐原康夫氏)まで丁寧に跡付け、
柿沼氏の一連の論稿の「学説史的土壌の史的変遷とその現状と」を確認している。
2010年4月17日土曜日
日本政治思想史[十七~十九世紀]
「本書は、この主題に関心はあるがその専門の研究者ではない、
その意味で「一般」の読者のために、十七・十八・十九世紀の
簡略な通史を提供することをめざして書いた」(474頁)
と述べている通り、『東アジアの王権と思想』の著者が
「一般」向けに書いた17~19世紀の広くて深い思想史概説。
儒学の説明(第1章)からはじまり、
福沢諭吉・中江兆民(第21・22章)で終わる序章+22章構成。
順をおって読むだけで、江戸~明治初の思想史の流れがスムーズに入ってくる。
江戸思想史に欠かせない儒学・朱子学の解説もとってもわかりやすくて親切。
徳川政治体制(御威光)、儒学の摂取、
伊藤仁斎・新井白石・荻生徂徠・安藤昌益・本居宣長・海保清陵などの思想家、
江戸時代の「御百姓」・「日本」・「西洋」・「性」、とテーマも幅広くて面白い。
幕末の「開国」問題・「文明開化」など、漠然と持っていた明治維新イメージを
さらりと変えてくれるのも楽しい。
2010年4月16日金曜日
サントリー学芸賞選評集
非売品なのだけど、古本屋の店頭ワゴンにあったので思わず購入。
サントリー文化財団三十周年記念で作成。
これまでのサントリー学芸賞受賞全作品の選評がのっている。
こんな本も受賞してたんだ~、という驚きもあるけど、
それよりも、こんな人が選評してるんだ!という驚きの方がすごい。
過去の受賞者から選んでいるようだけど、その基準がばらばらでよくわからない。
思想・歴史部門には、
谷沢永一・西部邁がいるかと思えば、木村尚三郎や山内昌之もやってるし。
他の部門では、小松左京とか辻静雄あたりが、ちょっと異色。
大岡信・開高健・養老孟司・桐島洋子も意外だった。
今の思想歴史部門は、鷲田清一・鹿島茂・御厨貴・田中明彦・岩井克人。
中国関係の受賞作で驚いたのは、
1989年思想・歴史部門の堀池信夫『漢魏思想史研究』(明治書院)。
選評は木村尚三郎がやっている。
以下に中国関係受賞作品の名前を列挙します。
○政治・経済部門
『北京烈烈』 『中華帝国の構造と世界経済』 『アジア間貿易の形成と構造』
『蒋経国と李登輝』 『中国台頭』 『中国近代外交の形成』
『現代中国の政治と官僚制』 『属国と自主のあいだ』
○芸術・文学部門
『近代中国と「恋愛」の発見』 『楽人の都・上海』 『京劇』
『花鳥・山水画を読み解く』 『漢文脈の近代』
○社会・風俗部門
『東洋人の悲哀』 『蒼頡たちの宴』 『東アジアの思想風景』
『中国料理の迷宮』 『闘蟋』
○思想・歴史部門
『チベットのモーツァルト』 『漢魏思想史研究』 『クビライの挑戦』
『東トルキスタン共和国研究』 『清帝国とチベット問題』
2010年4月13日火曜日
遼金における正統観をめぐって
遼・金において、中華意識・正統思想が出現していたことを指摘し、
従来の「征服王朝論」と齟齬する面があるとする。
特に、遼・金の徳運採択の実態を分析し、
金における徳運変更の議論が、北魏の徳運変更の過程と
類似していることを明らかにしている。
遼と宋が相互に北朝・南朝という自己意識を持っていたことは、
毛利英介「十一世紀後半における北宋の国際的地位について―宋麗通交再開と契丹の存在を手掛かりに―」(『『宋代中国』の相対化』汲古書院、2009年7月)で指摘されていたが、さらに正統思想・徳運から、遼金の自己意識に迫っていて、
興味深かった。
遣唐使船再現プロジェクト「春日大社シンポジウム」
日程:2010年4月24日(土)・25日(日)
会場:春日大社(感謝・共生の館)
定員 24・25日(各日):300名(応募多数の場合は抽選)
申込み方法:遣唐使船再現プロジェクトの「応募フォーム」より申込み
4月24日(土)
10:30~10:40 開会式 祝辞/花山院弘匡(春日大社宮司)
10:40~11:00 角川歴彦「遣唐使船再現計画について」
11:00~12:00 鈴木靖民「遣唐使と古代の東アジア」
13:15~13:55 上野 誠「遣唐使と歌」
14:00~14:50 森 公章「遣唐留学者の役割」
15:40~16:30 榎本淳一「来日した唐人たち」
4月25日(日)
9:30~10:10 上田正昭「遣唐使と天平文化」
10:15~10:55 武内孝善「最澄・空海と霊仙」
11:05~11:55 王 巍「阿倍仲麻呂と玄宗・楊貴妃の長安」
13:00~13:25 西山明彦「鑑真和上と唐招提寺」
13:30~14:20 田中史生「最後の遣唐使と円仁の入唐求法」
15:10~16:00 河添房江「遣唐使と唐物への憧憬」
角川文化振興財団が企画する遣唐使船再現プロジェクト。
遣唐使船を再現し、大阪・呉・五島列島を経て、万博で沸き立つ上海へ。
実際に遣唐使船で中国にわたるわけではないようですが、
各港で行われるイベントの漕ぎ手ボランティアも募集しているようです。
2010年4月11日日曜日
漢文スタイル
東京大学出版会の『UP』に連載している「漢文ノート」を芯に、
一般向けの文章を集めたエッセイ集。
前作の『漢文脈と近代日本―もう一つのことばの世界』(NHKブックス、2007年2月)が、「漢詩文を軸に、近代文学と現代日本語の成立を書き直す」と帯にあるように、近代日本が舞台だったのに対し、
今回のエッセイ集は、古典詩文が多く取り上げられている。
中島敦『山月記』の「嘯」の解釈、
ホトトギスの表記と徳富蘆花『不如帰』や正岡子規の筆名についてなどなど、
近代日本の漢文脈と古典詩文解釈が有機的に結びついていて、
読んでて飽きない。
