2013年7月7日日曜日

内藤湖南とアジア認識

山田智・黒川みどり共編『内藤湖南とアジア認識―日本近代思想史からみる』(勉誠出版、2013年5月)

これまで主に中国史研究者によって行われてきた内藤湖南批判と反批判の限界を指摘し、日本近代思想史の文脈から、内藤湖南を読み解こうとする試み。

目次は以下の通り。
第一部 内藤史学の形成
黒川みどり「文明中心移動説の形成」
田澤晴子「内藤湖南における二つの「近代」と「政治」」
小嶋茂稔「近代日本における「東洋史」の形成と湖南の中国史」
山田智「内藤湖南の朝鮮観と「東洋史」―アジア認識の構造化のため」

第二部 内藤神話への問い
與那覇潤「史学の黙示録―『新支那論』ノート」
小嶋茂稔「戦前期東洋史学における湖南学説の受容をめぐって」
姜海守「朝鮮をぬきにして「支那(学)」は語れるか―内藤湖南の「日本文化史」叙述にみられる朝鮮認識をめぐって」

松本三之介「国家と社会をめぐる思想史的素描」


読みごたえある論稿が並んでいる。
増淵龍夫・フォーゲル・子安宣邦に続く内藤湖南研究の必読書。
従来から悪評高い「文明中心移動説」以外にも、
内藤湖南の時代区分論(宋代以降近世説)についても鋭いメスを入れている。
また、全集未収録文章をもとに、これまで等閑視されてきた
内藤湖南の朝鮮観についても論じている。

なかでも最もおもしろかったのが、
「戦前期東洋史学における湖南学説の受容をめぐって」。
内藤湖南の学説の受容状況を分析し、
戦前期東洋史学界における内藤湖南の位置を浮き彫りにする試み。
戦前の東洋史研究者(特に東京の若手研究者)に
内藤湖南の学説がさして影響を与えておらず、
戦後の講義録の出版と、戦後中国史学の諸論争の中で、
権威性を持つにいたったとする。ぜひ続編を書いてほしい。

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