ジョン・R・マクレー著、小川隆解説『虚構ゆえの真実―新中国禅宗史』(大蔵出版、2012年5月)
出版直後から、『虚構ゆえの真実』というタイトルに魅かれて、気になっていたのだけれど、禅宗史という慣れないジャンルであることから、敬遠してしまっていた。しかし、最近、わけあって、小川隆氏の唐代の禅宗に関する本を三冊読んだので、チャレンジしてみることに。冒頭で小川隆氏が、従来の禅宗理解とマクレー氏の著作の新しさ・課題を解説していて、入りやすい。
目次は以下の通り。
小川隆解説「破家散宅の書」
第一章「法系を見る―禅仏教についての新しい視座」
第二章「発端―菩提達摩と東山法門を区別しつつ接続する」
第三章「首都禅―朝廷の外護と禅のスタイル」
第四章「機縁問答の謎―誰が、何を、いつ、どこで?」
第五章「禅と資金調達の法―宋代における宗教的活力と制度的独占」
第六章「クライマックス・パラダイム―宋代禅における文化的両義性と自己修養の諸類型」
一見してわかるとおり、通常の仏教史とは全く違ったスタイルをとっている。従来の伝灯・法系を軸とした禅宗史を宋代に構築された「虚構」とみなし、その禅宗史像を白紙に戻して、原始禅(達摩・恵可)、初期禅(600~900頃)、中期禅(750~1000頃)の禅について考え直している。さらに、「虚構」と言って切り捨てるのではなく、「虚構」であるがゆえに重要であるとして、宋代の禅についても検討している。
ジャンル・時代は違えど、今、考えている問題と、方法論・問題意識の点で大いに参考になった。本書中で多くの課題・研究テーマを開拓しているが、マクレー氏は2011年10月に64歳で亡くなってしまったため、今後の発展を見ることはできない。非常に残念。
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